文化祭前日。
秋。
俺は秋が一番好きだ。冬は寒い。夏は暑い。春は花粉症。結果、消去法で秋が一番いい。
秋はたくさん行事がある。
まず、文化祭。次に、体育祭。最後に移動教室。
別にどれも心は踊らない。
文化祭は面倒臭い。体育祭は、そもそもスポーツ好きじゃねえし。移動教室は疲れる。
うちの高校はそんな奴らの集まりだ。
望月はこの高校の去年の文化祭に来たらしいが、非常に淡白なものだったと言っていた。
運動会は、俺は大縄だけ出れば、あとは座っていてもいいことになった。種目の数がかなり少ない。
移動教室は一泊二日で埼玉だ。一日目は埼玉の伝統文化に触れて、二日目は朝っぱらから埼玉の会社の社長の講演をホテルのホールで聞いて、十一時から二時までの三時間だけ、動物園で遊べる。
クソつまらん。
まあ、元々行事が少ない高校だと知っていて入学したわけだし、構わないのだけど。
申し訳程度につまらない行事を遂行しなければならないなら、もう行事なんてない方がマシかもしれない。
さて、今日は文化祭前日だ。
朝の九時から午後二時までの五時間、文化祭の準備をしなければならない。
一年生は一組から三組まであるが、合同で納涼喫茶をすることになった。女子は浴衣、男子は甚平で接客をする。
望月と俺と、川辺と染川と相沢は接客で、笹塚など文化祭実行委員はチーフで衣装を身に付けない。
増谷と神田島は裏方だ。
望月は非常に不器用だが、不器用なりに多目的室の飾りつけをしている。
神田島と相沢は器用な方なので飾り自体を作っている。
笹塚はみんなに指示を出す。
俺と川辺は仕入れ担当で、段ボールをひたすら運ぶ。
増谷は机などの大道具をセッティング。
染川は、リア充グループと喋る。……からの笹塚に注意される。
そんなこんなで五時間が過ぎた。
「ふう。こんなもんでしょ! 皆さん! 手伝ってくれてありがとうございましたー!!」
笹塚の元気な声が多目的室に響いて、文化祭準備が終了になる。
「お疲れさま! たみっちゃん!」
てこてこと俺に近づいてきてにっこりと微笑む笹塚。
「お前も夏休み返上で頑張ったな」
「えへへー。でもそこそこ遊んだけどねー」
笹塚の言葉に俺も相好を崩す。
「笹塚ちゃん! お疲れさま!」
望月がにっこり笑って手を差し出してきた。その手には抹茶味の飴が載っている。
「ありがとう。いただきまーす」
「今食うのかよ」
俺の突っ込みを無視して笹塚は幸せそうに笑った。
「あー。美味しーい! 抹茶だー」
「抹茶味って珍しいよな」
俺がそう言うと、望月は俺にも飴をくれた。うむ。美味い。
「よかった……田宮くんにも渡せた……」
「ん? 今なんて?」
「何でもないよー」
望月はへにゃりと笑う。その笑顔がこの前秋葉原で会った山名に似ていて、こいつは本当に山名に影響されたのだな、と思った。
「おー。美味そうじゃん」
俺の背後から染川が現れる。
「染川くんもどうぞー」
望月が飴を渡すと、染川は「ありがと」と飴を鞄に閉まった。
「帰ろうぜー、ササ」
笹塚が好きな染川に気遣って、俺は望月と帰ることにした。
「いいの? 笹塚ちゃんと一緒に帰らなくて」
ちょっと泣きそうな顔で尋ねてくる望月に、俺は告げる。
「別に俺は笹塚に恋愛感情を持っているわけじゃないから」
「でも、友達としては好きなんでしょ?」
「そうだね」
でも、染川のほうが大切だから。
たまには二人きりにしてあげないとな。
そう思ったが言わなかった。




