図書委員会
「田宮くんってラインやってんの?」
放課後。クラスメイトの女子、笹塚が話しかけてくる。
「うん。SNSはツイッターとラインだけやってる」
「じゃあ、一年二組のグループに招待しておくねっ」
笹塚は美少女スマイルを惜しげもなく見せた。眼福じゃ。
「何人くらい入ってるの?」
浮き足立っていることを悟られないように尋ねると、笹塚はピンクのネイルがされている人差し指を口元に当てた。
「二十九人」
「多っ! 三十人クラスだろ! 逆に残りの一人誰だよ!」
「コウミ」
「あいつか……」
確かに望月はSNSをやっていないと以前言っていた気がする。
「田宮くんは機械に強そうだよね。でも人前でスマホいじらないからいいよねっ」
「そうでもないよ」
笹塚はモテているだけあって、男子のちょっとしたこともよく褒める。ノリが良くて気遣いのできる女子なのだ。
「コウミもスマホ買ってもらえばいいのにー。いまだにガラケーっしょ」
「いや、あいつはSNSをしないほうがいい気がする……」
コミュニケーションが下手だし、ネットで騙されやすそう。
「まあとにかく、招待しておくからねっ。よかったら来てー」
そう言い残して笹塚は去っていった。
「いいなあ、笹塚に話しかけてもらえて」
笹塚の後ろ姿を眺めながら、前の席の染川が嘆息する。
「お前のほうが笹塚と話してるじゃん」
染川はわりと明るい男子で、女子ともよく喋っている。
「まあね」
染川はあっさり認めた。
「でも美人は何回話しても足りねーよー」
俺は愛想笑いを返す。
今の時期は六月。うちの学校は委員会が本格的に活動し始める季節だ。
「じゃあ、図書委員会に行ってくる。また明日なー」
俺はそう言って席を立った。
「明日ー」
染川がひらひらと手を振る。
***
ちょっと前まで望月が友達がいないことを心配していたが、あいつも最近はクラスメイトとそこそこ喋っている。友達ってほどではなくても移動教室で不自由することはないだろう。
俺はというと逆に、昼休みや放課後にそこそこ話す友達はいるが、休日に遊ぶような奴はほとんどいなかった。スタートダッシュは良かったんだがな。
でも、あまり気にしていなかった。友達というのは焦って作るものじゃないし。
「遅れました」
図書室に行くと、もう皆集まっていた。
「大丈夫だよー。まだ始まっていないから」
可愛らしいショートヘアの三年女子、城山委員長がにこやかに告げる。
俺はとりあえず、同じクラスの図書委員、望月コウミの隣に座った。
委員長がにこやかに会の進行を務める。
「さて、他の委員会はもう活動が始まっているみたいですが、図書委員会は今回が第一回目です。
活動内容は、書架整理、本の紹介文、ポップ作り、文化祭では絵本の読み聞かせをして、ポスター制作や図書館新聞の発行をします。
活動自体は一班から五班に分かれて、月曜日から金曜日まで、各班週一回ずつ、全体では毎日活動しています」
「結構面倒くさい委員会みたいだね」
望月が俺に小さな声で囁いてくる。そういうのは委員会が終わって下校するときとかに言ってくれ。
「そうよー。きちんと働いてもらうからね!」
不運なことに委員長の耳に入ったようで、上手な切り返しにその場で笑いが起きた。望月もバツが悪そうながら笑っている。
見た感じ図書委員は全体で二十五人くらいいるし、ひとつの班に五人くらいか?
俺はそんなことを考えながらものほほんと受身で委員長の話を聞いていた。
「――――じゃあ、みんな好きな班に名前を書いて!」
望月はチョークで黒板に金曜日の五班の欄に名前を書いていた。
五班は結構人気が高くて、他にも一年生の男子が二名、同学年の女子が二名、名前を書いている。
「ここ、一年生が多いから、あたしも入っちゃおうかな」
城山委員長が気を利かせて自分の名前を書いた。これで五班は決定だろう。俺はどこの班に入るべきか。
「田宮くんも五班に入ろうよ」
望月が照れた様子もなく自然に提案してくる。だが、周囲からはちょっと訝しげな視線が刺さってきた。望月は特別な美人ではないが、まあ可愛くて綺麗な顔立ちの女子なので、俺としては誘われて嫌な気はしない。もちろん、望月の天然っぷりはわかっているが。
「五班はもう六人もいるだろ?」
俺は特に無愛想にならないように、周囲の反応を窺う言動をする。
「いいわよ。どうせ一年生が固まっているんだし、一人くらい増えても」
委員長がお姉さんスマイルでそう言うので、俺は断る理由がなくなり了承した。黒板に自分の名前を書く。
今思えば、ここで望月の提案を断っておけば、俺の高校生活は平凡なものだったのかもしれない。
でも、俺は今でもこの選択を間違えていなかったと思っている。
だって、一生付き合っていきたい友達に出会えたし、何より俺は自分自身と向き合う勇気が出たからだ。