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隣の犬

ウェルベルさん休みらしいので、

カイカさん視点になります。

人間は俺を見ると道を空ける。

それが当たり前だった。


神狼

神獣種


強い、乱暴、凶暴、恐ろしい。


そう言われ…思われ続けてきた。


だからそう振る舞えば楽だった。周りが望む乱暴で凶暴な神狼を演じればいいと思った。


けど、高校生になる入学式の日隣に座った犬種の獣は、こっちを一瞥しただけだった。


恐れていない表情、気にもしていない。獣人なのに…



昔、獣人に一度だけ会ったことがある、そいつは俺のことを見るなり恐怖に染まり逃げていった。人間なんかよりも余程恐れていた。獣人の本能が神獣種である俺の威圧感をより感じたんだろう。


入学式が終わり、教室に移動する。


あの犬種は同じクラスで、隣の席。それだけで少し嬉しい。人間みたいに怯えた顔で隣にいられるよりよほどいい。

自己紹介の時も先生の話の時も隣の犬種…ウェルベルの事が頭から離れない。

初めて怖がらなかった存在。


つい、ウェルベルの方を見てしまう。それに

ウェルベルも気づいてこっちをみてくる。


けど、目線を合わせてくれるのが嬉しくて、気まずくてすぐに目を逸らす。


言いたい事、聞きたい事があるのに言葉にできない。



放課後、気が付くと隣にいたウェルベルがいない、もう帰ってしまったのか。

ウェルベルの匂いを追う、あいつも獣人だからわかりやすい。


階段を上がる。


なんて声をかければいい…

何を聞けばいい…


そんなことを考えながら屋上の扉を開ける。


扉の先には、本を読んでるウェルベルがいた。


灰色の毛並みが風で揺れていた。


「お、おい!」


まだ、なんて言えばいいかわからない。けど気づけば声をかけていた。


ウェルベルは無反応。俺も少しムキになる。


「おい。そこの灰色の!お前しかいないだろ」


「ウェルベルです。それでどうしたの?」


これだ、あいつは恐れもなく普通に反応してくる。

それが気になって…聞きたくて…けど怖くて…


少し躊躇いながら口を開く


「なんで…なんでお前は怖がらない」


「同じ獣人だからじゃない?」


おどけたように軽口で返された。

本当は怖いはずだ…昔あった獣人みたいに、けどそれを隠して話している。


「違う……獣人の方が威圧感が感じやすい筈だ…それに狼と犬の同じ系譜のお前なら…ウェルベルならなおのことだ…」


違う…こんなことが言いたいんじゃない。

こんなことを言って、もし肯定されたら?恐れられたら?

そう思うと自然と声が震える。


「君は怖がられたいの?」


ウェルベルの問いに言葉が詰まる。

そんなわけない…


「違うっ!!」


気づけば声を荒げていた。


「じゃあ、僕は怖くないよ」


ウェルベルの手が俺の頭に触れる。


「それじゃ、また明日」


それだけ言ってウェルベルは帰った。


そっと触れられた箇所を触る。

初めて触られた。

初めて「また明日」なんて言ってもらえた。


…それだけなのに。

顔が緩む。尻尾が揺れる。

明日が少し楽しみになった。



ーーー


翌朝。


携帯のアラームがなる。

時計を見る、針が刺す時刻は6時30分、いつも通りの時間。


寝癖ブラシで整え、顔を洗う。


冷蔵庫を開け、作り置きの弁当用のおかずと朝食の材料を取り出す。


鮭の切り身をグリルに入れ、

卵を割りフライパンに落とす。


鍋に水を入れて味噌汁を作る、夜の分も考えて少し多めに。


特別なことは何もない、いつも通りの日常。


ただ少し…昨日のことを思い出して大きく揺れる尻尾。



朝食が終わり、冷ましてた弁当に蓋をする。


学校に行く時間だ。


学校へは徒歩で通っている。電車などに乗ると周りの人間が気になる…。


歩いて15分程度の近場、走れば5分とかからない。


教室に入る。

挨拶はしない、人間の息を呑んだような顔を見たらできるわけがない。


自分の席を見ると、ウェルベルはまだきてなかった。

あと10分もすればチャイムがなる。


窓の外を眺めていたら、ウェルベルが来た。

視界に白と灰色の毛並みが映る。


その毛は少し跳ねていた。


第一ボタンまで閉めて襟まで整っているのに頬と首の毛が跳ねている。


それに遅刻ギリギリで走ってきたのか、息が切れている。


それが少し可愛くてつい微笑む。


「どうした?」


「首と頬、寝癖になってんぞ」


声をかけられて反射的にそう答える。


「ありがとう」


ウェルベルがお礼を言ってくる。純粋なお礼を言われたのはいつぶりだ。


言葉に詰まり、返事が出ない。


ウェルベルは鞄からブラシを取り出して寝癖を直してる。


制服はキッチリしているのに、寝癖だけはそのまま。

少し抜けたところがあるのか?


…変なやつ。


そんなことを考えてたらチャイムがなった。教室に担任の先生が入ってくる。


ーーーー


休み時間、人間の生徒の言葉が耳に入る。


「神獣種って乱暴なんだろ?」


「近づかない方がいいな、なんか見てるだけで怖ぇもん」


人間は聞こえないように言っているつもりだろう。


聞こえている…。


聞こえないふりをすることもできる。


けど…そう思われているなら、望み通りに振る舞えばいい。


喉の奥から低い声を出す。

あの人間に向かって。


「ガルゥゥゥゥ」


周りの人間が息を呑む。


これがお前らが望む神狼なんだろう?


「はぁ…何やってんだカイカ…やめろ」


「……」


隣のウェルベルに怒られた。

もしかしたらウェルベルも怖かったのかもしれない。

恐怖を与えたかもしれない。


尻尾がしゅんと沈む。


ーーー


4限目の終わりを告げるチャイムがなり、昼休みが始まる。

カバンから弁当を取りだす。


「それ自分で作ったのか?」


不意にウェルベルから言われた。


「あぁ…そうだが?」


「すごいな…」


褒められた?……褒められた!

…うれしい

けど顔に出さないように弁当を食べて誤魔化す。


ウェルベルの方を見る。

あいつは本を読みながら菓子パンを食べている。

朝急いで教室に入ってきたし、弁当作る時間がなかったのか?…



ーーー


帰りのホームルームも終わり放課後の時間。

ウェルベルが屋上に向かう。

俺は無言で後をつける、特に理由はない…なんとなくだ。


ウェルベルは壁に背中を預けて本を読み始めた。


別に楽しくおしゃべりしたかったわけじゃないが……

少しだけ…ほんの少しだけ不機嫌になりながら、ウェルベルの隣になるよう、柵に寄りかかる。


「今日の休み時間…なんで唸った?」


ウェルベルが本から顔を上げずに声をかけてくる。

休み時間、唸ったことに対する言及。


「獣人は…神獣種は乱暴だって言われてた。」


嘘をつく理由はない…。


「言われてたな」


「なら…そう思われてるなら、そう振舞えばいい」


「…」


「望み通りだろ?」


自嘲気味に笑う。


モフッ


ウェルベルが俺の尻尾を掴んでくる。


「それ…楽か?本当は怖がられたくないクセに?」


「それは…」


ーーわかってる。


「それに面倒だろ?他人の意見をいちいち気にしてたら」


「……」


「僕は面倒だ」


本当は…わかってる。

けどもう寄り添って否定さてるのは、拒絶されるの嫌だ…。


「まぁ僕には関係ない事だけど…ただ隣で唸るのはやめろ、うるさい」


ウェルベルらしい物言いで少し気分が軽くなる。


「それに、僕もお前が怖くなるかもしれないだろ?」


やっぱり、怖がらせてたのか…

途端に不安で心がいっぱいになる。


「あ……今は…怖いか?」


何とか言葉にする。


「昨日も言ったぞ?カイカは怖がられたいのか?」


それは昨日も聞かれた問い。

俺の本心を見透かしたうえで聞いてくる。

泣きそうなのを何とか我慢する。


「違う…怖がられたくない…」


ウェルベルは何も言わない…。

代わりに俺の尻尾をまだ触っている。


「……そろそろ離せ」


「無理」


「じゃあ代わりにウェルベルの触らせろ」


「それも無理」


ウェルベルは頑なに離すことを拒否して、俺の尻尾を触り続ける。

尻尾を撫でられるのが少し気持ちよくてウトウトしてくる。


ウトウトしていたらウェルベルが立ち上がる。


「帰るのか?」


「うん」


ウェルベルが扉の方へ歩いていく。

思わず、昨日言われた言葉を返す。


「ウェルベル…また明日」


けど…ウェルベルはバツが悪そうな顔する


「ごめん…明日は休む」


「な、なんでだ?!」


反射的に声が荒くなる。


けどウェルベルは何も言わず逃げるように屋上を去っていった。


明日はあいつが来ない。

それだけで明日がつまらなく思ってしまう。

気づけば、尻尾と耳が垂れていた


ーーー


翌朝。


いつもと変わらない時間に起きる


お弁当を作り、朝食を食べる。


変わらない日常。


学校に着く、あいつはいない。


「ごめん…明日は休む」


昨日の言葉が蘇る。


あいつは結局来なかった。


学校を休んだだけ


ーーたったそれだけ。


二日…


たった二日しか関わってないのに


あいつがいないだけで…

寂しく感じる…。


カイカの気持ちが性急すぎる気がしなくもない。


tips

ウェルベルとカイカの制服はオーダーメイド。

上は他の生徒と同じワイシャツにブラザー

下は膝ぐらいまでの短パン仕様になっている。

ウェルベルは短パンの下にタイツ的なのを足首まで履いている。本人曰く抜け毛対策。

また尻尾穴は通すタイプではなく、付け根の上ぐらい位置にフックかチャックが付いている。


私服も同様国からのオーダーメイドor獣人用の服がある。

カイカの場合、大きいサイズの服に尻尾穴をつけたら加工している。


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