お土産
朝、登校時に電車で望月からお土産を貰った。某ネズミ王国に行ったらしい。
で、教室に着いた後にすぐに俺はすぐにトイレに行った。
そのあと部活動のことで話があったので、一組の藤木のところへ行くと、某ネズミ王国の袋があった。
「ああ、これ? 望月さんからもらったんだ。この前、お土産をあげたからお礼だって」
「へえ……」
土産をくれたのは、俺だけじゃないのか。
「お徳用のマシュマロをみんなにめっちゃ配っていたし、結構お茶目だよね、望月さん」
苦笑する藤木。
「そうだな……」
俺は軽く笑った。
その後、藤木に部活動の報告をしてその場を立ち去る。
そりゃそうだ。望月にとって俺なんかがそこまで特別なはずがなかった。
だが、俺自身も望月のことを特別に大切にしていないのだからお互い様だ。
まだ手放しで人を信用するのが怖かった。
某ネズミ王国には、神田島と相沢との三人で行ったらしい。楽しそうな写メも見せてくれた。
俺は意識して望月よりも男友達を大切にしている。
男友達には自分から挨拶するし、愛想ももっといい。
女子と関わるのは苦手だ。相手が異性だと思えば思うほど。
好意を示して好意が返ってくるとは思えない。
だから、怖い。
そういう態度をとっているから、望月が俺以外の奴を大切にするのは当たり前じゃないか。
はいはい。やめやめ。考えるの。
***
部活動の時間。
「お前いっつもチョキ出すんじゃないのかよ!」
じゃんけんに負けた岩瀬の悲痛な叫び。
「あはは、裏をかいたんだよ!」
笹塚は最後の一個だったクッキーをかじりながら笑った。
「こんなのでよかったら、また作ってくるよ~」
桜井の明るい笑顔に皆が和む。
「たみっちゃんも料理ができる女の子、好き?」
笹塚に尋ねられて、俺は首を傾げた。
「好みとか、考えたこともないよ」
「ええ! マジで」
笹塚は今日も元気にオーバーリアクションだ。やはり一緒にいると楽しい。
でも、彼女に恋をしているかというと……それも違う気がする。
というか、俺は望月と付き合っているのだ。そういうことを考えてはいけないのだろう。
本当に俺が誰も愛すことができない人間なら、いつかはけじめはつけなければな。
それが自分を好きになってくれた子に対する誠意だろう。
***
部活が終わって帰ろうとしていると望月に会った。
「私、今日図書委員会だったんだよねー」
望月はにっこりと微笑む。
「一緒に帰らない?」
「まあいいよ」
いつも望月は、電車に乗るまでは他愛の無い話しかしない。同級生に聞かれたら困るからだ。
でも、今回は電車に乗った後も他愛のない話しかしなかった。
「それでね、今年の文化祭で図書委員は……」
「ディズニー、楽しかったか?」
俺はふと尋ねる。望月の話題を中止させてまでの話ではないが、無意識に気になったのだ。
「え? 楽しかったよ!」
「乗り物乗ったか?」
「うん! 絶叫マシーンばかりだったけど」
望月は屈託なく微笑んだ。
「一番楽しかったのは、お土産選ぶときだったかなー」
望月の言葉に、俺はドキッとする。
「だいたいみんなお徳用で済ましたけどね、ちょっとしたお菓子をもらうとみんな嬉しいでしょ」
「確か、もうすぐ移動する臨時職員にも渡していたな」
「そうそう。お餞別にね」
望月は屈託なく微笑んだ。
『飯田橋ー、飯田橋ー』
望月の最寄駅に到着する。
「あ、じゃあもう降りるね」
「おう」
俺は頷いた。
電車を降りるときに望月はめちゃくちゃ明るい声で言ったのだった。
「でも、お土産に一番気合が入っているのは田宮くんだからね! バイバイ!」
俺はとっさに上手い返しが思いつかず、おう、とだけ返した。
電車が動き出した後、俺は席に座って考える。
俺は望月に恋をしていない。
だから、望月の好意が俺には理解できない。
でも、付き合っている以上は、俺も素直に望月に、俺の心の中をさらけださなきゃな。