表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/40

外見と内面

「田宮くんって望月さんとメアド交換している?」

 昼休み、川辺に訊かれて、俺は顔を横に振った。

「してないよ」

 その言葉にあからさまにほっとした様子の川辺。

「なんで?」

 首を傾げると、川辺が俯きがちに説明した。

「メアド教えてって言ったら、断られた」

「あいつにメアドを訊く勇気は褒めてやる」

 川辺はかなり自分を奮い立たせて尋ねたのだろう。落ち込み具合も半端ない。

「ふうん。逆に俺はコウミちゃんからメアド訊かれたけどなー」

 なんでもないように話す増谷には、俺も驚いた。

「な、なな、なんで?」

 川辺の質問に、増谷は柔らかい物腰で説明した。

「図書委員会五班の一年メンバーを誘って、休日にカラオケ大会を開催しようってことになったんだ。その連絡手段。二人もぜひ来てね」

「行く!」

 川辺は身を乗り出して了承した。

「六月中ならいいよ」

 俺も頷く。

「俺も理由をつけて尋ねたら教えてくれたのかなー」

 ちょっと立ち直ってきた川辺の言葉に、俺は曖昧に首を傾げた。増谷みたいなのが好みかもしれねえじゃん。

 正直、増谷が望月のメアドを知っていて俺が知らないというのは、面白くなかった。別にそれを表に出して不機嫌になったりはしないが、どちらかというと悲しいのと焦るのが混じった気持ちになる。

「俺、女子と出掛けるの初めてだなー」

 増谷がわくわくしたように笑う。爽やかだった。こいつは真面目だから、女子どころか遊ぶこと自体あまりなかったのだろう。

「安心しろよ。俺も初めてだ」

 川辺は興奮したように笑いを噛み殺す。こいつはイケメンの部類だが、正直男として気持ちが悪いからモテなかったのだろう。

「田宮くんは?」

 増谷は何でもないようにこちらを見やる。

「まあ……、小学生の時は、あるけど」

 小三くらいまでは、『田宮くんは優しくて物知りだね』なんて言われて、人並みに学校生活を送れていた。いつからか、見た目と性格がオタクな奴は教室の隅が居場所になっていった。

「いいなー、お前! あーもう! 焼きそばパンよこせ!」

「やらねえよ」

 目を三角にする川辺をよそに、俺は焼きそばパンを食った。う、なんかもさもさしている。

「まあでも、女子三人とも美人だし、嬉しい限りじゃないですか!」

 和ませようと増谷が明るい方向に話を持っていく。

「そうだねー。みんな性格にちょっと難有りだけどね……」

 川辺の言葉に、俺はごもっともだと思った。今日はこの前の委員会の話をしたいと思う。

***

 城山委員長が遅いのはいつものことなので、俺たちは雑談をしていた。

「この中で成績が悪いのって俺だけじゃね?」

 川辺の突然の言葉に、皆は曖昧に首を傾げる。

「単純に新入生テストの成績が五十位以下で廊下の張り紙に貼り出されていないのは、川辺くんと松美ちゃんだけど」

 ものすごく歯切れのいい言葉を言ったのは、他でもない望月だった。正直者は怖い。

 空気が固まるが、望月はのほほんと皆の返答を待っていた。

「……それ言われて嬉しい奴はいるか?」

 俺の言葉で空気が固まっていることに気がついたようで、望月は慌てて付け足した。

「で、でも川辺くん、英語と数学の点数はすごかったよね! 両方とも八十点台だものね!」

 それだけ言って、誤魔化したぜ、という顔をする望月。遠まわしに『お前どんだけ国語できないの?』と言われた気分になりそうだ。

「まあ、理系だからね」

 真顔で答える川辺。

「ご、ごめんなさい……」

 望月の謝罪に、川辺は慌てて相好を崩した。

「いや、総合成績が低かったのは本当だし、素直でいいと思う」

 望月は決まり悪そうに「ごめんね、ありがとう」と返した。

「うちだって勉強はできないけど、特技はあるのよ!」

 天使ロリの相沢松美が手を挙げた。

「すごーい!」拍手する望月。

「まだ何か言っていないでしょ」苦笑いを返す相沢。

「なんだよ?」

 尋ねると、えっへんと相沢は胸を張る。

「望月コウミちゃんは、身長百五十五センチ、スリーサイズは上から八十四、五十七、八十五。見た目の割には豊かだね! 神田島ひさきちゃんは、身長百六十六センチ、上から、八十、五十九、八十。服の上からでも誤差は一センチだよ!」

 その瞬間空気が固まる。

 外見通り恥じらいがありそうな望月は胸の前でこぶしを作り、顔を真っ赤にしていた。

「っきゃーーー!」

「あはは! うるさーい!」

 もはや堕天使に見えてきた相沢の笑顔。

「き、聞いてた? 田宮くんたち」

 恐る恐るという風に尋ねてくる神田島に、男子三人は首を横に振った。

「俺たち、岐阜県在住で音ゲーの指で有名な方のツイッター見ていたから」

 神田島はイマイチ理解できていなさそうな顔で「ふうん、そうなんだ……」と返事をした。

 そして神田島は相沢を向き直る。

「あ、相沢さん、人のスリーサイズをバラすのよくないよ」

「ごめん。でも特技をどうしても披露したくて……」

 ガキか。この場にいる全員が相沢に対して心の中でつっこんだ。

「どうしてもやりたいなら、グラビアアイドルのスリーサイズを言いなさい。どうせあいつらはサバ読んでいるんだから」

 神田島も結構言うなあ。

「だって、グラビア写真集、持ってないし……」

 相澤の言い訳に、神田島はこちらを指差してきた。

「男子たちに借りなさいよ!」

「いやいやいや!」

「持ってないから!」

「そんなものに興味ないし!」

 三人同時に言ったけれど、誰がどのセリフを言ったのかはあまり重要じゃないよな。

 その後十分くらい、相沢は神田島に説教されていた。でもそのおかげで望月の気が収まったのか、相沢はこれ以上のおとがめなし、無罪放免になった。

***

 これが先週の委員会の話。

 清楚な美少女に見えるが、実は空気クラッシャーの望月コウミ。

 純粋なロリ天使然としていて、中身はエロオヤジとガキの練り物、相沢松美。

 内気で大人びた美少女だが、頑固な毒舌家、神田島ひさき。

「あの三人と出かけるのか……」

 川辺が呟く。

「美人なんだけど……」

 増谷が苦笑いを浮かべた。

「なんだかなあ」

 俺の言葉は昼休みの日差しに消えていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ