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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編のようなもの

作者: 囲井 鯀

 兵器の設定はしましたが時代背景や人物などの設定はテキトーなので、つまらなく思う方もいらっしゃると思いますが、ご容赦ください。

「次の作戦終わったらどうするよ?」


 ふと思いついたので、同室のジャックに質問する。笑い声が先に返ってきた。


「終わってから考えるさ。しばらく暇が出来るらしいぜ」

「ホントか?」

「ホント、ホント。俺の勘が言ってる」

「なんだそりゃ」


 しばらく冗談を言い合って笑い合っていると、出撃前のミーティングの時間となり、僕達は部屋を後にした。






 金属製の関節が擦れあい、キシキシと音を立てながら鋼殻兵器(インセクトウェポン)は荒野を進む。

 編成は、六本足四機と四本足一機。六本足が進行方向正面に縦二列で進む後ろに四本足がついてきている。前線で戦う小隊の編成としては少々異質なものだ。


 六本足と呼ばれる鋼殻兵器はもともと拠点や街、村を襲撃するためのもので、『軍隊アリ』と呼ばれる大隊を編成して活動するのが普通だ。六本足は従来機動力よりも安定性が重視されているため、鋼殻兵器同士の攻防戦、所謂戦闘には向かないのだ。武装もバズーカ砲やロケットランチャーなどの高火力なものを多く積んでおり、機体側面に腕が四本生えている。

 戦闘向きの四本足の鋼殻兵器は俗に『狼』と呼ばれている。こちらは安定性よりも機動性を重視し、武装は大型の高周波ブレードと気持ち程度のシールド、そして迎撃用のガトリングガンのみと言ったものが多い。腕が二本になったことで機体は軽量化され、その持ち前のスピードで近づいて攻撃し、敵の攻撃を防御すると言うよりは、避ける、受け流す方が多い。ブレードによる一撃必殺を軸に戦う機体なので、熟練した兵士が操作する。

 また、この小隊には存在しないが変形型鋼殻兵器(トランスフォーマー)と呼ばれる、状況に合わせて脚を折りたたむことで六本足と四本足の形態を使い分けることが出来る機体も存在する。


 この前線へと向かう小隊の中に、ブライトという少年がいた。彼はもともと戦争孤児で、名前は無かった。近辺の街で盗みを働き、街外れにある捨てられた六本足の鋼殻兵器に寝泊まりしていたところを今はなき一軍人の男に拾われた。この少年が補給係から兵士になったのも、その名も知らぬ男の影響だ。


 死にぞこないたちで編成された『スーサイド小隊』は本作戦のために編成された、いわば時間稼ぎをするための特攻小隊。敵大隊相手にたった五人で特攻する部隊で、小隊長以外は皆少年兵だ。武装も六本足はそれぞれ一発打ち切りのロケットランチャーが三つに、毎秒千発の弾丸を吐き出すガトリング砲と七千発の弾丸、コックピット後ろの自爆装置に加えて、中型シールドに通常サイズのブレードが各脚部に二本ずつのみである。小隊長のみがそれらに加えて機体に光学迷彩を施してある。四本足の武装は大型高周波ブレードを機体側面に三本ずつマウントしてあるだけで、増設されて四本になった腕には出撃時から大型高周波ブレードが装備されていたので、計十本のブレードのみで戦う事となる。


『そろそろ前線だ。気を引き締めろよ』


 オープンチャンネルで小隊長のジェームス・ベアが通信で各隊員に呼びかける。


「了解」


 インカムを弄りながらブライトは返事をした。遅れて、他の隊員も返事をするのが聞こえる。


(死ぬ覚悟はできてるさ)


 ブライトは内心呟いた。

 覚悟はできている。名前も知らないあの人が殺された時から、僕の命は僕から離れていった。僕は自分の価値を戦場に求めるようになった。

 ブライトはインカムの位置を直し、オートからマニュアルに操縦を切り替える。


「この作戦、生き残れば専用機を貰えるんだ」


 生き残るための道は敵を全滅させるか、逃げるかの二つに一つ。今回は後者の道が封じられているため、死ぬ気で敵を全滅させなければならない。そのための自爆装置なのだ。


『敵が見えました!』


 同僚のアロウ・ブラウンが叫ぶ。ブライトはハッとして正面右上の望遠カメラのパネルを見ると、地平線の向こうにに土ぼこりが舞っているのが見えた。

 ジェームスが叫ぶ。


『わかってる! 射程距離に入ったら即座に撃て! 散開!』

『散開!』


 直後、四機の六本足が横一列に並ぶ。手にはロケットランチャーが握られている。その後ろで四本足がスピードを徐々に落とし、停止した。

 ジェームスが慌てたような声を出す。


『どうしたメグ・フォレスト大尉! 不具合か!?』

『問題ありません、ただの儀式ですから』

『ぎ、儀式ぃ?』


 平然としているメグと、混乱しかけるジェームス。そのやり取りを聞きいて、ブライトはああと思い当る。


「隊長」

『ええい、なんだ、ブライト少尉!』


 ブライトはジェームスに苛立たしげな声で返され、ムッとする。スピーカーの向こう側から、苛立ったように指で機材を叩く音が聞こえる。変なスイッチを押さなければいいが。


「彼女、戦闘する時は一種のトランス状態になるんですよ」

『はあ? 敵を前にして意識の制御ができなくなるあれか?』

『御言葉ですが、私は出来てますよ』

『そうか、ならいい。さっさと追いつけ』

『了解』


 オープンチャンネルからメグがいなくなる。鋼殻兵器の電源を落としたのだ。


(戦闘中に電源落とす事だけはしないでくれよな)


 数日前のメグと二人きりの帰投時に敵からの奇襲を受けた時の事を思い出したブライトは、そっと身震いをした。


 モニターから、敵との距離を目測で計算し、射程距離に入ったことを確認する。


「撃ちます!」

『許可する! 撃つぞ!』

『撃ちます!』

『撃ちます!』


 ブライトに続いてジェームス、アロウ、ジャックと次々ロケットランチャーの引き金を引く。発射を確認すると、皆用済みとなったロケットランチャーを地に投げ捨て、機体同士の間隔を広げながら二発目の準備を始める。

 モニターに爆風が映る。爆風によって舞い上がった土煙の向こうからやたらめったらに銃弾が吐き出される。土煙を突き破ってバズーカの弾が明後日の方向へ飛んでいった。


(混乱しているな)


 土煙が収まる前に、何機か鋼殻兵器がその中からフラフラと現れる。ジェームスのロケットランチャーが数機の鋼殻兵器を吹き飛ばした。


『一発でこれだけか……』


 ジェームスの呟きがスピーカーから漏れ出す。ブライトは下唇を噛んだ。

 経験の積んだジェームスであっても、いや、だからこそこの作戦の無謀さがわかる。敵は戦線を押し上げるために大人数で攻めてきているのに、こちらはたったの五人。敵の数どころか、残弾数を減らす事すらままならないほどの戦力差。

 明らかに勝ち目はない。

 まさに自殺行為だ。


(けど……)


 残り二発のロケットランチャーを撃ち切ったブライトはガトリングと盾を構え、敵陣に突っ込んだ。


『ブライト少尉! 何をしている!? 死にたいのか!』

「死にたくありません!」

『なら下がれ!』


 ブライトはオート操縦では出来ない生物的な動きをしながら敵の砲撃を避けつつ叫ぶ。


「だけど!」


 ブライトの機体が飛び上がり、敵のガトリングを避けつつガトリングガンの銃口を脚部の付け根に向けて引き金を引く。敵の六本足の脚部が根元からもげる。


「こんな奴らに負けるのはもっと嫌です!」

『嫌なら死なないとでも思ったか、アホ!』


 確かにそうだとブライトは頷く。


(僕は大小様々な戦いの中を生き抜いてきたけれど、今回は本当に死ぬかもしれない)


 五機の鋼殻兵器を無力化したところで残弾が尽きる。視線を這わすと、すぐ横にガトリングガンを構えようとしている敵鋼殻兵器が一機。銃口がこちらに向けられる前に使い物にならなくなったこちらのガトリングガンを投げつけて怯ませ、高周波ブレードをコックピットに突き刺しながら武装をいくつか奪う。


『た、隊長ぉぉおおおおおおおお!』

『アロォォオオオオオオオオ!』


 敵に囲まれていたアロウが殺された。敵の兵器がアロウの鋼殻兵器に積まれていた自爆装置に当たったようで、敵機を十数機巻き込んで大爆発を起こす。


「……オープンチャンネル、切ります」


 誰の返事も待たずにインカムの側面に配置されたスイッチのうちの一つを押す。一瞬静寂が襲ってきたような錯覚に陥ったが、すぐに慣れた。






 戦いが始まってどれくらい経っただろうか。戦線にやってきたメグの活躍により敵の数が半分以下になってきたが、コックピットの中がどうにも蒸し暑い。ノーマルスーツを着てくるべきだったか。


「生きているのは、僕とメグと、ジャックだけか」


 隊長はステルス機能を利用し敵を混乱させたのち、自爆した。戦闘慣れしていないジャックが足を引っ張っている感じがするが、良い囮になると思えば苦にはならない。

 操縦桿を握る手が汗ばむ。

 集中力が切れてきたか。


『……ブライト』

「っ!?」


 固有チャンネルで話しかけてくる声がした。何処か達観した様な、諦めたような声だった。

 正面と右側面の敵機を蹴り飛ばしながら方向転換し、ジャックの機体を探す。


『俺の机の引き出しの中に、故郷の家族への手紙が入ってるからさ……』


 ジャックを探す視界の端に、有り得ない動きで戦場を駆け回るメグの機体が何度も映りこむ。

 敵がまだ多く、敵機の影に隠れてしまっているのか、ジャックの機体が見つからない。


「死ぬつもりか、ジャック!?」

『そう言えばさ、前に見せたろ? お守り』


 ジャックの言うお守りとは、妹から貰ったというお守りだろう。作戦の時はいつも肌身離さず持っているお守りだが、それがどうしたというのだろうか。


『今日の夕飯、カレーだったよな……』

「ああ、ジャックが大っ嫌いなクソ甘いカレーライスだ!」

『いつか、ブライトに俺の妹を紹介してやりたいよ』

「聞き飽きたな、その台詞!」


意識がしっかりと保てていないのか、ジャックの話に一貫性がない。僕は焦燥感に胸を焼かれながら敵を斬り殺す。未だジャックは見つからない。


『ははっもう駄目みたいだ。家族にはすまないって伝えてくれ』

「っ! ジャック! しっかりしろ! 今助けに行くからな!」


 腹部から生える二本の脚部を折りたたみ、擬似的に四脚へとなる。高周波ブレードを仕舞い、近くで煙を上げている敵鋼殻兵器達からガトリングガンを計四門奪い取る。適当な敵に向かってガトリングガンを撃ち、空にする。軽くなったガトリングガンを杖代わりに、荒野を駆る。

 邪魔な敵はガトリングガンでコックピットを潰し、飛び越えていく。杖代わりのガトリングガンが使い物にならなくなったら、また殺した敵から奪って代用。無茶な動きのせいで機体の関節部に負荷がかかっているようで、注意するようにモニターに文字が現れるが、今は無視する。

 ガトリングガンを振り回す勢いから生まれる力を利用し、横へ機体をスライドさせる。数瞬前に自分が居た場所にバズーカの弾が通過した。弾は近くにいた敵に当たり、よろめかせる。


『俺は……後は……』

「ジャック、ジャック!」


 敵を避け、殺しながら何度も叫んだ名前。

 呼ばれた本人は何処かうわの空で、声が届いた様子はない。


 ガトリングガンによる攻撃を避けるために飛び上がった時だった。

 ジャンクを見つけた。一瞬喜びかけたが、それも束の間だった。

 ぞくりと背筋が凍る思いがした。


「ジャァァァアアアアアッッック!!」


 なぶり殺しにされていた。


 コックピットから引きずり出されたジャックは四肢を切断され、はらわたを引きずり出されていた。ジャックが痛みを感じている様子はない。何か薬を飲まされているのだろうか。そうだとしても、異常な光景だった。数人の男女が護身用の剣でジャックの内臓を穿っている。


「うぅっ……!」


 着地と同時に酷い吐き気が襲ってきた。

 空っぽな笑みを浮かべるジャックの顔が目に焼き付いたまま離れない。

 ついと涙が頬を伝う。


「……っ! おええええぇぇええ!」


 操縦桿を握ったまま、俺は胃の中のものをコックピットの中にぶちまけた。不快感が酷い。

 だが、次の瞬間には怒りが勝っていた。

 不意打ち気味に後ろから高周波ブレードで脚を狙ってきた敵鋼殻兵器の攻撃をかわす。ブレードが勢いよく地面に刺さり、土埃を舞い上げる。

 僕はガトリングガンを全て地面に捨て、脚にマウントされた高周波ブレードでコックピット切り裂く。

 インカムからはジャックのものでない笑い声が聞こえてきた。

 ブチリと身体の内で何かが切れる。


「うあああああああああああああ!!!」


 先ほど破壊した鋼殻兵器からバズーカ砲とガトリングガンを奪い取り、僕はジャックの機体に向けてありったけの弾を撃ち込んだ。

 正確には、ジャックの機体の、今はもう誰も乗っていないコックピットを狙って。


『楽しかったよな、訓練合宿……っ』

「ああ、馬鹿だったよな、俺達……っ!」


 涙交じりのジャックの声に、僕は涙と鼻水とでぐしゃぐしゃになりながら叫び返す。


『おまえは……』


 次の言葉が紡がれる前に、爆風が全ての音を消し去った。





 インカム越しに爆音を聞いてしまったブライトは、錯乱状態に陥っていたこともあってしばらく平衡感覚を失っていた。戦闘はしばらくできない状態だろう。

 しかし、運のいいことに残った敵機は数機で、それらも撤退する暇もなくメグに葬り去られた。

 しばらくして、固有チャンネルに通信が入った。


『……終わったけど、平気?』

「…………」

『おーい?』


 ブライトは意識がはっきりしていない様子で、操縦桿を握ったままコックピットで固まっていた。


(僕は……殺したのか? 友人を……ジャックを。それとも、救ったのか? 助けてやれたのか?)


 ブライトはあの場で彼の出来得る最善のことをしたつもりだった。だが、唯一の友人ともいえるべき少年、ジャックを自分の手で殺してしまったことに大きな衝撃を受けていた。

 あのままでも死んでいた、苦しみから解放してやったと心を納得させようとしても、本当にそうなのだろうかと言う疑念が生まれてくる。


(……俺は……あの人の命だけでなく、ジャックの命まで奪ったのか)


 自然とブライトは自己完結する。

 戦争のために自分の様な人間が生まれ、戦争のために彼らは死んだ。彼らの無念を晴らせる場所は戦場でのみ。恨むべくは敵。


(今は、それだけだ)


 その後、メグがブライトの機体を軽く小突いて意識を自己より外へ向けさせるまで、ブライトは静かに涙を流し続けた。







「可変型に、ブレードってオーダーできますか?」


 戦争が終わるまでの一ヵ月。その間に多大な戦果を挙げたブライト中佐。どんな過酷な作戦も一人生き残って帰ってくることから仲間殺しの噂もあったが、たった一人でジャングルに忍び込み、敵ゲリラ隊を全滅させたことでブライト・フェニックス(不死鳥)と呼ばれるようになった。


高速飛行兵器(バードマン)? ああ、十秒で空中分解する」


 また、夜戦を得意とし、機体を乗り捨て敵機体を奪い取る戦闘スタイルにより、敵からは『デッドマン(不死身)』と呼ばれ恐れられた。敵はデッドマンが現れると早々に戦場から撤退した。




「なあジャック、俺はおまえの分まで戦えたかな」


 いや、と苦笑し、頭を振る。


「こんなこと言ったら、お前に笑われるな」


 俺はブライトの墓石を軽く撫でる。墓石の上に溜まった朝露で手が濡れた。

 今日はジャックの命日だ。だからと言って暗い話をしていたらジャックに嫌な顔をされてしまう。


(そうだな……)


 俺は顎に手を当てしばらく考え、ポンと手を打つ。


「俺、今日も元気だぜ」


『ばーか、またそれかよ。聞き飽きたぜ、その台詞』

 ロボって、人型じゃなくても良いと思うんですよね。それだけです。

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