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俺と黒騎士とまどかさん  作者: やまだ ごんた


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7/7

俺と黒騎士とまどかさん

 500部ずつ用意した新刊が残り半分以下になった頃、姉のスマホが鳴った。

「はい――あ、かしわもちさん?東の10あたりですね。うちの黒騎士が迎えに行きますから」

 おい、何勝手に言ってんだ。俺の了解を取れよ。

「ってことで、お願いね。あんたを見たら向こうから名乗ってくれるから楽でしょ」

 確かに、こいつが行くよりは俺の方が目立つし、何より本人の作品だしな。

 なんだかんだ姉に甘い自分に呆れながら、指定された柱付近に向かうと、「あの……かしわもちです」と、どこかで聞いたことのある声を背中で受けた。

 まどかさんに似ているな。失恋の痛みがぶり返してきたけど、営業スマイルで振り返る。

「え」

「あ」

 ここまで来たら運命だろ。そこにいたのはまどかさんその人だった。


 柏木だからかしわもち――なるほど、可愛いぞ。

「黒騎士様――え、眼福――私の衣装が――黒騎士様――」

 もう日本語になってないし、僕の周りをくるくる回って足元から頭の先まで眺めまわしているところも可愛い。

「とても着心地がいいですよ。柏木さんが作られたんですか?」

「はい。――でもなんで高坂さんが?」

 僕が声をかけると、足を止めて半分くらい上の空で答えてくれた。

「村瀬美紀は俺の姉なんですよ。俺は脅されて連れてこられてこれを着せられてるって言うか」

「脅されて――すみません。私がこんな衣装作ったせいで」

「いえ、柏木さんが作ったと聞いた今なら、もう一生これ着ててもいいくらいです」

 もちろん本気だけど、顔を真っ赤にしているまどかさんが可愛くて、俺もうずっとこれ着てで過ごそうかな。

 とりあえず、姉のところまで案内するために、俺達は歩きだした。

「でも柏木さんにこんな特技があったなんて意外ですね」

「私も、高坂さんがまさか着てくれるなんて」

「写真撮らせてくれませんか?」

 俺とまどかさんのトークタイムを邪魔すんじゃねぇ。

 ブースでお待ちしますと丁重にお断りして、再び歩き出す。

「姉が勝手に注文してたみたいで。いつもの事なんですがね」

 俺はコスプレイヤーじゃないぞと、暗に訴える。いや、この場合コスプレイヤーの方がいいのか?

「私、本当は造形が趣味で芸大に入りたかったんですが、落ちちゃって……それで滑り止めに受けてた大学で情報処理を勉強して今の仕事に就いたんです」

 まどかさんが自分の事を話してくれている。

「じゃあ、専門的に勉強したわけじゃないのに、こんな素晴らしい作品を作れたんですか」

 御世辞じゃない。本心からだ。照れているまどかさんが可愛い。

「あの、高坂さん。気持ち悪くないんですか?」

「何がですか?」

 僕を見上げて頬を染めるまどかさんならとても可愛いですよ?

「こんな趣味――オタクじゃないですか」

「でも、その作品を着てる俺がここにいるわけですし、依頼したの俺の姉ですし」

「じゃあ、高坂さんもオタク趣味なんですか?」

 まどかさんの顔がぱあっと明るくなる。

「い、いえ。俺はあんまりその辺は知らないんですよ。この黒騎士だって、姉ちゃんの原稿の知識くらいしかないですし」

 その上八割裸だけどな。

 失言だったか、まどかさんの顔が見る間に曇る。

「あ、でもオタク趣味が気持ち悪いと思った事はないですよ?俺も姉の原稿手伝ったりしてるし、現に今コスプレだってやっちゃってますし?まあこれはコスプレって言うかもう芸術品ですけどね」

「それは……言いすぎです。でも、そうです――よ、ね?」

 なんだろう。今ならまどかさんの心の壁が簡単に崩せそうな気がする。

「俺はまどかさんの腕前は素晴らしいと思います。二次創作でもいいじゃないですか。自分の好きな作品の世界観を自分の手で広げる事ができるなんて、尊敬しますよ」

 俺の言葉にまどかさんの顔が再び輝きだした。もう一押しだ。

「俺が前に言った事、覚えてますか?」

「え――」

「俺、まどかさんの事が好きです。どうですか?俺と付き合えば、この俺が――黒騎士があなたの物になります」

 俺は立ち止まると、まどかさんの手を取って片膝をついた。

 姉の原稿で見た事がある。

「黒騎士の主は生涯一人のみ。姫、どうか私にあなたをお守りする栄誉をお与えください」

 姉ちゃんの原稿で見たセリフだ。覚えておいてよかった。

 周りから歓声が聞こえるけど気にするもんか。

「ここここ高坂さん」

 まどかさんが慌てる姿なんて初めて見た気がする。

 物静かと思ってたけど感情豊かで可愛い。

「わかりました、わかりましたからやめてください」

「じゃあ、俺と付き合ってくれますか?」

「それは――あの」

「俺はあなたを縛るつもりはありません。趣味や嗜好を非難する気も毛頭ありません。黒騎士の衣装を着れと言われれば一生だって着てみせます」

「わ――わかりました。お付き合いします。しますから大きな声で恥ずかしい事を言うのはやめてください」

 お姉様、俺は今初めてあなたに感謝してますよ。


 つまり、まどかさんが言ってた「時間がない」と言うのは、オタ活をするのに忙しいと言う事だった。

「アニメのチェックは当然ですが、ゲームもやらないと」

 年が明けて、なんとかデートの約束を取り付けた俺は、まどかさんと正月休みで閑散とした職場近くのカフェで向かい合っている。

 俺がオタクに偏見が無く、趣味も許容すると言うのが決め手だった……と、思いたい。

 決して黒騎士に似てるだとか言う理由でない……はずだ。

 やっと落ち着いて話をすると、あの時食堂で態度が急変したのは、俺の仕草を見て推しの黒騎士にそっくりだったため、一刻も早くオタク仲間に報告したいと興奮していたそうだ。

 俺の告白については――オタクであることがバレたら軽蔑されて、それこそ黒騎士そっくりな冷たい目で見られるようになるんじゃないかと怖かった――とか可愛いんですけど。

 ただ、まどかさんにとって俺はまだ推しと現実の狭間のような存在で、恋愛対象にはなりきっていない。

 仕方ない。

 俺はずっと前からまどかさんを知っているけど、まどかさんにとっては出会って二ヶ月の人間だ。

 やっと男として意識しだしたってところだ。これからゆっくり口説いて行けばいい。

 その為ならどれだけ忙しくても、衣装作りの手伝いだろうがモデルだろうがやってやるさ。

 あのクソ姉貴も泣きついて来るのは確実だから、イベントの直前は地獄になりそうだな――こりゃ。

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