食材調達
砂の色に紛れて動く獣の影を見落とさなかった。ピエールに目配せすると、ピエールが四つ足で力強く砂を蹴りながら駆け出す。牧羊犬よろしく獣を追い込み、獣の逃走ルートを塞ぐ。
逃げ場を失った獣を目掛けて、俺は持っていた槍を思い切り投擲した。命中…短い悲鳴をあげた後、獣は暫くじたばた動いていたが、やがて力尽きた。
「よっしゃ。今日の夕飯GET」
息絶えた獣の長い耳をつかみ、手持ちの麻袋に詰め込む。
師匠から与えられた俺の仕事は修行と称した砂漠での晩飯の調達だ。勿論、魔法の修行ではない。魔力総量の少ない俺は修行をどんなに積んだところで使える魔法は限られている。魔法使いの修行は無意味であり、却下された。
結論、魔力が使えないなら他を伸ばせばいいんじゃないか?いくら魔法を使う才能があっても、資本となる魔力がなきゃ意味がない。努力しても魔力は伸びないので、既に魔法使いとしての底は見えている。ゆえに、身体強化というわけだ。
「全属性だけに勿体ないけど」と、師匠であるイワンは溜め息をついた。
全属性を扱える魔法使いは希少と言われる。普通は1つないし、2つまでだが、俺は全ての属性を扱う才能があるらしい。ただし、非常にショボいが…。
イワンは魔法使いのスキル持ちの商人だった。友人には魔法オタクと呼ばれている。実際、赤魔法に関してはかなり素養があり、その気になれば国を焼き尽くす威力の火の玉を出すことができるらしい。本人曰く、自分の使う魔法は実用的ではないし趣味と仕事は別とのこと。まぁ、どこかの悪役よろしく趣味で国を焼き尽くされても迷惑なだけだし、興味を持ってくれなくて何よりだ。
ピエールの背中に乗せてもらうには半月を要した。ひたすら草という名の賄賂を送り続け、ようやく餌付け…もとい、信頼関係を築くことに成功した。乗り心地は悪いが、彼は色々と優秀な家畜だ。
彼の背中に乗り、夕飯の献立について考えながら帰路につく。すると、恒例のイベントが起きた。
「はっはっはー!」
俺は周りをきょろきょろ見渡して一番高い岩場の上を見あげた。なぜって?その人物は高いところから人を見下ろして登場するのが大好きだからだ。
案の定、彼はマフラーをたなびかせながら、ちょーん、と一番高くそびえ立つ岩場の上にたっていた。