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カラオケ 後編

 店員に予約していた旨を伝えると、そこそこの広さの部屋に案内される。

 まずはノリのいい相沢から歌うことになった。

「あ、立つ? いいよ! じゃあ歌うねー」

 相沢は某撲殺天使のテーマを歌う。ロリっぽい声質で力強い歌い方はギャップがあってよかった。

 次に川辺がダフトパンクを歌った。下手だった。

「やっぱり川辺くんは下手だねー。中学の時の音楽の授業も散々だったもんね」

 望月が珍しくからかうような口調で川辺に笑いかける。川辺は怒るわけでもなく照れた様子だった。

「いやー、あれはリコーダーがぶっ壊れていただけだから」

「お前ら、中学一緒だったの?」

 俺が尋ねると、川辺は照れくさそうに望月はちょっと首を傾げて答えた。

「うん。俺と望月さんのクラスは違ったけどね」

「ていうか幼馴染だよね。高校入るまではあんまり仲良くなかったけれど」

 俺は冷やかすような意味で、川辺をにやにや見つめた。

「なんだ! その顔は!」

 川辺はわかりやすく顔を真っ赤にする。

「あー、次は俺だ」

 イントロが流れて増谷がマイクを持った。

 プリキュアだった。意外すぎる……!

 次に望月が歌う。カパネットにとりだった。俺へのサービスなのは容易に理解できたが、かなり下手くそだった。音程があっていないし、ところどころ舌が音楽のテンポについていけていない。だが、声だけは可愛かった。

「次だれ?」

「俺だ」

 手を挙げると、望月は俺にマイクを渡してきた。

 「きっともうはたらかない」を熱唱。だが、今までがオタクソングばかりなのでそこまで引かれなかった。

「上手だねー!!」

 望月に褒められて、俺は首を傾げた。

「どうすれば音程って合うの?」

 無邪気な奴の質問は怖い。望月が歌唱力を獲得するのは現世では無理だと思う……。

「あー、神田島が歌うぞ。聴かなくていいのか?」

「あ、そうだった」

 望月は神田島の方を見つめる。

 神田島の歌は相当上手だった。吹奏楽部に入っているだけあって、音感があるのだろう。

 すごい特徴的な歌詞の曲を歌っていた。バラードが声質に合っている。

「うま~い!」

 みんなが感嘆の声をあげるが、神田島は「上手くない上手くない」と硬い声で否定した。

 歌が五周目くらいに入ると、だいたいみんなの傾向がわかってきた。

 相沢は美少女ゲーム、死にゲー、アニソンのテーマが多い。

 最初にプリキュアを歌った増谷は当たり前だがそれはウケ狙いだったようで、歌謡曲ばかり歌い始めた。レパートリーが少ないらしく、四苦八苦している。

 川辺はダフトパンクまたはスパイエアーを歌っている。選曲のセンスはいいが、もっと歌いやすい曲を歌えばいいのに。

 望月は、ボカロ、東方も歌えるらしいが、基本的にはmiwaやパスピエやケラケラなど、四文字の俺にはよくわからない歌手、またはバンドの曲を歌っている。まあ、比較的可愛らしい曲というべきか。

 俺はというと、東方を始めとしたゲームの曲、アニソンが多かった。たまに映画の主題歌も歌う。J-POPも歌えないことはないが、こっちの曲のほうが好きなんだ。でも女子の前なので性的な歌詞の曲は歌わないようにしている。

 神田島は、「今、あたしの中で『SHISHAMO』がキテる!」と言っていた。それ以外だと、クリープハイプなどを歌っている。

 そんな感じで、和やかにカラオケは進んでいた。

「今って、男女三対三で合コンに思えるのは俺だけかな?」

 歌うのに飽きて歓談中。真面目な増谷に似合わない言葉に、川辺はぶっと吹き出す。

「あはは、違うよー」

 ヘタレな川辺を庇うように、望月は否定した。

「でも、そうだねー。みんな異性を意識して選曲しているかも。増谷くんの気持ちもわかるよ」

 望月の言葉に増谷は頷く。

「あ、そうだ! 川辺くんに『クリスマス?なにそれ?美味しいの?』を歌ってもらおう!」

 望月がその鬼のような歌を予約しようとする。

「むむむ、無理! だって今クリスマスじゃないし!」

 川辺、必死。女子の前でそんな下ネタ歌える奴は勇者だろう。さすがに望月も冗談だったようで微笑んだ。

「冗談だよ。私が歌うよ」

「いや! それはもっとダメ!」

 川辺は女子に対する自分の理想を守りたいのだろう。それも阻止しようとする。

「お前、羞恥心がところどころ抜けているよな」

 俺の言葉に、望月は困ったように笑った。

「ズレているよね。エイリアンだから」

 ああ、そういや前に言っていたな。忘れていた。こいつはもしも健常者に生まれていたら、明るく聡明な常識人だったのだろう。今も普通にしようと努力しているだけあって、基本的には健気な子なのだが。

 望月自身も、障害さえなければ、とか考えるんだろうな。

「じゃあ、盛り上がる曲歌おうっと! 田宮くん、一緒に『宿題が終わらないっ!』を歌おう!」

「え?」

 いきなりの名指しに俺は戸惑う。

「一人で歌いきれないところを歌ってくれればいいから!」

「ならいいよ」

 そして、この歌は非常にウケた。誰しもが共感できる夏休みの宿題の大変さをありえない形で表現しているからだろう。

***

「あー、楽しかったー!!」

 夕飯はみんなでカレーだった。望月はナン食べ放題なのをいいことに、二枚目のナンを頬張っている。華奢な体のどこにこんな量が入るのか。二枚って俺が腹一杯になる量だぞ。

「カレー美味しいね!」

 相沢はちまちまカレーを食べている。こういうところはやはり普通の女の子だな。

 反対に神田島は激辛カレーを汗を掻きながら食べていた。こいつは男の前であっても自分のやりたいようにやる奴なんだな。

「うっ、辛っ」

 増谷は辛いものがあまり得意ではないようだった。甘口を注文すればよかったのに。プライドが邪魔をしたのだろうか。

「そういえば、最近育てたハーブが、いい感じに……」

 川辺はマイペースに自分の趣味の話をしていた。こいつはやっぱりモテないな。

 俺はというと、もう食べ終えたので、手持ち無沙汰になりつつ、みんなの話を聞いていた。

「田宮くんが歌が上手いのは意外だったなあ」

 望月の正直な言葉に俺は笑う。

「見た目はすごい下手そうだもんな」

「いや、そんなことないって。予想以上に上手だったのよ」

 神田島のフォローに、俺も褒め言葉を返す。

「お前のほうが上手いよな」

 神田島は赤面した。

「あたしの歌が上手いってどんだけ耳が肥えてないの?」

 尖った言葉だが顔は笑っていて、冗談で言っていることは容易にわかった。

「俺はひさきちゃんのファンになっちゃったよー」

 増谷が爽やかに言ったので、その場で笑いが起きた。

「また誘っていい?」

 望月がみんなに訊いて、全員頷く。

「むしろ混ぜてー」

 相沢が人懐っこく微笑んだ。

 元不登校の俺でも普通に友達と出掛けられるんだと、ちょっと自信になった日だった。


※ 参考

「DAFT PUNK」

「プリキュア」シリーズ  東映アニメーション株式会社

「きっともうはたらかない」 イオシス(IOSYS)

「SPYAIR」

「miwa」

「パスピエ」

「ケラケラ」

「SHISHAMO」

「クリープハイプ」

「クリスマス?なにそれ?美味しいの?」 ヒャダイン

「宿題が終わらないっ!」 Innocent Key

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