夏休み
七月二十日。補習、その後宿題。
七月二十一日。補習、その後宿題。
七月二十二日。補習、その後宿題。
七月二十三日。補習、その後宿題。
七月二十四日。補習、その後宿題。
七月二十五日。補習は昨日で終わりだが、オープンキャンパス。
七月二十六日。一日中宿題。
七月二十七日。今日も宿題。
七月二十八日。さすがに宿題が終わったので、一日中ゲーム。
七月二十九日。川辺と一緒にネトゲ。
七月三十日。一人でゲーセン。
七月三十一日。忘れていた新たな宿題発覚。宿題は七月中に終わらせておきたい派なので急いで終わらせる。
***
八月一日。
「ねえ」
家でテレビゲームをしていると、母親が話しかけてきた。
「補習も行っているし、宿題もしている。オープンキャンパスもちゃんと行っていて親としては言うことないの」
補習も、学校が斡旋している自由参加のオープンキャンパスも、望月に誘われるがまま行った結果なのであいつには感謝しなくちゃいけないな。
「でもね、友達と全然遊んでないじゃない」
言うことないって言ったはずなのに、結局、俺の夏休みの過ごし方への文句じゃないか。
「三日前に一日中パソコンに向かっていたじゃん。あれ、川辺とチャットしながらゲームを……」
「そういうんじゃないの!」
母親は唇を尖らせる。
「この前のテストだって、学年二十位以内だったし、英語なんて百点だったでしょう? あんたの入っているパソコン部はのんびりと活動するところらしいから、それはそれでいいと思うの。でも、大して好きでもない勉強三昧で高校生活を終えるの? あんたにも人並みに青春を過ごして欲しいのよ」
「まあ、確かに勉強中毒ではないけど……」
むしろ、七月中に宿題を終わらせないと不安でしょうがない辺り、勉強が嫌いなのかもしれない。
「通っている高校は、そんなに進学校じゃないでしょ? 周りの子はどれだけ遊んでどれだけ勉強しているの?」
「あー……。川辺は、ゲームのオフ会以外はずっとツイッターするか、家事しているって」
「ガーゴイルくんは特殊でしょ」
母親は、川辺が中学時代からの友達でツイ廃であることを知っているので、やはり誤魔化せない。
「増谷は宿題を三日で終わらせて、模試を受けたり、そろばん教室に通ったりしているらしい。あとは鉄オタだから、毎日、定期券の範囲内で電車に乗って電車の写真を撮っている」
「そういうあんたみたいな子じゃなくて、染川くんはどうなのよ」
「あいつは……この前、海に行って、その前男女混合でオールでカラオケして、その前、男友達数人で旅行に行ったらしい」
「あんたの友達、極端ねえ……」
母親の言葉がその通り過ぎて、何も言えなかった。
「そういえば、明後日、ササと染川と加地と小牧で遊びに行くから」
やっと思い出した用事を言うと、母親はちょっと安心した様子だった。
「あらそう。ならいいんだけど……」
そこに、携帯電話が鳴る。
「もしもし」
出ると、相手は望月だった。
『ごめんね、今大丈夫?』
「大丈夫だけど」
『前のカラオケ大会のメンバーで海に行く話をしたでしょう?』
「うん」
『来週の月曜日はどうかな? 朝の九時に新宿駅集合で』
「いいよ」
『よかった』
望月の吐息が聞こえて、俺は質問をする。
「向こうで金が掛かったりするの? 新宿からの移動費はタダって前言っていたよな?」
『うん。パラソルとかのレンタルは皆で割り勘するね。よくわからないけど、ああいうのって二千円くらいでしょう?』
「いや、俺も行ったことないからわからない……」
『あと、海の家とかで着替えるから、千五百円。それとお昼ご飯とかおやつとか色々食べるから、多く見積もって水着代とか入れないで、八千円くらいかなー』
「わかった」
『よかった。じゃあねー』
望月のほうから電話は切られた。
「誰から?」
母親の質問に俺は答える。
「望月。増谷と、川辺と、相沢と、神田島と、海に行こうってさ」
その瞬間、母親は急ににやにやし出した。
「青春ねえ! 男女三対三で海に行くなんて! っていうか、補習も含めたら、望月さんと一番夏休みに会っているんじゃないの?」
俺は曖昧に首を傾げたのだった。
でも、確かに来週の火曜日、水曜日、木曜日は、書架点検で図書委員に招集がかかっているから、それも含めたら、十回望月に会う計算になる。
すげえ……。
***
「たみっちゃん、どっか出掛けたー?」
カラオケボックスで染川に尋ねられて、俺は考えるまでもなく答えた。
「ゲーセンに行ったくらいかなー」
「寂しーなあ、おい!」
加地が大きな声で肩を組んできた。
「お前はどこに行ったの?」
尋ねると加地は叫んだ。
「ずっと宿題していました!」
「真面目か!」
そこで笑いが起きる。
「でも、本当は部活の打ち上げで焼き肉食べに行ったよー」
加地がそう言うと、小牧も自分の夏休みの報告を始めた。
「俺は部活の試合をして、都大会までは進んだけど、その後ボロクソに負けた」
「都大会まで進んだんだからいいよ」
小牧自身はめちゃくちゃ悔しいだろうから、俺はなるべく刺激しないようにフォローをいれる。
「部活とか頑張るものがあるっていいよねー。あたしはずっと家で寝ていたから」
笹塚は負けた小牧と、全然遊んでいない俺の両方をフォローするようなことを言った。
「でも、俺と陽一と美香と栞と川島くんと海行ったよなー」
染川がそう言うと、笹塚は嫌味なく笑った。
「うん! あれは楽しかったねー」
笹塚は実際は結構遊んでいそうだなー、とちょっと思う。
「まあ、まだまだ夏休みはあるんだし、じゃんじゃん曲入れて盛り上がろうぜ!」
染川がそう言って曲を入れると、俺達も頷いた。
「おー!」
***
カラオケを終えて帰る途中、笹塚からラインのメッセージが届いた。
『今日はありがとねん♪ ところで明日ひまー?』
俺は急いで返信する。
『特に用事はないよ』
笹塚からの返信は早かった。
『じゃあさ、二人で出かけない?^-^』
『どこに?』
『中三の弟の誕プレ選んで欲しいから、中野とかどうかなー?』
『いいよ』
『じゃあ、一時に改札で!』
そんなこんなで、俺は明日、学年一の美人とデートすることになった。




