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文化祭当日

 一年生の出し物、納涼喫茶は、午前、昼、午後に分かれて当番制で働く。

 俺は昼の当番なので、午前中は暇だった。

 笹塚は一日中文化祭実行委員の仕事があるし、望月は中学時代の友達に学校を案内している。

 染川のように適当に時間を潰すほどの人脈と金がない。

 俺は仕方なしにずっと体育館に居た。

 ダンス部のダンスと演劇部の演劇を観て、吹奏楽部の演奏を聴いた頃には自分の当番の時間になっていた。

 俺は甚平に着替えて、多目的室に行く。

「あ! 田宮くんだー!」

 中に入ると、レジの席に座っていた望月がにっこりと微笑んできた。

 俺は望月の姿にちょっと見惚れる。

 ピンクの桜柄の浴衣に市松模様の帯。

 髪型はいつもとちがって、耳の辺りの髪だけ一つに結わいて、白い花の髪飾りをつけている。

 さすがに時代をタイムスリップした美少女とまでは言わないけど、現代的な浴衣美人だった。

「うんうん。コウミちゃんは可愛いね」

 いつの間にか俺の隣まで来ていた増谷が素直に褒める。

「そう?」

 望月は不思議そうな顔で俺に尋ねてきた。

「俺は人様を評価できるほど可愛くないからよくわからん」

 俺の今の切り返しはなかなか最高だと思う。

「お前の今の切り返し、なかなか最低だぞ」

 染川が呆れ顔で俺の肩をガッと圧迫してきた。

 望月がにこにこ笑って言う。

「いいよー、べづにー」

「それよりもお前の声大丈夫か!」

 望月の声が、ありえないくらいにガラガラしていた。

「だいじょうぶー」

 そう言う望月に、俺は心配になる。でも、意識ははっきりしていそうだった。

「最近、風邪気味なんだー。でも、喉以外はもう平気ー」

 望月は困ったように笑っていた。

 まあ、望月は会計なので、席に座っているだけだから大丈夫だろう。

 それよりも俺は自分の仕事と向き合うことにする。

 そうして、アルバイトもしたことがない、俺の初めての接客が始まった。

「いらっしゃいませー!!」

「大変申し訳ありませんが、相席でもよろしいですか?」

「こちら、緑茶とお団子です」

 さまざまな声が教室内を飛び交う。

 DQNっぽい高校生がやって来たときは、内心ビビりながらもなんとか店のシステムを説明した。

 次の当番に交代することには、俺は疲れ切っていた。

「たみっちゃん、お疲れさま!」

 俺の当番が終わると、笹塚が駆け寄ってきて飴をくれた。うむうむ、美味い。

「じゃあ、あたしは最後までここから動けないけど、文化祭楽しんでね!」

「……おう」

 笹塚と一緒に文化祭を回れないのはちょっと残念だった。

 俺はその後、カジノのクラスのゲームをしたり、じゃがバターを買って食べたりして過ごした。

***

「やっと終わった―!」

「文化祭終わりの片づけほど面倒なことはないわー」

「さっきの校長の話もクソつまんなかったけどねー」

「納涼喫茶、五位だって」

「うわ、微妙」

「一年にしては大健闘でしょ」

 クラスメイトのかしましい声。

 片付けや文化祭の閉会式も終わって、あとは下校するだけになった。

 これから俺と笹塚と染川と、あと男女十五人くらいで打ち上げに行く。

 ちなみに望月は誘われていない。

 ふと、笹塚のほうを見やると、彼女はちょっと疲れたような顔をしていた。

 一番文化祭を頑張っていた割には、楽しめなかったもんな。

 俺は笹塚に近づいた。

「ササー」

 俺は笹塚に、一口サイズのそこそこ美味しそうなチョコを渡す。

「良かったら食わね?」

 俺の言葉に、笹塚は一瞬驚いた顔をする。

 だが、やがて極上の笑みを見せた。

「ありがとう!! 文化祭で一番の思い出だよー!!」

 笹塚の声は、夕方の学校に吸い込まれていった。

文化祭を一番頑張っていた笹塚ちゃんが報われるお話です。

でも、何気に一番かわいそうなのは、大好きな田宮くんにデリカシーのないことを言われたり、体調が最悪だったり、文化祭の打ち上げに誘われなかったりしている望月さんだと思うのは気のせいでしょうか……。

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