なろう作家の俺の日常
カタカタ、カタカタ。うぃーん。
無機質な音だけが部屋に響く。タイピングの音、パソコンのモーター音。最近はずいぶんと冷え込んで暖房をつけないとやってられないような気温だが、俺は電気代節約のために敢えてつけないでいる。まあ、こうしてパソコンを起動させている時点で元も子もないと言われたら否定はできないが。
頭に浮かんだ文章を打ち込み、気に入らない部分を消したり付け足したりの繰り返し。切りのいいところまで、と思っていたが、なかなか上手く進まない。この話はここまで進めるのだ、と思っても、キャラが思う通りに動いてくれない。好き勝手に行動し、俺自身、思いもよらない展開になってしまう。
それが小説を書く醍醐味でもあるのだが、と俺は考えている。
「しっかし、それにしても……こっからどう進めるべきかな……」
タン、とエンターキーを押したところで指を止める。
物語の着地点は決めてある。それに至るまでの大まかな道筋もなんとなく頭にある。しかし、それを文章にすることが出来ない。
こいつはこう動かすとして、そうするとこいつがこうなるから、あいつは……と目を閉じて考える。伏線も回収しつつ、どうにか形になるようにと組み立てていく。
よし、と目を開けて再びカタカタと音を立てる。一先ず書いて、それから推敲しよう。
「……そこで、彼は……少女は振り向いて……だから……」
ブツブツと呟きながら文章を見直す。おかしな所を修正しながら、完成形へと近づけていく。
この、自分の世界を作り上げる感覚。楽しい、と思わず口角が上がってしまう。誰も見ていないのだがなんとなく気恥ずかしく、それを手で覆い隠す。
カーソルを上書き保存のボタンに当ててクリック。そして保存したものをもう一度読み返す。いくつか誤字が見つかったからそれを直し、再び保存。
ざっと目を通した後、投稿のボタンをクリックする。必要事項を記入する。
目を引くようなタイトルでも、興味をそそられるようなあらすじでもない。工夫してみようか、と思いたったものの、そういったセンスは無いのかおかしなものになってしまった。苦笑して首を振りながら消し、もう一度最初のやつを打ち込んだ。
別に、たくさんの人に見てもらうために書いているわけではない。ただ、書きたいだけだ。
頭の中にある世界を形にしたい。キャラたちを思い切り動かしたい。このシーンを表現したい。この台詞を言わせたい。
その思いに突き動かされるように書いているのだ。
もちろん、見てもらえたり評価されたりしたら嬉しいが、それが目的ではない。
昔から自分を表現するのが苦手だった俺が見つけた、自己主張の方法。小説を書くことで、俺は自分を表現できる。
見直して、よし、と頷く。カチリ、と俺はマウスを押した。
そして新規小説作成ボタンをクリックし、また新たな物語を書き始めた。
カタカタ、カタカタ。うぃーん。
※フィクションです。実際の作者にはほとんど関係ありません。