努力
望月はよく俺のことを好きだと言う。
でも俺はそれについて言及しない。
例えばこの前の話だが、俺が望月に『誕生日おめでとう』と言ったとする。
すると彼女は『ありがとう。やっぱり大好きな人から祝われるのが一番うれしいね。今朝のごはんが冷凍食品の悲しみがなしになったよ!』と返した。
俺はそれに『そんなに冷凍食品が嫌か?』とだけ返す。
俺なりに会話を成立させようとするだけえらいと思うのだが、望月は不満らしい。というか、傷つくらしい。
一応、付き合ってから、俺の家族の話とか、心の内側の話をするようになったのだが……。
正直、誰も好きになったことがない俺と、ベタ惚れになったら突き進む望月は合わないんじゃないか、と思えてきた。
ちょっと前まで、俺が本当に誰も愛せない人間なら、けじめをつけなきゃな、と思っていたが、けじめをつけるだけの勇気がない。
いっそのこと嫌われて、振られたい。
「最近、元気ないな」
同じクラスの榎田に訊かれて、俺は曖昧な笑顔を返す。
「最近体調が悪くて」
「まあ、もうすぐ夏休みだから、がんばれ」
夏休みかあ……。この前、望月に『夏休みに会いたい』と言われて断ったんだよなあ……。
そんなこんなでただ時間だけが過ぎてゆき……。
夏休みの一週間前。
俺は望月と別れることになる。