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続   俗見るバカと、泣かない少女 

「ククク……」


 ノーマンの口から笑みがこぼれた。

 顔の左半分を右手で覆い、足は肩幅より開いて重心はやや左に寄せている。

 『魔王の覚醒』と称す彼お得意のポーズ。かれこれ五分ほど続けている。

 しかし、近隣の住民のヒソヒソ声が徐々に広がり始めていることなど、彼が気に掛ける余地などなかった。


「今日からここが俺の城。我が覇道の第一歩となる拠点……」


 現在、ノーマンの前には石造りの門に囲われた、古びた旧貴族邸があった。

 外壁はシダやコケに覆われ、いたる箇所に刃の跡や矢じりが刺さったような窪みが散見できる。不自然に赤黒いしみは外観全体に黒い影を落としていた。

 ノーマン再び「ククク……」と笑い出す。

 果たしてこの笑みは、このどう見ても訳あり物件を前にして、この俺が住むに相応しいという不敵な内容なのだろうか。

 ――否、違う。

 彼の顔はこう物語る。


 『築10年! 豪奢な外観! 広い! 低賃金!』にホイホイ食いついたら、とんでもない物件だったけど、もう手持ちないから後がない。

 抗議しに行こうとしたら、紹介元はすでにもぬけの空だった(悲惨)。

 ……故に、


「やべえ、やべえよ……」


 ――だった。

 そう、彼がこの場で佇んでいた五分間の真の意味は――

 ビビッて中に入れない。それが全てだった。

(ど、どうしよう……)

 ポージングしたまま固まって不定期に笑うノーマン。その内心は混乱の極地にあった。

 そんな彼の肩に、ふいにトンと手が置かれた。

 振り返ると、――近所に住む婦人だろうか、ふくよかな体系をした目じりの皴が優しげな印象を与える女性が立っていた。

 ノーマンはその女性に人心地がついた様な感覚を覚えると、自然と安堵の息が漏れて出た。

 そして、告げられる。


「あなた、こんな所にいちゃダメよ? この館はね、住む人住む人全員に不幸が起きる呪いの館なのよ? この前の人も……。とにかく、悪いこと言わないからさっさと行きなさいな」


 安堵の息が悲鳴に変わった瞬間だった。


 ノーマンに忠告した女性が気味悪そうに足早に立ち去っていく。

 それを見たヒソヒソ話をしていた周囲の住民もクモの子を散らすように去って行った。

 この場にポツンと、ただ一人取り残されるノーマン。

 チラリ、と後ろを振り返る。

 さっきの情報を得たせいか、心なしか外観の暗さに拍車がかかった気がする。

 風に打たれた鉄柵がギィっと音を立てて開いた。不吉がガマ口開けてノーマンが入るのを待っているかのような心象すら覚える。

 しかし、前述したように彼には引っ越せるような手持ちはないのだ。

 格好つけて誤魔化そうが、ビビッて中に入れなかろうが、その事実は変わらない。


「ククク……、ふざけるなよ。たかが噂さごときに、この俺がビビるとでも思ったか。神よ、お前はどこまでも甘いヤツだな」


 意を決してノーマンは足を進める。

 彼の中の虚栄が初めて役に立った瞬間だった。

 門を潜り館の中に入ると、まるで手が届いていない伸び放題の庭が彼を迎える。

 ほぼ諦めていたが、やはり今は誰も住んでいないらしい。

 ひょっとしたら、すでに部屋ごとに借家として借し出されていて、誰か人が(美少女が望ましい)いるのではないかと、淡い期待をいまだ捨てきれないでいたが、その可能性もさらに薄くなった。

 さらに質量を増したため息をつくと、トボトボと館の玄関の前に向かって歩き出した。

 しかし、遅々としたその足取りも、途中でピタリと止まる。

 ノーマンはゆっくりと頭を横に向けた。

 伸び放題で、もはや雑木と表現出来るような庭。

 今も風に煽られてこすれた葉が、ザアっと音を鳴らしている。

 その煽られた、草木の隙間。

 距離は五メートル程と近い。


 そこに、人影が立っていた。


 少女だ。歳は十歳になるかならないか。身の丈に合わない大きな魔杖をもっている。

 ノーマンに気づいているのか、いないのか、焦点の合わない瞳でただ立ち尽くしている。

 問題は、少女の服装にあった。

 もともとは白を基調としたアウターウェアのドレスなのだろうが、それが塗ったくったように赤く、紅く、赤黒く染まっている。

 

 それはあたかも、返り血がかかったかのように見えなくもなく――


「いびゃああぎゃああああああああああああああああああ」


 ノーマンに奇怪な悲鳴を上げさせるには十分の恐怖を持っていた。

 


 ――この世界に、『妖精に誘われた』という言葉がある。

 一見価値のない出会いでも、そこには何かしらの意味があるという意味だ。

 そして今、ここに一人の少女と、一人の青年が出会いを果たした。

 奇跡の象徴とされる妖精。

 それはとある受け継がれた想いを、たった今ここに届け果たした。

 もし仮に、約束された出会があるとするのなら――

 

 人はそれを運命と呼ぶのかもしれない。

 


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