1 プロローグ
今日は入学式だった。
入学式といっても俺のじゃない。大学の入学式が行われたのは確かだが、俺はその手伝いをしただけだ。
人ごみにまみれて誘導を行って疲労困憊の俺は、謝礼を受け取ってすぐに帰路に向かった。
普段運動などまったくしない、バイトも座ったままの仕事ばっかりだった俺にとって、今回のバイトは辛かった……。
報酬は普通だったが、時間がそれなりだったので受けたが、二度とやるかこんなもん。
さっさとお昼ご飯にでもしよう。ゆっくりしたい。
疲れた身体を無理やり動かしながら我が家の玄関を開けた。
そして、自分の部屋に荷物を置こうと扉を開けると…………。
夢でも見ているのだろうか?
目の前に俺がいた。
別に写真を見ているとか、鏡を見ているとかそういうわけじゃない。
俺の部屋に俺がいるのだ。
いや、それはまぁ当たり前なんだが、そういうことじゃなくて、俺が二人いるんだよ。
ドッペルゲンガーってやつ? 俺殺されてしまうのか? いやまて、同じ世界に同じ存在がいると、世界がヤバイとか読んだことあるような……。
様々な考えが頭の中を駆け巡る。しかし、現状を理解することはできない。
そんな風に俺がパニックになっているとそいつは口を開いた。
「こんにちは、初めまして……かな? 清川優斗。取り乱すのも無理はない。けど、僕は正真正銘キミと同じ清川優斗だよ」
「……あぁ」
「時間がないから手短に言う。よく聞け」
「君を異世界に送る」
「はい?」
ソイツの口から出た突拍子もない言葉にようやくまともな声が出た。
異世界? うーん、だめだ夢でも見ていると考えたほうがいいかも。
「要素がそろっていないこの世界の君が一番適任なんだ。科学だっけ? それなりに扱いやすい法則の世界みたいだし」
また、なんか言ってる。理解できないんだが? 説明、もっとわかるように説明してくれ!
「事態は一刻を争う。今すぐに君を送り込む。この世界については気にしなくていい。君の存在は残る。ただ、今の君だけ送る」
そうソイツはいうと、目の前の景色がぐにゃりと歪む。
どんどん目の前が歪み、色が混ざり合っていく。混ざった色は次第に白色に近づいていき、最終的には真っ白になった。
くぐもった声が聞こえる。
「黒衣の女の子に会え。そうしれば詳しいことはわかる……はず」
「おい、ちょっとまて。はずってなんだよ。はずってーーーーーー」
俺の絶叫がグワングワンと響きながら、世界はフェードアウトしていった。
次話は本日18時に投稿予定です