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第1幕 第2章 伝説の真実

AD:2014 神話ミュトスに名を刻まれし最後の少年――ルイは不死鳥と養父アイルに導かれ古の都・ミルミスラに到着す。

 彼は、幼馴染のラン、人間恐怖症のセーヌを連れ、アントの森を目指す。


  これより最後の神話ミュトスが始まる――



Light and Darkness ―封じられた記憶― 第1幕 第2章



「次、どっち?」

「えっと、右です……」


ルイはセーヌの手を引きながら歩いていた。

ランは感じていた。自分達がこの街に入ってきたとき浴びせられた目線と、今の目線の違いを。


こっちの目線のほうがずっと痛い。


けれどルイはまったく気にしていない様子だった。


それもそうだろう。

ルイはセーヌのために何かしたかったんだと思う。

人間恐怖症――昔の自分のような彼女を。


「あ、そうだ」


ルイは急に足を止めた。

そのおかげでセーヌはルイの背中に思いっきりぶつかった。


「――っ!」

「…!あ、ごめん。大丈夫?」


セーヌは急に青白くなって後ずさりした。


「……前のときと一緒だな……」


ルイは頭をかきながら、セーヌに手を伸ばした。

セーヌはその手をとろうとして、やめた。


「や、やっぱり私といないほうが……いいです……。気づいてるでしょう?私、街の人たちにどう見られてるか――」

「うん、知ってる。けど……、関係ないかなって」

「え……?」


不思議そうにみつめるセーヌをよそにルイは話題を変えた。


「そう、さっき止まったのは、俺、名前言ってなかったからさ。俺、ルイ・ミルラード。で、こっちはラン・ミルラード。君は?」


セーヌは、困ったような顔した。


「……怖く……ないんですか?私がしたこと何も知らないのに……?」


ランはセーヌの肩を叩いた。


「大丈夫。あんたが何をしたかは知らないけど、そのことは話したいときに話してくれればいいよ。無理には聞かないし、聞こうとも思わないから。それに、私達も余所者だから異端視されてるのは一緒みたいだし」


セーヌは俯いた。そして、小さく呟いた。


「セルフィーヌ……セルフィーヌ・セリナヴィード。長いから、セーヌってパパは呼んでます」


ルイは笑った。


「行こうぜ!、セーヌ」

「……はい!」


セーヌはこのとき初めてルイたちの前で笑った。


                              ∽



「うわ……。マジの厳戒態勢でいらっしゃる……。」


ルイは小さな声で呟いた。草陰に隠れているが、今アントの森についたのである。


「だからいったんです……。どうするんですか?」


セーヌはルイを見つめた。ルイは黙ったまま動かない。


「ラン、あそこの木にファイアボールを打て」


はぁ?とランは反発する。


「なんでお仕事中の人を邪魔しなきゃいけないのよ。」


と批判の目をルイにむける。

ルイは手を合わせて言った。


「それしか入る方法なし。頼む。お前しかいないんだ。」


ランは観念したように目を閉じた。


「……分かったわよ。はぁ、今日私なんだかこんなのばっかり」


ランは呪文を唱え始めた。

ランは魔法を使えるフィルとよばれる人間である。


「ファイアボール!」


すると、木に火の玉があたる。木は燃え出し、兵士の意識はそちらに集中する。


「いまだ!」


ルイが走り出したのをきっかけに、二人もつられて走り出した。

3人の姿は暗い森の中に消えていった。



                              ∽



暗いと思っていた森は、中に入るとそうでもなく明るかった。

魔物もルイとランでなんとかなっている。


「へっ、やっぱり俺でも倒せるだろ?」

「けど、私の魔法じゃなきゃさっきの、ちょっと危なかったわよ。」


と二人が話していると草むらが動いた。


「魔物か!?」


ルイが剣を構えた。


「ま、待ってください!僕は人間ですよ!!」


声をきいて剣を下げる。

金髪の無造作にはねた髪、やけにポケットの多い服。歳は20歳前後だろう。緑の瞳は驚きでいっぱいになっている。

その男はいきなりルイの肩をつかみこういった。


「ミアス!?どうして、何故ここに居るんです!?」


肩をとても強い力で揺されながらルイはいった。


「あ、あのぉ……。俺、ミアスって人じゃなくてルイ、っていうんですけど……」


肩の力が弱まる。


「……。え……?ルイ……?……す、すみません!あなたにとても似た人を知っていたものですから……」


と頭をかいた。どうやら誤解はとけたようだ。

すると今度は怪しげにルイたちを見た。


「ところで、どうしてこんな子供がこの森にいるのですか?許可書を持っているんですか?」


3人はぎくっ、とした。


「ああ、持っていないんですね。間違って入ってきた……というわけでもなさそうですし……。悪い子供たちだ。冒険気分のつもりですか?」


にやにやと楽しげに笑っている。ルイはヤバイ、と思って逃げようとした。

こいつに捕まったら、もうこの森に入れなくなるかもしれない。

不死鳥に会わなくてはならないのに!


すると男が困ったようにいった。


「ああ、ちょっと待ってください。あなた方、魔物と戦えますね?」

「え、ああ。でも……」


それを聞くとさっきとは違う人当たりのよさそうな笑みを浮かべる。


「では、こうしましょう。私はベルス・ハイスト。あなたたちが私の護衛をしてくれるというならあなたがたの冒険につきあいましょう。僕は、魔物と戦えないんです。お互い、悪い条件ではないとおもいますが?」


ルイは困った顔をして、ランのほうを向いた。

こういう判断はランのほうがいいとルイは知っているからだ。


「……いいわ。でも、どうして赤の他人である“悪い子供”のためにそこまでしてくれるのかしら?」


あたりまえでしょう、という顔で答える。


「それは、僕が魔物に追われているからですよ?」


と彼の後ろから魔物が出てきた。


「「えええぇ!?」」

「では、交渉成立ということで。3人ともお願いしますね♪」


ルイとランは戦闘態勢に入った。


「おや、あなたは戦わないのですか?」


彼はセーヌをみた。

セーヌは俯き小さな声でこういった。


「私は戦えません。それに……誰かを守ることなんてできません。私ができるのは、傷つけることだけです」


ベルスは、セーヌをしばらくみたあとルイたちを見つめた――。



                              ∽



「こんばんは、ご主人。うちの子供達はどうしてますか?」


息を切らしながらアイルは扉をあける。

ちょうど夕暮れ時。太陽の沈まないこの世界では夜にあたる時間帯だ。


「おかえりなさい。お子さんはうちの娘と出かけましたよ。」

「そうですか……」


ルイはちゃんとあの手帳を読んでくれたのだと安心した。


「あんなに娘を強引に外にひっぱりだした人は初めてですよ……。ありがとうございます」


ミネは笑顔を浮かべた。

それは店でアイルたちを迎えた笑顔ではなく、心からの笑みに見えた。

アイルは、ルイらしいと思った。あの子はどんな相手でも受け止め、心を開いてしまう。


『いい子に育ちましたね……』


アイルは父親としての笑顔を浮かべた。


と、そのとき。

カンカンカンカン……。


警鐘がなり、それと同時に誰かの叫び声がこだまする。


そして、ドドドドドドッ……となにかが押し寄せてくる音がした。


「いったい何事です!?」


アイルは剣の柄をにぎった――。



                              ∽



「セルフィーヌ・セリナヴィードはどこだ。……言え!」


長い銀髪の男……目を隠すような仮面をつけている――が、こちらに剣を向けてきている。言わなければ殺される。……いや、言ったとしても殺されるだろう。


「セーヌをどうする気なんだい?」


セーヌはよく私の店に通っていた子だ。

セーヌは“あんなこと”をした子だけど……悪気は無かったんだ。

みんな変な目であの子を見るけど、あの子はいい子なんだ。

そして、これはなんだい?

あの子にいったい何の力があるっていうんだ?


「お前には関係のないことだ」


ふん、と私は鼻で笑った。


「じゃあ、私も教えるわけにはいけないね。」


男の眼光が厳しくなり、首元に剣があたる。


「うっ……」

「待ってよ。」


黄色に近い茶色の髪を持ち、仮面をつけた少年がこちらにくる。こちらの仮面は顔全体を隠すように。


「あとは僕がするよ。こいつはもう言いそうにないし。あんたは別のやつにでも聞いてきたら?まぁ、聞いていくだけ無駄だと思うけど。ほとんどが僕の水龍で死んでるからね。」


男は怒鳴った。


「殺しすぎだ!もしそのなかにセルフィーヌ・セリナヴィードが入っていたらどうする気だ!!」


少年はあくまで冷静に答えた。


「大丈夫だよ。あっちにはそこまで強い魔力反応はなかったし。人に聞いていくより、そっちで探したほうが早いと思うけどね。あいつはありえないほどの魔力をだしてるんだろ?」

「……うるさい!」


剣が離れ、男はどこかへ去っていく。逃げるなら、今だ!

しかし、体が動かない!


「僕から逃げれるとでも思ってるわけ?まぁ、苦しみながら死といいよ。居場所を言わなかったことを、地獄に堕ちて後悔すれば?」


少年は笑った。


「サヨウナラ」

「う、うわぁぁぁぁ!!!」



                              ∽



「烈風剣!」


剣がうねり風をおこす。


「ファイヤーボール!」


魔物は倒れた。

ランは呆れていった。


「ふぅ……。本当にここにいるのかなぁ、不死鳥」


ルイはランに自信をもって言った。


「いや、いる。なんだか俺、すごくわくわくしてるんだ。」


ランが呆れていうのにたいし、ルイはとてもうれしそうだ。


「あななたちも不死鳥を探しているんですから協力して正解でしたね。僕も不死鳥がここにいると聞いてやってきた人間です。いますよ、確証はありませんが。」


ベルスは相変わらず作ったような笑顔を浮かべている。


「……私も……いると思います……」


セーヌがわずかに笑う。

それをみたルイが笑ってセーヌを見た。


「……やっぱり笑ってたほうがかわいいぜ、セーヌ」

「え……」


セーヌがルイを見つめる。と、ベルスの声がする。


「あの洞窟、怪しくないですか?」

「おお!!行ってみようぜ!」


2人はかけていく。ランは呟いた。


「そういって何回目よ?諦め悪いんだからっ」



                         ∽



「「「うわぁ・・・」」」


3人は声をあわせた。ベルスは興味深げにあたりを見渡している。洞窟の中は真っ暗で、歩いたところが宝石のごとく光っている。


「ここ、めちゃくちゃ怪しいな……。」

「そうね……」


魔物が出ることもなく、進んでいく――。


奥まできた。

ここだけ妙に空間が広い。


「……何もありませんね。」


4人は探し始めた。何かあるかと。


「あ、なんか化石っぽいの発見――。」


ルイは石に手を当てた――と。


「っ――!?」


石は真昼のごとくあたりを黄金の光が支配した。


「な、何事ですか?――!!」


目を開けながらセーヌは叫ぶ。そして前にいるものに皆、声を失った。


『我は、不死鳥と呼ばれるもの。主よ、やっと我を思い出してくれるのか』


その声は頭に直接響いてくるようだった。

体は火と光を浴びて紅に光り輝き、目は何者も貫くような緑の瞳。その瞳が見つめるはひとつ。


――ルイであった。


「不死鳥……。本当に……いた」

『何をいう、主よ。我を作り出したのは主であろう?』


ルイは思い出した。

アイルの手帳に書かれていたこと。

ルイが不死鳥の主であると。


「どういう……ことなんだ?俺がお前をつくったのか?」


不死鳥はうなずいたように見えた。


『我は、主の記憶を核に主の魔力で形創られたもの。我が目覚めるとき、それは主が運命を変えるために伸ばした神話ミュトスが再開されるときだ』


聞きなれない言葉に、ルイは尋ねかえす。


神話ミュトス……?」


不死鳥は語りだした。


神話ミュトス……。それは神が創りし光と闇の物語。神話ミュトス、それは神話ミュトスに書かれし者の記憶に刻まれる物語。主はその神話ミュトスに最後に書かれし者。神話ミュトスに書かれた物語を変えるため、主は私に記憶と魔力を渡されたのだ。そして、主は最後に私にこう言ったのだ。“次にお前の前に現れるときは、僕がお前を――記憶と神話ミュトスを求めるときだ”と。』


ルイは尋ねた。


「難しくてよく分からないけど……お前の中に俺の失った記憶があるってことだろ?それと、神話ミュトスって奴も。」


不死鳥は答えた。


『そうだ、我が体の中にある。主にこれを。』


不死鳥から一枚の羽がこぼれ落ちた。

ルイはそれを拾った。

紅に輝く不死鳥と同じ羽。


「これは……不死鳥伝説の羽……?」


羽がまばゆい光とともに弾けた。



ユリだ。一面ユリが咲いている。


「ここはね、私の一番好きな場所だよ!」


少女が笑った。顔が暗くてよく見えない。

ユリの甘い香りがする。

少女はうれしそうにその間をすりぬけていく。


そのうち一本のユリを摘んで自分に渡した。


「あのね、ここは私しか知らないの!父様や母様には秘密だよ!二人だけの秘密だよ!!」


少女はうれしそうに笑った。

自分はただユリを持って、彼女を見ていた。



ユリが、黒い岩壁に変わった。

まるで、夢から覚めたような感覚だ。


「……さっきのは……?」


そう呟くルイに不死鳥が答える。


『主が見たのは主の失った記憶の一部だ。我が羽は主の記憶と魔力の一部なのだから。世間一般には“不死鳥伝説”というのが広がっているがあれは、真意と違う解釈がなされている。本当の意味、それは、“世界のすべて”とは“神話ミュトス”のこと。“願い”とは“主の願い”。“不死鳥に選ばれし者”とは“主”のこと。』


ルイはあせったように答えた。


「じゃあ、あの伝説も俺のことなのか?でもあの伝説は紀元前からあるものだろう!?」

『すべての真実は神話ミュトスの中に。』


不死鳥はまっすぐにルイを見つめた。


『主は記憶を、真実を、神話ミュトスを受け入れる覚悟があるか?』


ルイは黙り込んだ。

しばらくの沈黙。

ルイがゆっくり口を開いた。


「そんなこと……いきなり聞かれたって分かるはずないだろう!?俺が世界のなんだっていうんだ!俺はただ、心躍る冒険がしたかっただけなんだ!!」


不死鳥はためらうように言った。


『……まだ主には早かったか……。主がその覚悟をもてたとき、我はもう一度主の下に現れよう。』


もう一度洞窟が光輝いた。

目を開けたときそこに不死鳥は居なかった。

と同時にルイが倒れた。


「ルイ!!」


ランが一番にルイに駆け寄った。


「ルイ、ルイ!」


ランが呼びかけてもルイから返事は返ってこない。


ベルスはそんなルイを見ていった。


「……しばらく寝かせておきましょう。これは私の推測ですが、ルイが倒れたのは記憶と魔力が戻った反動ではないでしょうか?そっとしておいたほうがいいでしょう。」



                              ∽



ここは……どこだろう。

感覚が無い。上下左右がない。

空間全体がなんだかむやむやとしている。……早くここからでたい。


手をみる。

……小さいな。まるで3・4歳くらいの子供みたいだ。


『やっと、僕を思い出してくれるの……?』


振り返る。

ボーと、かすんでよく見えない。

けれど、ちいさな男の子、ということだけは分かった。


「誰……?」



                              ∽



隠された真実が動き出す。


すべては、不死鳥に導かれて


羽が舞う 誘うように――



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