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初デート 後編

「じゃあ、お部屋は七○三号室となりますので。お飲み物は何に致しましょうか」

「ウーロン茶で」

「うん。望月さんはウーロン茶って感じがする。絶対甘酸っぱくないよね」

「そんなので私の人間性を語るな!」

「田宮くんは?」

 望月の憤慨を無視して夏目は俺のほうを見やる。

「オレンジジュースで……」

「ぶほっ。似合わねー!」

「こら! 夏目くん!! 店長呼んで、減給させるぞ!!!」

 顔を真っ赤にする望月に苦笑いを浮かべて、俺達は夏目のいるカウンターを後にした。

***

 最初の方はお互いに照れからかネタ曲しか歌わなかった。

 しかしだんだんガチな曲を歌うようになる。

 しかし、三時間くらい経つとお互いに喉が限界になって、歌うことを休憩して喋り出した。

「あのー。田宮くん……」

 望月が真剣な顔をこちらに向けてくる。

「田宮くんは私のことをどう思っているの?」

「いや~」

 俺は困ってしまった。

「よくわからない……」

「嫌い?」

「それは絶対にない! それに好きじゃないわけじゃないけど……」

 俺は俯く。

「今まで二次元以外に恋をしたことなんてなかったし……」

「……」

 望月、絶句。しかし、なんとか声を絞り出して訊いてきた。

「でも、こいつと付き合ったら楽しいだろうなーって思ったりはするんでしょう?」

「まあね」

「それでその相手は私じゃないんでしょう?」

「……まあね」

 その相手は笹塚だったりする。笹塚みたいな美人が俺なんかの相手をするわけはないだろうけど。

「じゃあ、好きな子がいるのに告白されてとりあえず私と付き合ったの?」

「だから、片思いって程じゃないんだよ。お前だってイケメン見れば格好いいなーとかいい気分になったりするけど、恋とは違うだろ?」

「私はイケメン無理だし。人生楽しそうで妬ましいとさえ思う」

「……」

 確かに俺に告白する時点で、こいつはそういう変わった趣向の持ち主なのかもしれない。

 お互い黙り込むが、先に息を吐いたのは望月だった。

「じゃあ、そこまで落ち込むこともないわけね」

「まあ、お前のことをどう思っているかは複雑だから、言葉を整理して今度言うよ」

「……うん。待っているね」

 望月の笑顔にはどこか陰があった。

 その後、俺達はまた歌いだす。

 シャウト系の悲恋ソングばかり歌っているのはただの偶然である。お互い、早くも恋愛に心が折れたわけではない。

 だが、一時間で喉が限界になり、俺達はまた喋り出した。

 俺は初めて家族のことを自分から望月に話した。親が弁当に親子丼やうどんを入れる変わった人だとか、検査技師じゃなくて学校の事務員になれとうるさいだとか他愛もないことだったが。

 望月は嬉しそうに話を聞いていた。五倍くらい自分も家のことを語っていたが。

 なんだかんだで楽しくカラオケを終えることができた。

「今日はありがとね」

 電車の中で望月は呟く。

「いや別に」

「とっても楽しかった」

 望月の笑顔はとても屈託のないものだった。

 そして彼女は、俺の手をごくごく自然にとろうとしたが、俺は思わず手に持っていた切符を渡してしまった。

「ええ……」

「切符! お前いつもパスモだから切符見てみたかったのか? 変わっているなあ」

 早口でまくしたてる俺に、望月は泣きそうな笑顔で告げた。

「わーい……切符だー……懐かしいなあ……」

「……飯田橋、着いたぞ」

 俺は望月が気の毒になって話題を変える。

「あ、うん」

 望月は俺に切符を返した。

「気を付けて帰れよ」

「ありがとう」

 望月が電車を降りて去って行ったあと、俺は、自分の手の震えを確認する。

 二次元じゃないんだから。三次元と恋愛するのだから、相手が思ってもみない行動に出ることだってあるよな。

 そんなことも知らなかったのか? 俺。

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