まだ頑張りなさい
朝、交通誘導の仕事を終えた田中は、自宅のある木造アパートに帰宅すると、さっそく毛布にくるまった。季節は冬、凍えるような寒さは田中を容赦なく襲うが、それでも彼が暖房機器の一切を使わないのは、電気代節約の為である。
自身の仕事仲間であり、先輩でもある四つ歳上の高橋が仕事中に倒れ、搬送先の病院で亡くなったと聞いたのは昨夜の事だった。
雪の降りしきる深夜、高橋の辛そうに誘導灯を振る姿が、田中の脳裏に蘇る。元々心臓に持病を抱えていた高橋が倒れたのは、なるべくしてなったと言える。しかしそれを差し引いたとしても…。
いつか自分も高橋のようになってしまうのではと田中は思った。だが、生きる為には働かなければならないのだ。
今年で齢九十になる田中は、電源を入れた携帯ラジオから流れる曲を子守唄代わりに、仕事の疲れから、いつしか深い眠りへとついた。
「…続いてのニュースです。政府は年金支給開始年齢を、現在の九十五歳から百歳に引き上げると発表。尚、年金受給資格試験の導入も…」
誰も聞いていないラジオは、静かに、ただ淡々とニュースを伝えていた。