プロローグ
ボロのフードをまとった少年が砂漠を歩いている。彼は祈るように空を仰ぎ見た。周りには彼以外は誰もおらず、町らしきものもない。見渡す限り一面の砂、砂、砂ー以下略。
「あつい」
さく、さく、さくと木の棒を砂に差しながら、少年はひたすら歩を進める。靴の中に砂が入ろうとも、身体中の水分が蒸発しようとも。
再び少年が空を仰ぎ見る。目の前を白く光る蝶がひらひらと飛んでいった。そして、少年は砂漠の真ん中で力尽きた。
※※※
ごとごとと揺れる荷車の上で俺は目覚めた。
「気がついたかい?」
褐色の肌、青い双貌の男が心配そうに俺の顔を覗きこんでいる。俺はどうやら倒れたようだ。
「こんな軽装で砂漠に入るなんて、自殺行為だ」
男の言うことはごもっとも。砂漠は日中は干からびそうなほど日が照りつけ、夜は凍えそうなほど冷え込む。毒蠍も出れば、魔物も徘徊しているらしい。俺の装備はというと、ローブと木の棒、荷物の中に古びた本、古ぼけた小瓶があるのみだ。死にたがりと思われても仕方がない。
男はキャラバンで、砂漠の真ん中の国に商売で向かう途中だと言う。その道中、行き倒れた俺を発見、拾ってくれたらしい。
「あんた、名前は?」
「知らん」
「は?」
俺の返答を聞いて、男の目が点になった。
俺には砂漠に入る前の記憶が全くない。だから、名前も生まれも何もわからない。記憶喪失というやつだ。
「なんとまぁ、難儀なことだ。記憶喪失とは…」
男の表情が曇る。
「何かお礼をしたいが、手持ちがないんだ」無一文であることを男に伝えた。
「別に見返りを求めて助けたわけじゃないさ。見殺しにするのは後味悪いしな。それより、あんたはこれからどうするんだい?」
「可能ならこのまま、砂漠の国とやらまで乗せて欲しいんだが…。身の振り方はそこから考える」
俺の願いを2つ返事で男は快諾してくれた。