だんだんバカになる
薄桃色に染まった通路を、ひた歩いていた。
耳の傍で蠅が唸っているような、雑音が鳴り喚いていた。
耳の穴に指を突っ込んで、顔をしかめつつそれに近付く。
何の事はない。
どうせまたちょっとした、故障―なのだろう。
複雑に絡み合った襞の間を進むと、原因はすぐに見つかった。
脳内深部。
何を司る器官なのかは全く分からないが、一部だけ真っ赤に爛れている壁面がある。
試しにそっと突いてみると、甲高い悲鳴がその空間中に鳴り響いた。
「亜亜亜亜亜亜亜亜…!!」
耳を塞いだくらいの応急処置ではどうにもならない。
頭を抱えてのたうち回るしかなかった。
しばらくして、なんとか立ち上がった。
さて、これをどうしようか。
さっきのようなとんでもない音を出されては敵わない。
依然として、蠅の飛び回る音は辺りをうろついている。
早く対処しなければ。
この頭より先に、私の頭がおかしくなってしまう。
いや、もうおかしくなってしまっているのではなかろうか。
脳の故障を直すことなんて、私にできるはずがない。
デキルハズナイ…
では私はなぜここにいるのか。
私の頭は混乱する。
できないことをやれと言うのだ。
私はそのためにここにいるのだ。
できないことをやるために私はここにいるのだ。
そんなバカな話があるはずない。
バカナオハナシ…
アルハズナイ…
誰だ。私にこんなことを押しつけたのは。
出てきた怒りが行き場をなくす。
私は足を踏み鳴らした。
その時真っ赤にただれた壁に、足が触れた。
「亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜…!!」
とっさに耳をふさぐがどうにもならない。
私は頭を抱えてのたうちまわるしかなかった。
しばらくして、なんとか立ち上がった。
さて、なにをするんだっけ。
ざらざらした赤いかべを見る。
なんでわたしはこんなところにいるんだろう。
ハヤク…シナイト…
なんだっけ。
わたしがいそいでしなきゃいけないことって?
ずっと耳がブンブン言ってる。
うるさいんだ。
なんかよくわかんないけど、わたしつかれちゃった。
すわろう。
このかべ、せもたれにちょうどよさそう。
「亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜…!!」
たつ。
なに?
だれ?
こと?
シラナi…
ある、く。
う、ご。
bunbunbunbunbunbun…
いや。
おと。
bunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbun…
おと。
いや!
…がん。
「亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜亜…!!」
bunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbun…
bunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbun…
bunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbun…
bunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbunbun…