【物語】デュアルソリッド 『シリュースの声 前編』
001
ウトルは宇宙コロニー・セラナのセントラルステーションに降り立った。彼の黒い瞳には透明なコロニー天板からの広大な宇宙が映り込んでいる。
「あ~、やっと着いたよ~。つっかれた~!」
半袖シャツ姿でシャトルでの長旅で固まった身体を伸ばしつつ、ジーンズのポケットからタブレットを取り出し父へメールした。コロニーの換気風で黒髪が軽く揺れる。
そこへ「ウトルくん!ひさしぶり!」と同級生のパーシャがふわふわシャツとショートパンツ姿で、青い瞳をいっぱいに開き満面の笑みと共に駆け寄ってきた。カフェラテ色のショートボブも動きに合わせて揺れている。
「あれ?パーシャ!」
彼は面食らったが、父の代わりに迎えに来たのだとわかると、一緒に父のいるアウロア工業技研所へ向かった。
ウトルは半年ごとに母のいる地球と、父のいるコロニーを行き来しつつそれぞれのスクールで学んでいる。17歳の彼の目標は父の開発する響鳴発光動力機関・エコーエンジンに関わることだ。パーシャの父も同じ施設で働いている。
「ウトルくんとまた会えてうれしい」
頬を染めて笑顔で話すパーシャに、ウトルも「俺も」と笑顔で答えた。
その夜。父は夜勤で帰宅しないのでウトルは父の家でくつろいでいた。
なんとなく、スポーツバッグの中から地球の荒野でひろった水晶石を取り出して眺めた。その石は野球ボールくらいの大きさで透明だが、光を受けると中に様々な色の輝きが乱反射し、あまりの美しさに見とれてしまう。「明日、パーシャに見せようかな」と、思っていると、いきなり水晶石が淡いグリーンの光を瞬かせ、それが石から一気に溢れて放出した。
「わ~っ!?」
大声で驚いたウトルは、思わず石を放り投げてしまった。
すると、床に転がった石から『はじめまして!エイミテです!』と一人の髪の長い少女が実寸で現れ、ホログラムの様に輝きつつ浮かんだ。
ウトルは目を丸くして声も出なかったが、少女が柔らかく微笑むのを見ると心が穏やかになった。
「エイミテって言うの?俺はウトル。君はどこから来たの?」
彼は思い切って聞いてみた。
「ウトルのいる所とは違う場所。私はいろんなところをシリュースで見るのが大好きなの」
エイミテと名乗る少女は、にっこり笑った。
「シリュース?」
「その石のこと。私の宝物なの」
彼女はウトルに水晶石・シリュースを手渡しながら微笑んだ。
ふたりはともだちになって、ウトルがいろんな場所をエイミテに紹介することにした。
002
翌日、ウトルはアウロア技研所でパーシャと待ち合わせして合流した。
ウトルは彼女と一緒にもうひとりのともだち、ラピスに会いに行った。
つなぎの作業着姿のラピスは開発試験部のデッキにいた。「ラピス兄ちゃん!」とウトルが呼ぶと、彼は笑顔でふたりを出迎えた。
「はい。頼まれていた森と海の音!」
そう言いつつウトルはラピスにデータチップを渡した。ウトルよりもかなり年上のラピスではあるが、アイスブルーの瞳を少年の様に輝かせ「ありがとう」と微笑んだ。
ウトルは「今日はふたりに紹介したいともだちがいるんだ」と言い、シリュースを取り出した。二人が綺麗な石を見つめると、そこにエイミテの霊体がふんわり現れた。
初出現時よりも光は抑えているが、淡いグリーンに輝く少女に、ふたりもさすがに目を丸くした。
「君、とても綺麗な音だね」
好奇心の優ったラピスが、しみじみしながらエイミテに話しかけた。
エイミテも彼を見て「ありがとう。あなたもあたたかい」と微笑んで答えた。
「この子はエイミテ。いろんな場所を旅しているんだって。だから俺がいろいろ案内しているところ。エイミテ、この子はパーシャで俺の幼なじみ。あとはラピス兄ちゃん。テストパイロットなんだよ」
ウトルはみんなを紹介した。
ラピスはみんなに「シリュースの音がハーモニーシステムに似ている」と話しつつ、みんなをデュアルソリッド格納エリアへ連れて行った、そこには数機のアウロア製巨大人型兵器・デュアルソリッドポッドが並んでいた。
コックピット高の細い橋を渡りつつ、ラピスはその中の朱色の機体をと白い機体並ぶ前に案内した。
「エイミテ、紹介する。朱色が私のアレイシャ。白い機体はラビット」
ラピスは話しつつ、ラビットのコックピットハッチを開けた。ウトルは「アレイシャは知っているけどラビットは初めてだ」と、パーシャと共に中を興味津々に眺める。
「この子はやっと最近、歌を覚えた。まだ育てているところ」
ラピスは話しつつコックピット内部のパワーモードをオンにして「ラビット、みんなとおはなししてごらん」と話しかけた。
ラビットのコックピットはシステムの鈴音と弦の音を響かせた。とても柔らかい音にみんなの顔もほころんだ。
「みんなに挨拶をしている。エイミテ、この子は音で話すんだよ」
ラピスは説明した。みんなもそれぞれにラビットに向かって話しかけた。
「本当だ。シリュースの音と似ている。でも、この子はとても大きいけど子供。どうしてたくさん火を積んでいるの?」
エイミテは首をかしげてラピスに聞いた。彼は「兵器だからだ」と答えた。エイミテがちょっとしんみりした顔をした。
「ラピス兄ちゃんはいいひとだ」
ウトルはエイミテに言った。
「うん。わかる。いろいろ、わかるよ」
彼女は、それだけ答えた。
エイミテはラビットに「ラビット。私とともだちになろう!ラピスも!パーシャも!ありがとう」と言った。ラビットはとても綺麗な音を奏でた。
パーシャは「エイミテはいろいろわかってすごい」と、笑顔で彼女と話し、みんなも賑やかになった。
ラピスは機体の協奏に耳を澄ませながら、静かに目を閉じた。
003
翌日、ウトルは放課後にパーシャとエイミテを街に誘い、パフェを食べさせて楽しんでいた。パーシャもエイミテも「パフェって甘くておいしい!」と大喜びだ。ウトルも楽しくて笑う。
ふと、三人は街角で泣いている小さな黒髪の男の子を見つけたので、声をかけてみた。
「ママのいる病院に行きたいけどわからなくなった」
その子は涙ながらに答えた。
ウトルとパーシャはその子を病院に案内することにした。
彼は男の子に「名前はなんて言うの?」と聞くと
「僕はポーラ・メーシェ!」
ポーラと名乗る子は顔を上げて、元気よく答えた。
が、その直後「お兄ちゃんの後ろにオバケがいる!」と大声を出した。
ウトルとパーシャは顔を見合わせた。
「ポーラはエイミテが見えるの?」
パーシャはポーラの頭を撫でながら尋ねた。ポーラは涙目で頷いた。
ウトルは笑って「なんだ、お前いい奴じゃん」と、彼にエイミテを紹介しながら病院に向かうことにした。
その集団を影から見つめる数人の男性がいた。
「石の反応はあの少年にある。隙を見て奪還、月の宮様にお渡しするのだ」
ひとりが他の者達に静かに指示をした。
(つづく)




