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紅の獣は銀竜を  作者: 銀タ
本編
7/42

まさかの参加に






「おっはよおぉぉおん!」


 ――バンッ!

 

「はっ!?」

 

 久しぶりの充実した睡眠をとっていたはずが、突然の乱入者に、慌てて武器を手に取る。何となく見当はついていたが、折角の安眠を妨害してくれた犯人は、やはりアウエルだ。

 勘弁してくれ、と思いながらもう一度布団に潜り込む。まだぬくぬくとした布団の中は極楽だった。

 

「ちょっと!ウイネちゃん、起きてっ!会議いくわよ、会議っ」

「はっ!?何で私が会議に行くんですか!アウエル様だけの予定でしょう!?」

 

 慌てて飛び起きて問いただす。そんな予定は全く聞いていなかった。

 

「昨日ご飯を食べに行ったら、たまたまアウルスト殿に出会ってねぇ。ウイネちゃんも連れていきたいわぁって言ったら、是非って言ってくれたのよ」


 よかったわね!と宣ったアウエルに、俄に殺気立つウイネ。誰が好き好んで会議なんて面倒な物に出たいと思うだろうか。

 

「嫌です、拒否します。じろじろと見世物になるのは目に見えてます」 

「あら、駄目よ。もう行くって言っちゃってるし、拒否権はナシよ!」

 

 にんまりと笑ったアウエルに、ウイネはとびきりのしかめっ面をプレゼントする。いまこの瞬間に、蟲の襲撃でも起こればいいのに、と不謹慎な事を真面目に考えながら。

 

 

 

 結局、嫌々参加する羽目になった会議は、やはり居心地の良いものではなかった。辺境から来た珍しい存在がよほど気になるのか、先程から興味深げな視線をちらちらと感じ、うんざりとする。中でも強烈なのは奥の席に座るウルフェインからの視線だった。

 ……何だか昨日も同じような目に遭った気がする。会議堂に入った時からひどく熱心な視線を感じ、どう反応すれば良いかわからないウイネは、じっと机を見つめながら考えてみる。

 

 ――やはり昨日なにか無礼をしてしまったのか? 

 ――いや、それとも自分達が珍しいから気になるだけか?

 

 よし、と覚悟を決め、視線を上げてウルフェインと目を合わせてみた……はずだった。

 

 ――ウルフェインはウイネではなく、その後ろの窓を見ていた。

 

 自分の思い違いに、あまりの恥ずかしさに居たたまれなくなったウイネは、顔が熱くなるのを感じ咄嗟に俯いた。暫くの間顔を上げる事ができず、じっと机の装飾を意味もなく見ていると、またウルフェインの方から視線を感じる。

 やはり見られてるのでは、と思うが、これでまた勘違いだったら恥ずかしすぎて死ぬ自信がある。結局小心者のウイネは机とにらみ合いを続け、会議が終わるまで顔を上げることができなかった。

 

「それでは、先程の日程で大掃討を開始するということでよろしいか?各軍の配置は先程決めた通りでお願いしたい」

 

 ざわざわとしていた会議をまとめたのは、進行役を任されていたアウルストだ。その言葉に、それぞれ納得したように頷きながら賛同する。

 

「辺境国はこのまま滞在と言うことで良いですね?」

「もちろんいいですわよ」

 

 こちらを見て問いかけられた言葉に、ウイネとアウエルも頷いた。

 

 これにて大陸会議は特に波乱もなく終了となった。後は皆其々がこの会議で決まった事を持ち帰り、いよいよ大掃討となるのである。ウイネ達はこのままウルディルドに滞在し、ウルディルドの騎士団と共に大掃討へ赴く事になっている。

 

「案外あっさり決まったわねぇ」

 

 アウエルは肩が凝ったのか、首をごきごきと回しながら言った。会議が終わったことに少しほっとしたのか、その表情は晴れやかだった。

 

「まぁ、毎度同じ事の繰り返しのような物ですし、特に難しく話し合う事もないのでしょう。そんな事より、こんな所で首を回さないでくだはいよ」

 

 はしたないと嗜めるウイネに、はいはいと笑ったアウエルは、何か思い出したのか顔を輝かせた。

 

「そんな事よりっ!ウイネちゃんったら、なんだか随分熱心に見られてたわねぇ?」

「……やはり見られてましたか」

「そりゃぁもぉ、がっつりと」

 

 他の人達も見てたけどねぇ、と言うアウエルに、勘違いではなかったと分かり思わず安堵する。しかし、見られるという事こそ問題だと我に返り、困惑の表情を浮かべる。

 

「やはり、我々が珍しいのでしょうか。珍獣扱いは勘弁して欲しいのですが」

 

 自分達の物珍しさは分かるが、あまりに見られると気まずく思ってしまう。そんなウイネを横目に、中々に図太いアウエルはひどく楽しそうに笑った。

 

「はっはーん、ふふふっ!珍獣扱いでは無いと思うわよ。とりあえず本人の所にに行くわよ」

「えっ」

 

 まさか真っ正面から聞きに行くのかと顔を少し青ざめさせる。そんなウイネに、アウエルはないないと首を横にふった。

 

「さっすがに違うわよぉ、今後の訓練について話し合いするだけよぉ」

「あぁ、なるほど。それならば早く行かねば帰ってしまわれますよ」

 

 遠目に机の上の資料を集め、帰り支度を始めたウルフェインを見つける。横に居るアウエルを振り返って、どうします? と首をかしげてみせると、何やらまた悪い事を閃いたのか、にやぁと満面の笑みになる。

 

「じゃぁウイネちゃん!よろしく!」

「え……」

 

 いきなり立ち上がったアウエルは、すたこらさっさといつの間に支度を終えていたのか、部屋から出ていく。唖然とするウイネを尻目に、栄養補給よ~!と遠くから声だけが届いた。


 ……ちょっとまて、栄養補給とはなんぞ?これはもしやエスケープと言うやつか、もしかして私が打ち合わせしなければならないのか……。ぐるぐると一人考えていたウイネだが、そんな事を周囲が知る由もなく、徐々に人が少なくなっていく。ふとこのままではウルフェインも帰ってしまうと気がつき、まさに部屋から退出しようとするその人を見つけ、慌てて声を出し駆け寄った。

 

「ウルフェイン殿!ちょ、ちょっと待って下さい!話があるので、少し宜しいでしょうか?いきなりで申し訳ないのですが……」 

「い、いや、大丈夫だ。何か用か」

 

 名前を呼んだ瞬間、ウルフェインが数ミリ飛び上がった気がするが、目の錯覚かと考え直したウイネは話を進める。

 

「いえ、今後の訓練についてよろしければ打ち合わせしたいと思いまして。我々は飛竜と共に戦いますので、ウルディルドの騎士の方々にも戸惑いもありましょうし」

「あ、あぁ、なるほど」

「出来れば、そちらと飛竜と共に訓練をしたいのです。馬達が竜を怖がって使い物にならぬ場合もありますし、我々としても、出来るだけウルディルドの邪魔にならぬようにしたいと思っているので」

 

 少し窺うように話すウイネに、ウルフェインは真面目な顔つきで話を聞く。

 

「確かに、お互い慣れぬ状況では折角の戦力も無駄になるな。ウルディルドの馬は勇猛で知られているから、其処まで心配はいらんと思うが」

「ああ、ウルディルドの馬の事は私もよく耳にしますよ」

「そうか、どちらにせよ竜の飛行なども確認しておきたいし、明日からはそれぞれの訓練と別に、連係訓練を取ろう。一度やってみない事にはこればかりは分からんしな」

「ええ、そうですね」

「では、明日の午後訓練からよろしく頼む」

 

 小さく手をあげ去っていくウルフェインの背中を見送り、人々の視線が突き刺さる居心地の悪い会議堂から退出する。

 

「案外普通の人だった……」

 

 つい溢れ落ちてしまった言葉に、慌てて口を押さえる。きょろきょろと周りに誰も居ない事を確認し、ほっとしながら、それにしても……、といまの会話を思い返す。極々まともに会話出来た彼に、色々あって抱きかけていた苦手意識は無くなった。これなら上手く付き合っていけそうだ、とウルディルドに来てから下がり気味だった気分も上がる。

 

「さて、と」

 

 ――アウエル様を絞めに、いや報告に行かねば

 

 上機嫌になったウイネは、アウエルの居そうな場所の候補を上げ、歩き始める。まず最初に向かうのは、第三騎士寮にあるアウエルの部屋である。

 会議疲れた~!とか言って、部屋で甘いものを食べていそうだ。そう考えると何故か疲れが一気に押し寄せてきて、廊下を歩きながら一人どんより影を背負うウイネの姿は、どこか哀愁が漂っている。取り合えず一発殴ろう、そう考えて訪れた部屋には、意外にもアウエルの姿は無かった。

 此処でないならどこだ?と首を傾げながら考える。生憎、アウエルもウイネもウルディルドに着いたばかりで、城の中は詳しくない。そう変な所には行かないだろうが……と考えるウイネの前を、戦乙女が二人ほど頭を下げて通りすぎていく。

 

「おい、お前達。アウエル様を知らないか?」

「はっはいっ!アウエル様ですか?確か、ルェドゥラのところに……」

「ああ、ありがとう」

「いえっ!お務め御苦労様ですっ!」

 

 会話するのさえ恐れ多いと言わんばかりの態度に、内心少し寂しく思いながら第三演習場に向かう。よほどウイネが近寄りがたいのかはわからないが、あのような反応は日常茶飯事である。ウイネだってまだ年若い娘なのだ、それを少し寂しいと思ってしまう事だってある。

 

「ちょっとウイネちゃん、どーしたのよそんな暗い顔して。誰かに苛められたの?」

 

 下を向いて歩いていて気がつかなかったが、正面からアウエルが歩み寄ってくる。ふと周りを見渡せば、第三演習場の近くの廊下だった。気付かぬ内に、目的地のかなり近くまで来ていたらしい。

 

「いえ、何でもありませんよ。それより、さっきはよくも逃げてくれましたね!」

「あら、もしかして怒ってるのかしらぁ?」

「もしかしなくても怒ってますよ!あ、ウルフェイン殿とはちゃんと話し合ってきましたからね」

 

 目を吊り上げてお説教体制に入ったウイネに、ぱぁっと顔を輝かせて興味津々の様子を見せる。

 

「えっ!何を話したのっ、何か言われたっ!?」

 

 ぐいぐいと迫られ、後ろに仰け反りながら怪訝な表情になる。何を話したも何も、訓練の打合せに決まっている。それを指示したのはアウエルなのに、何故そんな質問をされるのと内心首を傾げながら、報告は報告だ、と話した内容を伝えた。

 

「ええっ、それだけ!?他には何も話してないの!?」

「話してませんよ、何を話す事があるんですか」

「えぇぇえっ!」

 

 駄目じゃないあのヘタレっとブツブツ文句を言う姿を不審に思いながらも、部屋に戻っていいのかわからず、取り合えずその場で待機する。ああ縦社会って辛い、と現実逃避していたウイネに、ようやく落ち着いたアウエルがありがたくない提案をしてきた。

 

「よし、ウイネちゃん、今日は徹夜で女子力講座よぉ!」

「……いえ、私普通に寝たいです。と言うよりも、何故急に女子力講座なんですか、今までそんな事言ったことないですよね?」

「つべこべ言わないのっ、これは命令なんだからねっ!」

「……」

 

 ああ縦社会って辛い、と遠くを見つめ、もう一度現実逃避するのであった。

 




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