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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

友人

旅行(一日目)

作者: 蒼聖石

友人シリーズ、第5弾、一日目です。

いつまでも名前がないのは困るので、ヒロイン(?)は(のぞみ)。恋人の名前は(とおる)になりました。

「うぅ……わかんねえ…」


 夏休みが3分の1ちょっとを過ぎた頃、わからない宿題に頭を悩ませていたとき、携帯が鳴った。誰だろうと、ディスプレイに表示された名前を見て、俺は慌てて出た。


「も、もしもしっ、(とおる)?」


 連絡を絶っていた徹からの電話に思わず声が高くなる。


『ああ。悪かったな、(のぞみ)。数学の宿題に手間取った』

「ううん。先に言ってくれてたし、思ったより早かったから」


 あの日から何度か(バレないように女装して)デートをして、ある日帰りが遅くなった徹は親に部活以外の外出を禁じられて、宿題を終わらせたら外出許可を出すと言う条件を課せられたらしい。


「それで、何か用か?」

『そうだった。今度の日曜から家族旅行に行くんだ。一緒に来ないか。っていうか来い』

「え…俺なんかが一緒に行っていいのか?」

『家族が苦手なんだよ。今までは嫌々だったけど、今回はお前が一緒じゃないと絶対に行かない、って言ってやった』


 そうやって嬉しそうに言う徹の声に、俺も嬉しくなってしまった。頭の中ではすでにその日に来ていく服の考えている。

 ただ……女物の服で考えてる時点で俺の頭はどうかしてるんじゃないかとは思うけど……


「わかった。何時にどこに行けばいい?」

『じゃあ……』


 待ち合わせ時間と駅を聞いて、それからは会ってない間のことが話題になって、久々に聞いたその声が嬉しくて遅くまで話し続けた。

 そして日曜日、旅行期間分の荷物を持って家を出た。夏の外出なんて気が滅入るばかりだけど、この日だけはどんな日よりもわくわくした。


「あ、いたっ。徹っ!」

「お前…その格好で来たのか…」

「え、ダメ……だった?」

「いや……まあ、大丈夫だろ」


 少し不安そうな徹の顔が俺を不安にさせたけど、じゃあ行くか、って言って握ってくれた手が懐かしくて不安なんか吹き飛んだ。

 しかし、家から出発するとは聞いていたが歩けば歩くほど大きな家が増えていく。

 ここっていわゆる高級住宅街ってやつじゃないのか……俺って完全に不釣合いじゃ…


「着いた」

「……デカ」


 デカイ……それはもうデカイ。俺の家の3倍はありそうだ。

 呆然として見上げていると玄関から女性が2人出てきた。一人は多分母親だろう。もう一人は誰だろう……すごく綺麗な人だ。


「おかえり、徹」

「ただいま、姉さん」

「おかえりなさい。……お友達と聞いていたのだけど」

「嘘だよ。彼女。素直に言ったら絶対に許さねえだろ」

「……そうね」


 上から下までじっくりと観察するように視線が流れる。その目が怖くなって思わず後ろに隠れてしまった。


「母さん、そういうの良くないよ。ねえ、お名前は?」

「の、望っ、です」

「望ちゃん、よろしくね」

「はいっ」


 優しい人だなあ……。綺麗だし、上品な感じだし。

 と、家の中に入っていく後姿を見て思ってたら徹に頬をつねられた。ちょっと拗ねた顔してる。


「嫉妬した?」

「……違う」

「アハハ、図星だ。でも言ってくれれば良かったのに、普通の格好でいいって」

「忘れてた。……まあいいだろ。その格好ならお前の可愛い顔がよく見れるから」

「は、恥ずかしいこと言うなっ」


 恥ずかしさでわめく俺の頭を撫でると、出発まで少し時間があるから、って徹は俺の手を引っ張って家の中を案内してくれた。

 案内してる間の徹は、傍目から見たらわからないけどとても楽しそうだった。でもリビングになると一気に緊張し始めた。


「どうかした?」

「いや、大丈夫」


 ちょっと深呼吸してドアを開くと、男が3人とさっきの母親とお姉さんがそれぞれに寛いでいた。


「おお、徹。その子が彼女か?」

「ああ。望、俺の家族を紹介する。今のが俺の親父」

「今のとはなんだ」


 徹の棘のある言い方に明らかに不満そうな顔をしている。でもすぐに表情が柔らかくなり俺に向かって、徹をよろしくね、って笑った。だけどその目は笑っていなくて母親みたいに俺を品定めするように見ている。


「そこで茶すすってるのが祖父さん」

「おうっ!徹よぉ、ずいぶんと可愛らしい子じゃないか!すみに置けん奴だのう」


 ラフだっ!話し方もだけど格好がアロハに短パンて!いい人を全身から醸し出してる!

 それに父親や母親みたいに俺を見てこない。真っ直ぐに心からの笑顔を向けてくれてる。徹の言葉にも棘は感じない。


「で、そこにいるのが姉さんの旦那」

「へ〜。奥手って言やあ綺麗だが朴念仁のお前に彼女ができるなんてな」


 この人は正直に嫌味な言い方してくるみたいだ。他の2人に比べたらマシだけどやっぱりムカつく。

 警戒すべき人間がわかったところで、ドアが開けられた。入ってきたのはこの暑い中、きっちりとタキシードを着たお爺さん。


「旦那様方、お車の用意が整いました」

「ほっほっ、では行こうかの」


 お祖父さんを先頭に全員が部屋から出て行く。

 今のってもしかして……


「執事……とか?」

「祖父さんのな。なんでも30年以上前からの付き合いらしい」

「へぇ」

「さ、行くぞ。お前の荷物ももう積まれてるだろうし」


 外に出ると、ワゴン車が二台、用意してあった。

 思ったより普通だな……。リムジンとか出てくるかと思ったけど。でもあのエンブレムってあの高級車メーカー……。

 なんて考えてたら2台目の方に乗せられた。1台目に母親、父親、お祖父さん。2台目に俺と徹とお姉さんとお義兄さんのようだ。

 二手に分かれたのは後ろが荷物で占拠されてるから。こんなに荷物って必要なものだったかな……。


「望ちゃんはホントに可愛いわね。肌も綺麗だし…あら、おでこにニキビが」

「学校では下ろしてるので……」


 出発してすぐお姉さんが俺の顔をぺたぺたと触ってくる。

 っていうか位置取りおかしいだろ。お義兄さんが助手席なのはいいけど、なんで俺が徹とお姉さんに挟まれてるんだ。


「ごめんね。この子、すぐ車酔いするから。外の景色見てればだいぶ違うらしいの」

「あ、そうだったんですか……」


 知らなかった……。車で出かけるなんてできないからなあ。

 酔い止めとか飲んでないのかな。飲んでないだろうなあ。徹はそんなところが変に頑固だから。


「そうだっ、望ちゃんはどんな水着持ってきたの?」

「え、水着……って?」

「……徹、あなた言ってなかったの」

「完全に忘れてた………」

「困った子。でも海に行くのは明日だから、明日の朝に買いに行きましょう。お金は徹が出すのよ?」

「わかってる……。悪いな、望」

「ううん、大丈夫…」


 じゃないっ!それはつまり俺は女物の水着を着なければならないってことじゃないか!

 徹を恨みがましい目で見ると、口の端が笑ってる。

 こいつ……!わざとか!……性悪め…


 それからは学校での徹について色々聞かれた。その時間はとても楽しくて、気づいたら目的地についていた。


「おっきい旅館……」

「お部屋、一部屋増やしてもらわないとねえ」

「そんなっ、大丈夫です!」

「大丈夫大丈夫。この旅館貸切ってるから」

「え……」


 旅館を貸切って……並みの金持ちでできることじゃ……


「貸切って言っても別館だけだ。それにこの旅館の元締めは祖父さんだしな」

「すごい……」


 今日はなんかもう…驚いてばっかりだ。徹の家が金持ちなのは薄々わかってたけど、ここまでと思わなかったし…


「とりあえず今日は寛ぐ日だから。お部屋に案内してもらいましょう」


 旅館の中に入ると仲居さんが一列に並んでお出迎え。番頭さんに女将までいたらしい。

 それから別館まで案内されて、それぞれの部屋に通された。


「うわあ!すごい眺め!」


 部屋の窓からは近くの海が一望できる。これが絶景と言う奴か。


「はしゃぐと疲れるぞ。今日はゆっくりしてよう」

「あ、そうだ!」


 俺は荷物を漁ってノート数冊と教科書数冊を取り出した。


「宿題、教えてよ」


 徹は一瞬呆れた顔になったけど、すぐにやさしい笑顔になった。


「いいけど。礼はしろよ?」


 そのやさしい笑顔も、すぐに不敵な笑みに変わってしまった……

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