表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/9

プロローグ

 行く手を阻むのは真白の冷たい壁。痛いほどの勢いで頬を打ちつけるそれは、足下に積もり熱を奪っていく。


「はぁっ、はぁ……」


 吐く息は白く、一瞬掠めた温もりもすぐに冷気へと変わる。

 どのぐらいの時間こうして逃げてきたか、もう分からない。長時間にわたり力を行使しすぎたせいか、雪を防ぐこともままならなくなっている。

 それでも――


「逃げ、なきゃ……」


 感覚のなくなってきた足を叱咤して、必死に雪をかき分けて前に進む。

 止まるわけにはいかないのだ。

 これ以上利用されないためにも。犠牲を出さないためにも。そして、己の役割に背いてまで逃がしてくれたあの人のためにも――


「せめて、誰にかにっ、伝えるまでは……っ」

 

 肩口からポタリと、一滴の赤が真白の大地に落ちる。

 そう遠くないうちに自分は死ぬだろう。いや、死ななくてはいけない。

 けれど、全てを誰かに伝えるまでは。

 誰にも知られないまま命を利用され、失う人達。その人達を助けてくれる人が必要だ。

 だから、全てを伝えるまでは、死ねない。

 点々と落ちていく赤は、吹きすさぶ雪が全て消していく。

 前も後ろも真白の壁が襲い掛かってくる。それでも、彼女はただ必死に前へと歩みを進めた――




     ※ ※ ※ ※ ※




 眼下に広がるのは、キラキラと眩しく朝日を反射する銀世界。

 誰にも踏み荒らされていないその大地を見て、一つ溜息が出た。


「分かってたことだけど、完全に足跡消えてるね」

「昨日の吹雪は強かったから」

「っていうか、あの吹雪で生きてんのか? むしろあの中に埋まってそうだぞ」

「それはないでしょ。彼女は〈魔女〉なんだから」


 防寒服に身を包み、フードを目深に被った男三人は溜息をつく。

 目的の人物の痕跡を全て消した雪は、憎らしいくらいに綺麗だった。

 さてどうしたものか、と思案していたその時、くいくいと防寒服を引っ張られる。


「ゼロ、あっちにまだ気配がある」


 そこには、自分や後ろの男二人よりも遥かに背の低い姿があった。感情の起伏があまりない声は少女のものだ。

 彼女は南西の方角を指差している。


「ちょっと遠い。今は、海の上かも」

「西大陸の方角……だね」


 少女の言葉にゼロと呼ばれた男はそちらを見る。ここからでは鬱蒼と茂った森と積もる雪しか見えない。だが、それを越えれば海と大きな大陸がある。西と東に一つずつ。それぞれ六つのエリアを抱えた大陸が。


「西大陸かあ。上手くいけば保護してもらえてる可能性が高いね……」

「東よりは少しマシなエリアが多いからな。見かけは、だが。」


 後ろの男達の言葉に、ゼロはニッと口元だけで薄く笑った。


「行こう。あの魔女がまた力を利用されるなら、今度こそ息の根を止めないと」


 ゼロの言葉に残りの三人がそろって頷く。

 その数瞬後、四つの人影は木立に埋もれるように消えた。

後 に残ったのは、ただどこまでも続く真白の世界。全ての色を塗りこめ、また新たな色を求める、始まりの象徴だけだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ