3 クロエ
「えっと……どこかでお会いしましたか?」
考えても思い出せないものはしょうがない。失礼かもしれないが、ここは聞いておくべきだろう。
「え? 私を知らない? ……クロエよ、聞き覚えはない?」
「そうですか、クロエさん、助けてくれてありがとうございます」
「……あの娘は誰なのかしら?」
「狼に襲われていましたが、それ以上は特にわかりません」
「そう……。ここが……そうなのね」
そう言って彼女は右手を差し出してくる。
挨拶の握手かな? と思いつつその手を握り返す。
その時、何かが右手を伝って流れてくる。
「今、こそあなたにこれを返すわ」
何かは腕を伝って頭に流れ込む。
頭がぼーっとする。
頭の中に何かが書き込まれていく感覚。
すると、徐々に目の前にいたクロエさんの色が透明になっていく。
「キーワードは魔法サーバ、アクセスよ。忘れないで」
「ちょっと待って、いったい何のことかさっぱりわからないんですけど!?」
「使えばわかるわ、今はすぐに戻りたいの……。また会いましょう、信じてる」
そう言い残して彼女は完全に消えた。
うーん……ファンタジー?
なんというかそろそろ頭の処理が追い付かなくなってきた。
急に狼が消滅したのも謎だし、クロエさんが消えたのも謎、てかなんで俺のこと知ってたし。ましてや魔法サーバってなんだよ? まさかの魔法がある世界ってことなのか?
うんうん唸っていると、先ほど助けた少女がそばに来ていた。
「あの、これ……」
そう言って、俺に虹色の結晶を渡してくる。
あっこれさっき思いっきりぶつかってきたやつじゃん。
じっくり見るとなかなか綺麗だなーと思っていると、少女が思いっきり頭を下げてきた。
「さ、先ほどは失礼しました。 あの、私必死で……」
「いや、助けたのはこっちの意思だし、そんなに気にしないで。それより無事でよかった」
「ホントにホントにありがとうございますっ!」
「う、うん」
なんか照れるな。
「俺は清川優斗。君は?」
「キヨカワユート……。も、もしかして貴族様でしょうか!? た、大変失礼しました! こんな場所に貴族様がいるなんて……とんだご無礼を……」
「いや、違う違う。一般人だから普通の……えーと、旅人! そう、旅人だから」
「旅人? ほっ……よかった……。大変なことをしてしまったのかと……」
「気にしなくていいからね。俺のことはユートって呼んでいいから」
「はい、ユートさん。私はノエミです。何かお礼をしなくちゃ……。今はこんなものしか渡せませんが……、ポランの実です」
彼女は背負ったかごの中から黄色いこぶし大の大きさの果実を取り出した。
この形、見たことあるんだが……。
お腹がすいていたのでそのまま齧りつく。
うん、やっぱりこれリンゴだ。
ちょっと酸味が強くて汁気がないけど、リンゴの風味がある。
「私たちの村の特産品です」
むしゃむしゃとポランを平らげる。
うん、たりない。
まぁ、胃に何か入ったしいいか。
食べ終わるとノエミちゃんは訪ねてきた。
「あの、ユートさんは魔法使いなんですか?」
「え? どうしてそう思ったの?」
「さっきの魔物 一瞬で消してしまうなんて、魔法使いじゃないと無理ですよ」
「あー、あれはたぶんクロエさんがやったんじゃないかな」
「クロエさん?」
「さっきまで近くにいた黒髪の女の人だよ」
「んー、そんな人いなかった気がするんですが……」
あれ? たしかに狼は消えたし、幻なわけないよな……。
そういえば彼女、別れ際に何か言ってたな、なんだっけ
「魔法サーバ、アクセス?」
呟いてみると、目の前に膨大な数の記号の羅列が走った。
「キャッ」
突然の出来事にノエミちゃんはびっくりして飛び退いた。
すると背後の森のほうから静かな怒声が飛んできた。
「ノエミから離れなさい」
次話は本日6時に投稿予定です。