告白
朝のことがあってから放課後まで、ちょっと落ち着かない時間を過ごした。
何も手につかなくなることはさすがにないが、望月に対して控えめな態度を取ってしまう。
当の望月は全然気が付かず、握力測定で全力を尽くしていた。女子で握力三十ってなんだ。俺、三十八だぞ。
男子の方が早く体力・身体測定が終わったので着替えて下駄箱で待っていると、制服に着替えた望月がやってきた。
「じゃあ行きましょう」
望月が外へと歩き出すので俺はついて行く。
「一応言っておくけど、この後用事があるから三時間は付き合えないからね」
俺はくぎを刺す。
「うん」
望月は緊張した面持ちで頷いた。
「……どこに行くの?」
「校舎裏」
望月は答えてからハッとして慌てて付け足す。
「ボコらないからね!?」
「……いやー、怖いわー」
俺は苦笑いを浮かべる。
「……」
望月は俯く。
「怖いわー……」
俺はそう言って茶化すしかない。
いざ校舎裏に着くと、望月の行動は速かった。
「好きです! 付き合ってください!!」
俺、予想がついていたとはいえ絶句。
「……あ、あの調子のってないからね!!」
そして望月はやはり残念だった。
「……こういうとき、何て言えばいいの?」
俺は頭が真っ白になってそれしか言えなくなる。
「例えば」
望月が助け舟を出してくれた。
「好きなら『付き合おう』、友達として好きなら『このまま友達でいたい』、心底嫌いなら『明日から話しかけないでくれる?』」
オーケー。こいつは役に立たない。いや、ある意味本当にその通りなんだけど。
「あの、俺と付き合って、何が変わるの?」
「だって」
望月は必死な顔をしていった。
「私と田宮くんはどっからどう見ても友達だよ。でもそれはいやだ。だったらせめて友達みたいな恋人になりたい! 手を繋ぎたい!!」
「最後のほう具体的だな」
友達みたいな恋人か。
俺は暫し考え混んで、告げた。
「付き合っても何も変わらないかもしれない。でも、それでもいいのなら」
俺の言葉に望月はぱあっと笑顔になる。
俺はその時はまだわかっていなかった。
望月は障害者だから日常生活を送るのは大変だ。
でも彼女はそれを抜きにしたらわりと普通の、いや、むしろ強い女の子なのだ。
だが俺は……恋愛ができない。
それをその時はまだわかっていなかったのだった。