俗見るバカと、泣かない少女
職が見つからない。
エグゼの所を後にしてから三日後、ノーマンは身ひとつで町をただ彷徨っていた。
尋ねる所尋ね所全て不採用を食らって上手くいった試しがなかった。
そんなバカな、とノーマンは思う。
自分は腐ってもオルツ魔法学院の卒業生だ。
引き取り手はいくらでもあるはずだった。
在学中はとにかく注目を集めることに必至で、就職活動というものを全くしていなかったこともあって、職場が見つかっていないのも頷ける。
職など後でいくらでも見つけられるはず――
とノーマンは踏んでいたのだ。
事実、貴族邸宅や魔導図書館を訪ねたときはオルツ魔法学院出の生徒である証である、上腕に刻まれたグリフォンの紋を見せるとすんなりと通ることは出来た。
が、その後が問題だった。
肝心の技能検査ではSABCDE評価の内、Bマイナスとオルツ魔法学院の出と言うにはあまりにも低すぎる能力しか見せることが出来なかった。
一般世間として考えるならこれでも充分に優秀と言える方なのだが、ここでの職で求められる能力とノーマンが提示した能力では釣り合いが明らかに不足していた。
その他に当たった職場も似たような結果しか出すことが出来ず、不採用の捺印を押され続けていた。
ならば、もっとレベルの低い職を探せばいいと思うのが妥当な判断だが、いかんせんノーマンはプライドが高いタイプのバカであり、そのバカはレベルを落とすという選択肢を選べなかった。バカ、万歳。
そして現在、ノーマンはめでたく路頭に迷っている。
ベンチで意気消沈している彼の前を一組の男女が通り過ぎた。
「今日、どこに行く?」
「どこだっていいさ、隣に君がいるなら、どこだって」
「ああん、バカん」
「おいおいひどいな。バカとはなんだよ。俺は本当のことを言ったまでだぜ」
「ううん、そうじゃなくって。そんな分かりきったことカー君がいうんだもん……。私だって隣にカー君がいればそれでいいよ?」
「あははっ。こいつめ」
「いやん、カー君たらっ」
――おっといかん。ベンチで殴りかかかる所だった。
ノーマンは狂気の行動に起こす直前で我に返ると周りを見た。
どうやらここは学生や恋人達がよく憩いの場として利用する公園のようだ。
どんよりと濁った空気を醸すノーマンとは対象的に、活気に満ちた表情をした人々がのんびりと午後のひと時を過ごしていた。
片っ端から、呪殺しにかかりたくなった。
人は平等ではない。
ノーマンはつくづくそう思う。
最後に勝つのは容姿と能力であり、凡人がいくら努力で足掻こうにも圧倒的な才の前では霞んでしまう。
何百年も前から言われてきたことを今更ながらにノーマンは実感した。
気付けば彼の拳は固く握られていた。
原因は不明だが急激に衰えてしまった自分の能力。
我ながら血の滲むような努力をしたはずなのに結果はまるで供わなかった。
容姿の件はこの際仕方が無い。生まれもってきたものだ。
どうこうできるものではないとしても――。
自分が培ってきたはずの努力がまるで報われないのが腹立たしかった。自分を置いて遠くへ去っていける学友達が酷く妬ましかった。
そんな連中に、一泡吹かせてやりたい。ギャフンとか超聞いてみたい。
しかし、その泡とやらをどうすれば吹かせられるか……。
そして、ノーマンが辿りついた答えは至ってシンプルだった。
「簡単だ、否定すればいい――」
ノーマンはニタリと笑みをこぼす。
才能のある連中と同じ土俵に立って正面から負かす。
これ以外にノーマンが気分が、何より努力が報われる手段はなかった。
しかし、一人ではどう考えても勝てない。
圧倒的な才とは圧倒的な差異である。
彼ら天才と呼ばれる人種は根本的に我々とは違う次元に生きているのだ。
学院生活で充分それを味わった。それらを負かすにはどうすればいいか。
「ククク、もう答えなど出ているじゃないか……」
小説でも劇でも同じこと。
圧倒的な力を持つ敵には一人で立ち向かわず――
「徒党を組んで、潰すまでよ」
ノーマンは勢いよく立ち上がった。
「そうだ。組織だ! これを結成して奴らに立ち向かうんだ。クハハハ、今に見ておれあのクソ共! 今に目にもの、みぃせてっくれるわぁ!」
彼の出した答え――。
それは理念、不純。
事業内容、人の足を引っ張ること――。
一から十まで僻みと嫉妬で構成されたゴミのような組織を作り上げることだったっ。
ノーマンはゆらりとその場を離れ歩み始める。
今、彼の中では、新たな物語が起ころうとしているのかもしれない――
「あー、君少しいいかな。こんなとこで何やってるの? あ、住所と名前、職業も教えてねー」
「え、いやその拙者いや、俺様、いや、僕は、ああ、あああ怪しいものでは決して御座らんことをここに誓いまして――」
「はいはーい。ちょっと後で同行願うからねー」
「クソがあああああああああああああああああああああああ」
前途は多難だった。