魔法少女は『願わくば』と呟いて 2
あの時から、しばらくの時間が経ちました――
「じゃあ、行くわよ――。後で、また会いましょう」
「はい……。また後で、ですね」
いつも通りの、嘘でした。
泣いても、笑っても、8番さん達とはお別れです。
微笑む8番さんにわたしはペコリとしました。
するとわたしの頭に、ぎゅっと柔らかい抱きしめられる感触がします。
ふわっと暖かい、『どうしてでしょうか』、ほっと安心できる香りすると、8番さんの柔らかな手がわたし背中を優しく撫でました。
変に思って頭を上げようと思いましたが、8番さんは私の頭を抱きすくめるようにしてさせてくれません。いつもはこんなこと、しないのに。
わたしはどうしたらいいんでしょうか。
ちょっと困ります。
「――、どうしたんですか。8番さん」
わたしの言葉に8番さんはビクっと体を震わせると「ごめんなさいね」といいました。
いえ、謝られても困るのですが。
「私は――、いえ、私たちはダメね。あなたよりお姉さんなのに、あなたたちよりずっと強いのに、何も残してあげれなかった――」
8番さんの声はとても悲しそうでした。
「そんなことないです。8番さんや他のお姉さんがいなかったから、わたしたちは弱いままでした。いくら感謝しても、したりないです」
「……そうじゃ、ないのよ。そうじゃないの……」
「えっと、じゃあどうしたんですか?」
「ごめんなさいね……。ごめんなさい……」
いまだに震えたまま、8番さんはわたしを離しません。
やっぱりいつものお淑やかで、優しい8番さんらしくない気がします。
ですがわたしもわたしで、なんと声をかけたらいいか分からないでいました。
結局――、8番さんが離してくれるまでわたしは何も話せませんでした。
ふっと安心する香りが離れていきます。
頭を上げることを許されたわたしの前には、8番さんがいつもの様子で微笑んでいました。
「ねえ、最後に少しいいかしら」
「はい」
「あなた、最後に笑ったのはいつ?」
いきなりな問いです。
質問の意味がわかりません。
わたしが答えられずに黙っていると、8番さんがわたしの頭を撫でました。
「――答えにくい質問をしてしまったわね。ごめんなさい」
「…………」
「私達はたくさん辛いものを見てきたし、たくさん悲しい思いをしたわ。きっとその間のどこかで笑顔を忘れてきてしまったのよ……。あなたも、私も」
8番さんは、だからね――、と続けます。
「――あなたのことを大切に思って、あなたの笑顔を取り戻せる人が、いつかあなたの前に現れるまで……」
とん、と胸を指しました。
「どうか、失くさないでいてほしいの――」
――心を。
8番さんは消えるような声で最後にそう言いました。
そして、わたしは8番さんと別れました。
辛いこと、と8番さんは言いました。
悲しいこと、とも8番さんは言いました。
……言われてみれば、ここに来てから確かに色々とありました。
――3番さんは爪で切り裂かれてしまいました。
――5番さんは刺し違えて深い深い谷に落ちていきました。
――10番さんは11番さんを助けようとして、失敗してしまいました。
――9番さんは大群に襲われて何も残りませんでした。
そして今日。
8番さんはわたしを庇って、動かなくなりました。
でも、大丈夫です。
神さまは気を使って、この灰色の世界での記憶は、元の世界に持っていけない約束をしてくれたからです。
だから、大丈夫です。
元の世界に戻れば、大丈夫です。
何も覚えていないんですから、大丈夫です。
何も問題ありません。大丈夫。
そんこんなで、わたし、第12番。魔法少女、やってます。