初デート 前編
今までは障害者の望月さん中心で話が続いていましたが、彼女は恋愛に関しては普通の女の子です。
逆に田宮くんは精神的に色々抱えているので、これからは彼を中心にお話が回っていきます。
どうぞお付き合いください!!
プルルルル。携帯電話に望月からの着信が入る。
「はい」
『もしもしっ。田宮くん?』
「どうしたの?」
『今度の日曜日、一緒にあああ、遊ばない!?』
付き合うことになった男女がともに出かけることを世間では『デート』と呼ぶらしい。
まあ、いつかはするのだろうと思っていたが……今日告白されて、今日のうちに約束を取り付けるとは早すぎるんじゃないか? それともこれが普通なのか?
「いいよ。どこに行くの?」
『あ! 考えてなかった!!』
「ああ……」
俺は控えめに笑う。
『ええと、何して遊びたい?』
「何って……カラオケとゲーセン以外思いつかないんだが……」
『そうねー』
意外と俺達って趣味合わないんだよなー。将来だって、俺は理系で臨床検査技師になるために勉強しているが、こいつは完全な文系で図書館司書を目指しているし。
『田宮くんは街を決めてぶらぶらする派? それとも映画を見るとか目的がないとダメ派?』
「目的があると助かるけど……でも映画はやめてくれ」
俺は赤の他人と密閉された空間で、長時間じっと暗闇の中映像を見るという所業が、どうしても苦手だった。
『そっかあ』
「あと、なるべく金がかからないものがいい」
『……え?』
あーでも、カラオケでもそれなりに金はかかるよなあ。日曜日の高田馬場のフリータイムは千円単位だし。
「あー、じゃあカラオケで! それがいいよ」
俺の言葉に望月はうん、と頷いた。
「十一時から六時まで、めいっぱい歌うからな!!」
俺の言葉に、望月はくすりと笑い声を返した。
***
「おまたせー!」
待ち合わせ時刻の五分前に、望月が白いブラウスに黄色いカーディガン、スキニージーンズという可愛らしく上品な服装でやってきた。
「田宮くんはいつも早いよねー。何分前に来たの?」
「今日は三十分前かな」
「はやっ! 一年前の図書委員会のメンバーでのカラオケは五分前だったよね?」
「あれは増谷とお前の企画だったから、一番に来たら悪いかなと思って……」
俺の言葉に望月は苦笑した。
「不安なんだね」
「そう。すっげー不安」
人に不安だというのは久しぶりかもしれない。
「じゃあ、カラオケに行きましょうか」
望月が歩き出すので俺は着いてゆく。
高田馬場は俺の家からも望月の家からもちょっと離れてはいるが、定期券内で来られるので重宝している。
某有名カラオケチェーン店に入ると、背の高い店員(男)がいた。
「夏目くん!」
目を丸くする望月。
「知り合いか?」
「う、うん。不登校時代の適応指導教室での友達……」
困ったような望月に構わず、夏目と呼ばれた男は俺に挨拶する。
「いらっしゃいませ! 望月さんの友達の夏目です!」
「どうも、田宮です」
頭を下げると、夏目は人のよさそうな笑顔で言った。
「望月さん彼氏連れてくるとか勘弁してよー、こちとら連日ピンク対応で疲れているんだよー」
「うるっさいな!」
望月は顔を真っ赤にして叫ぶ。
ピンク対応――――カラオケに行く中高生が最も知ってはいけない単語。
俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
後半へ続く。