友達
ウェルベル視点になりまーす
目が覚める。
いつもより早い時間…まだ眠い。
それでも、朝からシャワーを浴びて毛並みを整えるのには時間が必要だ。
昨日はお風呂に入れなかったせいか毛並みがぐちゃぐちゃになっている。
全身毛皮だから乾かすのに時間がかかる。
タオルで水気をふき取りながらため息をつく
…最悪だ。
満月の次の日はいつもこうだ。
毛並みが乱れるけど、体はなぜか軽い。
「はぁ…」
もう慣れている。生まれた時からずっとこうだし。
鏡を見て毛並みが整っていることを確認する。
今日は学校に行ける。
制服の袖を通し、カバンを持って家を出た。
ーーー
教室の扉を開ける。
一瞬視線が集まる。
獣人だからいつものことだ。昨日休んだからなおのことだろうな。
自分の席をみる。
……カイカはもう来ていた。
一昨日、屋上で別れた事を思い出す。
「また明日」
そう言ってくれたのに、僕は休んだ。
何故だか気まずい。
それを誤魔化すように声をかける。
「おはよう…カイカ」
「おはよう…」
窓の外を見たままカイカは返事する。
席に着きカイカの方を見る。
頬を少し膨らませたカイカがいた。
「昨日…なんで休んだ?」
不貞腐れたような、怒ったような口調で聞いてくる。
「体調不良だ」
やっぱり聞いてきた。
「本当に体調不良か?…」
今度は唇を尖らせて聞いてくる。
「あぁ」
「そうか……」
カイカはそれだけ言うと視線を逸らす。
明らかに納得していない顔をしていた。
たぶん気を使っているんだろう、それ以上聞いてこない。
けど、耳は伏せるように前に垂れていた。
ほんとに、わかりやすい。
「はぁ…誰にだって秘密はある…これで我慢しろ」
カイカはびっくりしたようにこっちを見てくる。
今度は耳をピンと立てて、尻尾が揺れる。
ほんと…ころころ変わるやつ。
「ほら先生来たぞ」
気が付けばチャイムが鳴って夏山先生が教室に入ってきていた。
ーーーー
昼休み
カバンの中から菓子パンと本を取り出そうとする。
「あっ……」
今日…昼飯買い忘れた。
仕方がない、昼飯くらい食わなくても何とかなる。
「なんだ…飯忘れたのか?」
「別に…昼ぐらいーー」
「これ、食うか?」
僕の言葉を遮ってカイカは一つの弁当を差し出してきた。
「これ、お前の分だろ?…」
さすがに人の分を奪ってもらうわけにはいかない。
忘れたのは自分自身だし。
「別にいい…もう一つあるし」
カイカは鞄からもう一つの弁当を取り出す
「は??」
思わず声が出る。
「…なんだ?」
「なんで弁当が二つ??」
「足りなかったとき用」
カイカは視線をそらす。
当たり前の事のように言ってくる。
「食べ過ぎじゃないか…体に悪いぞ?」
「菓子パン食ってた奴に言われたくない」
「う……あれはたまたまで…」
あいつ…痛いとこをついてくる。
「いいから食え」
カイカは弁当をこちらに押し付けてくる。
断る理由もない…。
カイカの弁当を受け取る
「悪いな…」
弁当の蓋を開ける。
中には唐揚げ、卵焼き、ブロッコリー、きんぴらごぼう。
どれもきれいに詰められている。
「……」
思わずカイカの方を見る。
「嫌いなものでもあったか?」
「いや…これ手作りだよな?」
前にも聞いた気がするが。
「手作りだけど…嫌か?」
カイカの耳が垂れる。
「ち、違うぞ、別に嫌じゃない!」
「そうか」
慌てて訂正をする。
今度はカイカの耳がピンと立つ。
わかりやすい……
箸を取り、卵焼きを口に運ぶ。
「どうだ?」
間髪入れずにカイカが聞いてくる。
「うまいぞ?」
正直な感想。
僕はこんなに上手に作れない。
そもそも卵焼きを作れるかどかさえ怪しい。
カイカの方を見る。
尻尾が嬉しそうに激しく揺れていた。
……ほんと、わかりやすい奴だ。
カイカにもらった弁当はあっという間に食べ終わってしまった。
別に量が少なかったわけではない。
けど、気付くと全部食べてしまっていた。
久しく食べてなかった手作りの味…。
「弁当箱は洗って返すよ、それと今度なんかお礼でも…」
「別にお礼もいらないし、洗って返さなくてもいい」
カイカはそういうと素早く僕から弁当箱を取り上げて鞄にしまってしまう。
「あ、おい…」
「別にいいって」
少しの間。
カイカがボソッと呟く。
「そんなに言うなら…」
なんだ?
「尻尾を触らせろ」
「は?」
な、何言ってるんだこいつは…急に。
「それは無理だ」
「なんでだ、この前は俺のを勝手に触ってただろ」
カイカは首を傾げならが言う。
「う、それはそれ、これはこれだ」
「…」
カイカは何も言わないで、尻尾に手を伸ばしてきた。
「ちょ、ちょっと待て!」
慌てて尻尾を押さえて立ち上がる。
「なんでだ」
「うぅ…放課後ならいいぞ…」
お弁当も貰ったし、お礼をすると言ったのは自分だ…。
大人しく触られるしかないか。
「約束だからな!」
カイカが力強く言ってくる。
「わかったよ…」
カイカは上機嫌に尻尾を振っている。
ため息をつく。
そんなに嬉しいのか?
僕の尻尾を触ることが……
ーーーー
「約束の時間だ!」
放課後になった瞬間にカイカが声をかけてくる。
「屋上に行くぞ…」
「あぁ」
カイカと一緒に屋上へ向かう。
扉を開けたらこの前と同じ光景。
相変わらず放課後の屋上は誰もいない。
いつもの場所にいく。
腰を下ろし壁に背を預けて本を開く。
「尻尾」
「ん……」
隣にいるカイカに尻尾を向ける。
ビクッ!!
「きゅ、急に触るな!!」
「え?向けてきたからいいかと…」
カイカは両手で僕の尻尾を包みながら言ってくる。
「だからって……はぁ、少しだけだぞ」
「わかった!」
本当わかってるのだろうか。
モフモフ……モフモフ……
本を閉じる。
集中できない…
「そういえば…昼間の弁当…」
「なんだ?」
「ありがとう」
カイカは僕の尻尾を触る手を止める。
「どうした?」
「別に…言ってなかったなと思って」
少しの沈黙。
カイカがまた僕の尻尾を撫で始める。
「美味しかったか?」
「うまかったぞ」
本当に…うまかった
いつも食べてる店で買う弁当とは違う
優しい手作りの味がした…。
「そっか…じゃ明日から作ってくる」
ちょっと待て…なんでそうなる?
昼飯を用意してもらえれば楽にはなるか。
いや、ダメだろ…同級生に弁当作ってもらうのは…。
「嫌いな食べ物とかあるか」
カイカは平然と僕の尻尾を触りながらしゃべり続ける。
「いや…ちょっと待て」
「ん?どうした?」
カイカは首傾げてこっちを見てくる。
その顔は嬉しそうに微笑んでいた。
「なんで弁当を作ってくる話になってるんだ」
「いらないのか…?」
また、耳が垂れる…
…これじゃ僕が悪者みたいじゃないか
「そういう意味じゃない」
僕が小さくため息をつく
「ただ…なんでそこまでしてくれるだって話だ」
カイカは少しだけ視線を落とす。
「だって…うまいって言ってくれただろ」
…確かに言ったけど。
「だから、また作る」
…そういう問題じゃないだろ
「いらないのか?」
またそれだ、僕を悪者にしようとする…
「普通、同級生に弁当なんて作らないだろ」
「友達に弁当を作るのが変か?」
友達…?
カイカと友達なのか…?
「しらん」
カイカは少しだけ不満そうに眉を寄せた。
「とりあえず弁当を作ってくることは確定だから」
「はぁ…わかったよ。けど、お金ぐらいは払う」
貰ってるばかりでは悪い…
「いらない」
「払う」
「いらない」
カイカは頑なに首を振る。
「いいから払わせろ、じゃなきゃ食べない」
「うっ」
カイカが困ったような顔をする。
「どうしてもっていうなら…尻尾払いで」
…なに言ってるんだこいつ
「つまり?」
「尻尾を触らせてくれればそれでいい!」
満面の笑みで言ってくるから反応に困る…。
「じ、自分の触ってたらいいだろ」
「自分の触ってもなんとも思わないだろ…」
モフモフ…モフモフ…
カイカはまだ僕の尻尾を触っている。
「もう離せ」
カイカの手から僕の尻尾を引き抜いた。
「あぁ、俺の尻尾…」
「僕の尻尾だぞ」
カイカは名残惜しそうに僕の尻尾を見てくる。
新手の変態にしか見えない。
「もう帰る」
「あっ…」
僕は立ち上がり、屋上の扉に向かう。
屋上を出る寸前、カイカのつぶやきが聞こえた。
「怒らせたかな…」
思わずため息をついた。
そして、カイカに聞こえるように扉の方から声をかける。
「カイカ、明日の弁当楽しみにしてる。お礼は考えておく…」
「おう!!」
カイカが満面の笑みで返事をする。
その後ろで、黒と赤の尻尾は大きく揺れていた。
こいつ、屋上好きやな。
それに尻尾の描写で終わらすのも好きだな…




