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第一章(4)

やはり区切りが難しい。長くなりました。

 寒いと思った。外側を突き刺す寒さではなく、内側から這い登ってくるような寒さ。

 体は冷えているが震えはない。すでにそのピークは過ぎて、気だるさを含んだ疲れが鉛のように全身を包んでいる。


「はぁ……はぁ…………」


 とにかく人のいる所へ、そう思って歩き続けた。時間は分からない。ただ、明るかったはずの空が今はもう真っ黒に染まっている。


 いつしか町のような所へと入った。だがどうすれば良いのか、何を求めれば良いのか分からない。喉が渇いたから水だろうか。体中が疲れているから休んだ方が良いのだろうか。

 どれかしなければいけないような気がしつつ、どれを選ぶべきか分からずに歩き続ける。


 溢れている人々は道を開けてくれるが、疲れ切った今は少しでも支えが欲しかった。


「……っ!」


 ほんの少し視界がぼやけた。その瞬間、道行く人に肩がぶつかり、抵抗できないまま端へと追いやられていく。背中が壁にぶつかる衝撃を感じた。


「あ……」


 立て直そうとした体が、壁に沿うようにズルズルとへたり込んだ。そのまま磁石のように地面の方へと吸い寄せられていく。

 髪の隙間から見えるのは、大通りを歩いている人の足。そのどれもが通り過ぎていくだけで、こちらを向くこともない。


「…………れ、か」


 小さな声は雑踏にかき消され、伸ばした手は、誰に届くことなく宙をさまよった。




     ※ ※ ※ ※ ※




 ジョシュアの命令を受けた三日後。レイは問題のあったゾスマ平原を抜けて、海沿いに面した街、デネボラへと来ていた。

 ここは首都レグルスの次に人の多い街で、海上貿易と海岸防衛の両方の役割を果たしている。海岸には要塞も築かれており、街全体の規模はレグルスよりも大きい。

 レイはヘリから降りると、ビナーを実体化させてやった。


「ビナー、どうだ?」

『うむ……やっぱりここでなつかしい気配がするぞ』

「なつかしい、ね」


 意気揚々と言うビナーに、レイは眉間に皺を寄せた。

 本来ならバイクでレグルス付近を見回るはずだった。しかし出発の前日、ビナーが妙に反応しだしたのだ。


『呼ばれた気がする』とか『絶対にあっちだ』などと言いながら部屋中をウロウロする始末。しょうがなしにジョシュアへと報告すれば、彼は一台ヘリを出してくれると言った。

 ビナーの指示に従い、ビナーの反応する所へ行くように、と。


 確かに、今のところ特定地域に敵がいるという状況ではない。不穏な動きをする者がレオエリア内にいるから見回ろう、というものだ。だからと言って、ビナーの勘に任せるのはどうだろうか、とレイは思う。


(だいたい、『なつかしい』って、悪いものに対する感情じゃないよな?)


 ビナーは聖獣だ。特殊な力を持った生き物だから、その感覚も人間以上だろう。だが、果たして彼の言う『なつかしい』は何を意味するのか。


「おーい、嬢ちゃん!」


 考え込みながら歩いていたレイは、建物の中から気だるげに歩いてきた男を見つけた。発された言葉に、眉間の皺がさらに増える。


『ヴァンとケセドだ!』


 ビナーが興奮したようにフードから肩へと出てきた。

 こちらに歩いてくるのは中年の男と、それに寄り添うようにしている巨大な青い獅子。男の方は警備軍の軍服を着ており、よく見ればハードボイルド風な渋い顔をしているが、気だるげな目と態度が全てを台無しにしていた。


 彼の名前はヴァーミリオン・ベンズ。警備軍の統括であり、レオエリアが所持するもう一つのレクイエム・ウェポン〈ケセド〉の奏者だ。隣にいる獅子がその聖獣である。


「お、ビナー。相変わらず嬢ちゃんにべったりだな」

『お前はあいも変わらず子供じゃの』

『わぷぷっ!』


 目の前に来たヴァーミリオンは、わしわしとビナーをなでた。ケセドもその体格に見合う低い声で楽しそうに見やる。どうやらケセドはずいぶん老齢な時に天災で死んだらしい。口調も翁を思わせる。


「ヴァンさん、何度も言いますが俺は男です」

「固いこと言うなよ。今はまあ、それなりに成長してっが、二年前出会った時は間違いなく嬢ちゃんだったぞ。それに顔が女顔だ。美人さんだな」

「二年前も俺は男です。そして顔の造形はたぶん遺伝です」


 レイは十五の時にラス・アルハゲからレオエリアに派遣された。勤めることは決まっていたが、一応、実力を計るために他の一般候補生と入社試験を受けたのだ。その時、審査官として来ていた者の中に、このヴァーミリオンがいた。

 そして、非常に忌まわしいことではあるのだが、当時レイは小さかった。今でも平均を大きく下回るほど小柄だが、昔はさらに酷かった。

 何せ、アジェスタには『十二歳の間違いじゃないのか、この履歴書』と言われたほどだ。


 その身長と、顔が女顔だったことで、ヴァーミリオンは当初レイを女だと勘違いしてくれた。後からちゃんと気づいたのだが、彼は何が面白いのか会う度に『嬢ちゃん』と呼ぶ。

 未だに名前で呼ばれたことはない。


「遺伝ねぇ。そのまま成長したら化け物みたいな美人になりそうだ」


 がはははっ、と笑うヴァーミリオンにレイは溜息をついた。まともに相手をしていては疲れるだけ。ジョシュアと一緒だ。


「ところで、ヴァンさんは何でデネボラに?」

「ほれ、ゾスマ平原でなんかドンパチあったろ? もしかしたら近いここも何か巻き込まれるんじゃねぇかと思って、数日駐屯してたんだ。ケセドのこともあったしな」

「ケセド?」


 視線を青い獅子に向ければ、彼は鋭い、けれどどこか優しげな目をレイに向けた。


『坊ちゃんから報告は聞いとる。ビナー、お主も何ぞここに感じておるようじゃな』


 坊ちゃんと言うのはジョシュアのことだ。ヴァーミリオンとケセドにとって彼は子供の時から知っており、公式の場以外で『社長』と呼ぶことはない。


『ケセドも感じているのか? なつかしい気配だろ!?』


 ビナーの甲高い声に、ケセドは五月蝿いと言いたげな目で耳をかいた。そしてふんっと鼻息を一つ鳴らす。


『この小童が。気づいとらんのか。だからお主はいつまでたっても中身が成長せんのじゃ』

『な、何だとぉ!』

「ビナー、落ち着け。ケセドも、会う度にビナーをからかうな」

『奏者たるお主が甘いからそやつも伸びんのじゃ。無表情のくせして小動物好きか? ずいぶん顔に似合わぬ……いや違うな、女顔に似合う趣味を持っとるの』

「…………」


 レイは一瞬、本気で銃を構えようかと思った。


「はははっ、もうそれぐらいにしてやれケセド。ビナーはお前と違って生まれてすぐ死んだんだ。ウェポンになってからも、嬢ちゃんに会うまで奏者を選ばず寝てただけだしな」

『それが甘えの始まりよ』

『うるさい!』


 図星を指されたのか、ビナーは叫んでフードの中へと隠れた。その様子に呆れつつも、レイは軽く手を伸ばしてビナーを撫でてやる。


「説教はまたの機会にしてくれ。それで、ビナーやお前が感じてる気配ってのは何だ?」

『簡単よ。わしらがなつかしいと思うのは一つ。聖獣の、生きておる聖獣の気配じゃ』

「何だって?」


 レイはヴァーミリオンの方を見るが、彼も肩をすくめるだけ。聖獣のことは聖獣にしか分からないということだろう。


「聖獣は大昔に絶えたんだろ?」

『然り。じゃがの、強い聖獣は人型にもなれた。そして契りを交わし他種族と繋がる者もいた。その子孫は今でも多少はおろう? そうとは知らずにな』

「隔世遺伝の聖獣混血児か」


 聖獣が滅び去る前、彼らは人間と契りを交わすこともあったという。聖獣は絶えても、天災を免れた人間達が子孫を通して血を残し続けた。

 今ではその子孫も普通の人間と変わりがないし、自分達が聖獣の子孫であると知らないのが当たり前だ。だが稀に、血族内に聖獣の特徴を持って生まれる子供がいる。

 それが、隔世遺伝の聖獣混血児。


 彼らは主に異能と異形で生まれてくる。大地を割ったり、炎を出したり、角が生えていたり、体毛が違ったりするのだ。何も知らない家族は彼らを忌み子とし、隔離したり、最悪の場合は捨てたりもする。


「だいたいはエリアの研究機関が拾って、力の研究だよな。サジタリウスやスコーピウスがその筆頭だが……あれは研究って言うのかねぇ?」


 ヴァーミリオンが言うとおり、ほとんどの研究機関は混血児をモルモット扱いしている。家族も捨てているから文句は出ない。レオエリアのように給金を払っている方が異例だ。

 そしてここ数年、そういった人権を無視した研究機関を中心に襲っているのが、ジョシュア達との会話にも出た、〈どこにも属さぬ者(ノーウェア)〉という集団だ。


「この近くに聖獣の混血児がいるのか?」

『おそらく。しかもその力が強いんじゃろ。そうでなければここまでわしらは反応せん』


 レイは今までの状況を頭の中で整理した。

 スコーピウスエリアと、〈どこにも属さぬ者(ノーウェア)〉と思しき集団が一戦起こしている。双方共に、聖獣混血児への関わりが強い集団だ。そして、この近くに強い力を持った混血児がいるらしい。


「その混血児を狙ってるってことですか?」

「だろうなぁ。スコーピウスは欲しいんだろ。で、〈どこにも属さぬ者(ノーウェア)〉は保護ってとこか」

「やっかいですね……」


 これ以上争いを起こされる前に、その混血児はレオで保護した方が良いだろう。だがこちらが保護してしまえば、スコーピウスエリアが目に見えて襲ってくる可能性もある。

 では保護した後〈どこにも属さぬ者(ノーウェア)〉と接触し、その混血児を引き渡せばどうなるか。


(〈どこにも属さぬ者(ノーウェア)〉が味方とは限らない。今まで他エリアを襲っているのは事実だ)


 それに、〈どこにも属さぬ者(ノーウェア)〉と接触を持つことによって、今まで彼らに襲われたエリアに睨まれる場合もある。

 喧嘩を売られたら高額で買うレオエリアだが、無闇に敵を増やしたいわけではない。

 レイはどうするべきか判断に迷いつつも、ヴァーミリオンを見返した。


「とにかく、俺はこの辺りを見回ります。それが仕事ですし」

「あいよ。オレは入れ替わりで今からレグルスに戻る。坊ちゃんにも報告は入れとくよ」


 ならば、追って指示の連絡も入るだろう。そう結論付けて、レイは会釈してヴァーミリオンの横を通り過ぎようとした。


「っと、忘れてた。嬢ちゃん。コレ渡しとくわ」


 通り過ぎ様に放られたのは数枚の紙束だった。無言で促すと、ヴァーミリオンはいつもの気だるげな表情を少しだけ引き締める。


「最近手に入った〈どこにも属さぬ者(ノーウェア)〉の情報だ。つっても、遠目で見た限りのものだけどな。主要戦闘者は二人」

「二人?」


 レイも軽く目を見張った。軍と相対するのに前に出てくるのが二人だけということは、奏者やアジェスタの実力に匹敵するということだ。


「その内の一人、その写真の右側に映ってる奴な。たぶんそいつが〈マルクト〉の奏者で、聖獣混血児だ」


 望遠レンズで撮られた写真には、地上で軍をなぎ払っている男と、宙に飛び上がって銃を撃とうとしている男がいた。二人ともフードつきのコートを着ており、地表の男は全く分からない。

 だが、銃を持った男は飛び上がった反動か微かにフードがずれていた。顔までは分からないが、黒髪でレイよりは年上だろう。


 銃から放たれている光はビナーでの攻撃時に見る光に似ており、男が跳躍している距離は常人の足で跳べる高さではない。

 レクイエム・ウェポンだけでも厄介だというのに、聖獣混血児という付加価値までついているとなると、厳しい戦いになる。


「同じレクイエムの奏者として忠告しといてやる。できる限りはち会うな。会っても戦うな。それが無理なら命を最優先にしろ。無駄に命をかける必要はない。良いな」


 レクイエム・ウェポンを扱う者はレクイエムの奏者と呼ばれる。多くの者から、戦場で葬送曲を奏でる者という意味で恐れられるからだ。

 その名をレイより長く背負ってきたヴァーミリオンの目は、ひどく真剣だった。


「……了解」


 ヘリに乗り込むヴァーミリオン達を見送りながら、レイは手元の資料を見直した。


『どうした? レイ』

「ビナー、もしかしたら、かなり激しい戦いになるかもしれない」


 そうポツリとこぼすと、ビナーが震えた。彼は争いや怖いことが嫌いだ。だからこそ、ウェポンになって以来、一度も奏者を選んでこなかった。

〈殺すための力〉を求める者が、怖かったのだと初めて会話した時に聞いた。

 だが、ビナーはレイを選んでしまった。たとえ争いが嫌いでも、レイがレオカンパニーに勤めている限りビナーは戦いの道具にしかならない。


『我はレイを選んだ。レイが純粋に我に興味を持ってくれたのが嬉しかったから起きた。我はレイが好きだ。だから、だから……レイを守るために我も頑張る』

「ああ、頼んだ」


 擦り寄ってくる鼻先を撫でながら、レイはほんの少し温かい気持ちになれた。




     ※ ※ ※ ※ ※




 同時刻、デネボラに入ってくる人間が四人いた。


「デネボラ到着。結構、時間かかったね」

「スコーピウスがひたすら邪魔をしてくれたからな。あと車のパンク」

「タイヤ買うお金あって良かったね」

「ほんとだよ、シズクちゃ~ん!」

「リーヴ、暑い。邪魔」

「ひどいよ、シズクちゃん!」


 その四人は、傍目に見れば友達のようでもあり、仕事仲間のようでもあり、家族のようにも見える集団だった。


 眼鏡をかけ、夜色の髪を軽く結っている男性。その隣には薄い茶の髪を同じく結っている男性と、その男性に抱きつかれている少女。少女は薄紫の髪を振りながら男性を引き剥がそうとしていた。そして、彼らの一歩前に赤い、夕日色の髪をした青年が歩いている。


「シン、シズクちゃんがひどい!」

「お前がウザイんだ。シズク、殴れ」

「はい」

「うわぁぁん! ひどいよ!」


 シンと呼ばれた眼鏡の男性が、もう一人の男性、リーヴの言をさらりと流し、抱きつかれていたシズクに過激な指示を与えた。拳を構える彼女に、リーヴが慌てて飛び退る。

 いつもと変わらない彼らのやり取りに苦笑しながら、ゼロは周りを興味深く見回した。


「どうした? ゼロ」

「ん~、いや。レオエリアっていつも通り過ぎるだけだったからさ」

「ま、このエリアはもう非合法な研究してないみたいだしね。お給料まで出てるから、俺らと一緒に来たいって言う混血児さんあんまりいなかったし」


 レオエリアは奇妙なエリアだ、とゼロは思う。特に二年前、今の社長に代替わりしてからは、ずいぶんクリーンなエリアになった。

 その当時まであった非合法な研究所は一斉廃棄。癒着して私服を肥やしていた企業は、二度と再建できないほどに潰された。おかげで反乱分子も少なく、綺麗なエリアに見える。あくまで見た目は、だが。


(汚いことしないでまとめられたら、そっちの方が怪しいしね)


 良いことだけをやって権力を維持できるなら、それは民衆が洗脳されていると考えた方が納得できる。レオエリアはそういった類ではない。

 おそらく裏では聞くに堪えないこともやっているだろう。それでも反乱が起きないのは、ひとえに混血児を含む民衆の安全と生活が保障されているからだ。

 エリア内各地域からの報告義務は徹底され、災害が起こればすぐに復旧と救援の部隊が送られ、不穏分子は証拠が固まり次第排除となる。

 今では、レオカンパニーの社長に見えない場所はない、とまで言われているほどだ。その分、ゼロ達もこのエリアでの活動はやり難いのだけれど。


「今回、レオとぶつかってないとはいえ、ちょっと被害出しちゃったしね。軍も動くかな?」


 リーヴが困ったように頭を掻く。先日レオエリアに入ってしばらくして、スコーピウスエリアの軍とゾスマ平原で一戦交えたのだ。

 ゼロとしてもあそこで戦いたくはなかったのだが、攻撃されれば仕方がない。こちらも死にたくはないのだ。


「軍はまだ動いていない。ただ、視察部隊は出ているみたいだな」


 小さなパソコンでシンは情報を見ていた。スクラップを拾って作った彼お手製のパソコンだが、シンが使えばハッキングも情報操作もこれ一台で済ましてしまうから怖い。


「じゃあ、目をつけられない内に、さっさとあの子を捕獲、もしくは処分して出て行かないとね。シズク、ここにいるんだよね」


 ゼロがシズクを見下ろせば、彼女はピタリと立ち止まって目を瞑った。人混みに流されないように庇いながら待っていると、彼女は髪と同じ薄紫の目を静かに開ける。


「いるよ。この街にいる。でもちょっと弱い……衰弱してるのかな?」

「かもね。急いだ方が良さそうだ」


 四人頷きあって、雑踏の中へと足を踏み出す。人の波に目を凝らしながら歩いていたその時、未だにパソコンを開けていたシンがゼロを呼び止めた。


「ゼロ、レグルスの方から〈ビナー〉の奏者が来たらしい」

「へぇ、あの二年前まで奏者がいなかった、孤高のレクイエム・ウェポンに選ばれた人?」


〈ビナー〉は、現存しているレクイエム・ウェポンの中で、唯一造られてから奏者を選んだことのない武器だった。その聖獣の正体も力も不明だったのだが、二年前、ラス・アルハゲからレオエリアに入った青年が奏者となったらしい。


「名前はレイ・アマトキ、だったよね。そっかぁ、来てるのか……」


 レオエリアには、戦闘者で有名な者が何人かいる。〈ケセド〉の奏者であるヴァーミリオン・ベンズ。社長の直属護衛で、奏者と同等に戦うと恐れられているアジェスタという男。

 そしてここに最近加わったのがレイ・アマトキだ。

 年齢的にも近く、以前から興味は持っていた。


「おい、目的を間違えるなよ。面倒が起こるのはごめんだ」


 ゼロの楽しげな表情を読み取ったのか、シンが心底疲れたというように溜息を吐いた。


「分かってる。会ってみたいとは思うけど……ま、今回は我慢するよ」


 いずれ戦うかもしれないしね、という言葉を呑み込みつつ、ゼロは三人の後を追った。

 二十代後半のリーヴとシン。十九になったゼロ。そして、まだ十五のシズク。傍から見れば友達のようにも、仲間のようにも、家族のようにも見える集団。それは全て正解でもあり、不正解でもある。


「さて、じゃあ捜索開始といきますか」


 ゼロの声に、四人は心得たように二手に別れる。彼らは友でもあり、仲間でもあり、家族でもある。そして、本当はそのどれにも当てはまらない関係だ


どこにも属さぬ者(ノーウェア)

たった四人のその集団が、静かにデネボラの街に紛れ込んで行った。


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