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とっても普通の美少女さん

「ごめん! 待ったー? あたしも早めに来ようと思ったんだけど」

 笹塚は格好いい系の服に身を包んで、中野駅に登場した。

「いや、大丈夫」

 俺は控えめに笑った。実は三十分前から待っていたなんて言えない……。

「ええと、弟の誕生日プレゼントを買いたいんだってな。何が好きなんだ?」

 尋ねると、笹塚は明るく微笑んだ。

「カードゲーム。プレゼントもそれにしたい。たみっちゃん、そういうの詳しいかなって思って」

 正直、カードゲームは専門分野ではないが一通りの知識はある。その旨を伝えると「平気平気」と笹塚は笑った。

 中野でそこそこ有名なカードゲームショップに行くと、四十人くらいの小学生~三十代が戦っていた。

「なあに? あれ」

「こういう店は、たまにカードゲームの大会を行うんだよ。最後まで勝ち残ったら、店によっては割引券をくれるし、何度も出場すれば顔見知りもできる。まあ碁会所みたいなもんだな」

 俺の説明に、頭の良い笹塚は納得したようだった。

「あたしも出てみたいなあ」

「これはMTGだから初心者向けじゃないよ。ヴァンガードから始めたら?」

「弟はガチでMTGやっているみたいなんだよねー。なんか悔しい」

 そんな和やかな会話をしながら、商品を眺める。これってデートじゃね?

 美人と普通の会話をしながら、和やかに一日を過ごす。なんて幸せなんだろう。

 正直、望月と二人で出かけた時は振り回されっぱなしだったからな。

「熊本せんぱーい! 負けろー!」

「うるせー!」

 そこに聞きなれた女子の声と、聞きなれない少年の声。

「…………」

「…………」

 その瞬間、俺達は凍りついた。

 沈黙を破ったのは、笹塚だった。

「大会に出ている男に野次を飛ばしているの、コウミじゃない?」

 俺は仕方なしに頷いたのだった。

「ちょっと行ってみる?」

 尋ねると、笹塚は曖昧に首を傾げた。

「忙しそうじゃない?」

「……だな」

 せっかく二人きりなのに、望月と先輩? との四人で店内を回ることになったら、ちょっと残念だ。

 そこに、アナウンスが入る。

『この勝負、勝者が決定いたしました! 優勝者、熊本さんから一言』

『勝てて良かったです。以上』

 そっけない言葉に、俺はずっこけた。MTGって子供から大人までガチでやっているゲームだぞ!

 俺だったら最後まで生き残れるだけで、めっちゃ喜ぶのに!

「やっぱり、ちょっと行こうぜ! おーい!」

「え? ちょっとたみっちゃーん!」

 熊本先輩とやらのほうへ向かいだした俺を、笹塚は慌てて追いかけた。

***

「こちら、クラスの友達の田宮くんと笹塚ちゃん」

 望月に紹介されて、俺と笹塚は頭を下げる。

「この人は、熊本先輩。中学時代、というか、私が不登校で適応指導教室に通っていた時ににお世話になった人だよ!」

「ちわっす」

 熊本さんは、いかにも元ニートっぽい冴えない外見だった。

 俺は質問する。

「よく優勝されるんですか?」

「まあ、時々は」

「強さの秘訣は?」

「負けてもすぐには帰らずに、強い人の試合を観察すること。でも一番重要なのはデッキかな」

 熊本さんの受け答えはそつがなかった。

「MTG、やっているの?」

 ちょっとは俺に興味を示してくれたようで、俺の目を見つめてくる。

「いえ……。ルールをちょっと知っているくらいで……」

「やればいいのに。ゲーム好きなんだろ?」

「まあ……。でも、MTGってガチでやったら金かかるじゃないですか」

 俺の言葉に、熊本さんは首を傾げた。

「お小遣い、あんまり貰ってないの?」

「必要な時に必要な額だけ貰っています」

 そう答えると、熊本さんは店内を歩き始めた。

「……?」

 俺達は訳が分からないまま追いかける。

「お金がないなら、このカードだけ買え。しばらく経ったら、価値が跳ね上がるから、いい小遣い稼ぎになる」

 株かよ、と思ったが、ありがたく買わせていただくことにした。

「あたしもこれ買おっと」

 そこそこ強いカードだったので、笹塚も同じカードをプレゼントに選択したのだった。

「デート?」

 相手のプライバシーにどこまで突っ込んでいいのか、恐る恐る、という風に望月が尋ねてくる。

「それは……」

 俺が困っていると、笹塚はにんまりと笑った。

「そうそう! デートデート!」

「ええええ! 嘘ー!」

 驚く望月に、俺は慌てて否定する。

「別に付き合ってないから! ササの弟の誕生日プレゼントを一緒に選んでいただけ!」

 俺の言葉に、望月はちょっと落ち着きを取り戻した様子だった。

「純粋だなー」

 笹塚はくっくっく、と笑っている。

「じゃあ、デート、楽しんでね! 邪魔したら悪いから、私と熊本先輩は帰るよ」

 望月に微笑まれて、俺達も笑顔を返す。

「うん! ありがとね! おかげでいいプレゼント選べた!」

「熊本さん、ありがとうございました」

 頭を下げる俺達に熊本さんは微かに微笑んで去って行った。

***

「コウミって面白いよねー」

 喫茶店でお茶をしながら、笹塚はまだ余韻に浸っていた。

「あんな大物の知り合いがいたとはな」

 俺も頷く。

「たみっちゃんもありがとね」

 笹塚に微笑まれて、俺はどぎまぎとする。

「いや、結局プレゼント選んだのは、熊本さんだったし」

 俺の答えに笹塚は苦笑した。

「あのショップを教えてくれたのはたみっちゃんだったでしょ」

 その言葉を受けて俺は微笑む。

「じゃあよかった」

「いいデートだったよー」

 笹塚のいたずらっぽい笑みに、俺は照れたりせずに頷いた。

「……だな」

 笹塚と付き合ったら、やっぱり楽しそうだなー、と思う。

※ 参考

「マジック:ザ・ギャザリング (Magic: The Gathering)」 米ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社

「カードファイト!! ヴァンガード」 ブシロード

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