ホームレス
夜が更けた。真ん丸なお月さまを見上げて、深々とため息をつく。
「はぁー」
何で、キャラバンの男からの施しを素直に受けなかったのか。砂漠の国に着いたらどうにかなると思っていた無計画な自分にツッコミを入れたい。
ぐう、と大きな音を立ててお腹が鳴った。最後に食事をしたのはいつだろう。大きな広場に戻り、渇れた噴水を虚ろな瞳で眺めた。せめて、噴水に水が流れていたならお腹を満たすこともできただろう。乾いた唇を舐めると、鉄の味がした。あぁ、駄目だ。お腹が空きすぎて考えがまとまらない。
「とりあえずお金もないし、今日はここで休むか?」
ゴミ箱の中に捨てられている紙を集めて、身体に巻き付ける。そのまま石畳の上にごろんと横になった。意外に紙にくるまると暖かかった。新しい発見だ。
明日からは路上に落ちた通貨を探しながら生活するか、と決意を新たに(?)して、俺は眠りについた。
※※※
「う~ん…むにゃむにゃ」
「おい!起きろ!」
身体を棒のような物でつつかれて、何事かと思い、目を擦った。いつの間にか朝になったらしい。
赤と黒の制服の男が俺に向け槍のような物の柄を突きつけていて、一気に目が覚めた。後ろには貴族っぽい服を着た美形の青年が不機嫌そうにたたずんでいた。
「命だけはお助けを」俺は懇願した。まだ死にたくない。
美形は俺の言葉を聞き、不機嫌の色を強めたが、事務的に次のように宣った。
「ここは神聖なる王都の中心だ。景観を損ねるから無断で寝泊まりすることは許可されていない」
「そんなことを言われても、宿屋に泊まる金がないんだ」
現状を説明する。記憶喪失、無一文。お金がない以上、路上で寝るしかない。このまま国の外に放り出されば確実に死ぬ。
美形の男は眉間に皺を寄せて、暫く額に手をやっていたが、諦めたようにため息をつき、一言「ついてこい」と言った。