部活動
最近、望月と登校時刻が重なる。
つまるところ、一緒に登校する形になっているのだ。
電車で朝からぺちゃくちゃ話すのは少々気恥ずかしいし、眠たいときもあるが、女子と一緒に登校できて嬉しくない男はいないだろう。
望月は去年は俺よりも一本遅い電車で来ていたのだが、二年生になってはりきっているな。
それから桜井かりんと笹塚がパソコン部に入ったと言うと、望月はちょっと浮かない顔をした。彼女は家が厳しくて部活ができないから、疎外感を覚えているのだろう。
***
「たみっちゃん! ここの動画、どうすればいいのー?」
「おう。ここは……」
笹塚のパソコンを覗いて教えると、笹塚は極上の笑顔で礼を述べた。
「ありがとう!!」
「笹塚ー。このアンケートに記入しといてー」
藤木の指示に、笹塚はちょこちょこ走ってプリントを取りに行く。
笹塚の適応能力は異常だ。
桜井かりんのほうは……。
「にゅ~。パソコンが固まっちゃったよう」
なぜパソコン部に入ったし。笹塚に誘われたんだろうが、他に適任が居ただろう。
「ほら、これはこうするんだよ」
岩瀬の落ち着いた対応に、桜井はにっこり笑って両手を打つ。
「なるほど! 岩瀬くんって本当にパソコンが得意なんだねー!!」
岩瀬は照れ笑いを浮かべる。
美少女二人の入部のおかげで、部はどれだけ華やいだことだろう。
「そういえばさー。田宮、望月さんと去年同じクラスだよねー?」
思い出したかのような藤木の言葉。
「うん」
頷くと、藤木は曖昧に笑って言った。
「彼女、よく喋るね」
「うん……」
「去年も英語でアンダースタンドの語源を先生に訊いて困らせていたしね」
笹塚の言葉に、桜井はほえー、と溜息を吐いた。
「真面目なんだねー」
「あいつ、周囲を結構困らせているのか?」
尋ねると、藤木は苦笑いを浮かべる。
「うーん。俺はわかんないことがあっても質問ができないから、良いと思う。問題は休み時間かなー」
「あいつはなー」
去年も最初こそ他人と喋らなかったが、後半の方は他人と干渉しすぎているところがあった。
相手が黙りたいときにも話しかけてくるし、ぺらぺら喋るし、話の内容は内容で聞いてて楽しい話じゃないからタチが悪い。
「本当によく喋るよねー」
「でも、望月さんいじめちゃだめだよっ」
桜井の言葉に、藤木は笑った。
「迷惑に思っている人はいるかもしれないけど、みんな苛めたりなんかしないよー」
「コウミも一生懸命やっているしね」
笹塚の言葉に俺も頷いた。
「そういえば……」
ずっと黙っていた岩瀬が、口を開く。
「俺、去年の書道の授業が望月さんと一緒だったんだ。
それでね、ある日俺、ギャルっぽい女の子にぶつかって怪我させたんだ。かすり傷。俺、ああいうタイプは怖いし、どうしようかと思っていたんだけど、望月さんが絆創膏を女子に渡して、その場を収めてくれた。
望月さんはギャルっぽい女子と折り合い悪かったし、あの時も怖かったと思うけど、そういう勇気があるところがすごいよねー」
望月はおそらく怖がってなどいないと思うが、ああいう優しさがあるからこそ、望月は受けた苛めも被害も最小限なんだろうな。
「そういう子なら、仲良くできるかも……」
結局藤木は、望月がヤバい奴かどうか訊きたかっただけらしい。
変な奴だが、ヤバくない奴。
それが望月だ。




