夏
「笹塚って誰が好きなのかな?」
マックで同じクラスの染川が溜息を吐く。
「知らねえよ」
そう答えつつも、笹塚と付き合ったら楽しそうだなー、と軽く考える。
小学校の頃、クラスメイトの女子に告白してこてんぱんに振られて以来、人を好きになったことがない。
俺なんかが誰かと付き合う日は来るのだろうか。
「たみっちゃんは本当に恋愛に興味ないよなー」
再度溜息を吐く染川に、俺は苦笑いを返した。
「お前は笹塚の話ばっかするけど、笹塚が好きなの?」
「まあね」
染川は照れ隠しなのか無表情で答えた。
「にやにや」
冷やかすと、染川は睨んできた。
「うっせ! お前はどうなんだよ!」
「ササって可愛いなー、くらいはあるけど……」
しどろもどろで答えると、染川はぼそっと呟いた。
「可哀そう望月さん」
「え?」
「いや……なんでもない」
染川は笑った。
その後、染川はわざとらしいくらいに話題を変えて、楽しくポテトを分け合った。
***
「もうすぐ夏休みだねー!!」
終業式前日の帰り道、望月が笑いかけてきた。
「そうだな」
俺は頷く。
「この前のカラオケのメンバーでどっか行こうねっ」
この前のカラオケ大会もなんだかんだ言って楽しかったし、期末テストの成績もまずまずだったので、確かにぱーっと遊びたい気分ではある。
「どっかってどこ?」
望月の言い方的に今度はカラオケじゃなさそうなので尋ねてみた。
「増谷くんと相沢松美ちゃんが、海に行きたいって言っているけれど……」
「海かぁ……」
俺は溜息がちに呟いた。
「泳げない?」
「人並みには泳げるけど……」
水着になりたくないなぁ。お金もかかるし。
いや逆に、女子の水着を拝めるチャンスではあるのだが……ハードルが高い。
「確か、増谷くんのお父さんの優待かなにかでロマンスカーの指定席が無料でとれたんだって」
それにはかなり心が動かされた。我ながら貧乏性だ。
「それに、高校時代に海に行くのと行かないのじゃ、死ぬ時の満足感が違うよ!」
望月はなんか海に行きたくてたまらないようだった。
わくわくと俺を見上げる様子に、上から目線ながらも遊んであげたいと思ってしまう。
夏休み前の解放感も手伝って、インドアな俺は、珍しく笑った。
「いいかもな。行くかぁ!」
そういえば中学時代はずっとゲーセン三昧だったし。
高校生の夏が始まる。
※ 参考
「マクドナルド」
「小田急ロマンスカー」 小田急電鉄




