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俺と黒騎士とまどかさん  作者: やまだ ごんた


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運命を感じた

 いつからかわからないけど、毎日すれ違う人がいる。

 毎日同じ時間、同じ場所で。

 彼女は西に、俺は東に。

 地下鉄の駅から出て歩き始める時間くらいに、必ずすれ違う。

 意識し始めたのは半年前。

 あのお姉さん、昨日もすれ違ったなって程度の認識だった。

 ほとんど毎日見かけるから、顔も覚える。歳は俺と同じくらいか、もう少し下か。化粧っ気はないけど化粧なんてしなくていいんじゃないかって感じだ。

 昨日とは違う上着だな。髪型変えたんだな。今日はとても嬉しそうだ――

 そんな日々の変化を、俺はいつの間にか楽しみにしていた。

 皆がスマホを見ながら歩いている中、彼女はカジュアル目な格好で前を見て颯爽と歩いている。

 もちろん、時々見かけない事もある。場所がずれる事もある。

 でも、基本的には毎日同じだった。


「おい、高坂。打ち合わせに行くぞ」

 先輩の佐藤さんに声をかけられて時計を見ると、時間は13時40分になっていた。

 割と大きい地方都市にあるうちの会社は、オフィス街の中心部にある。

 ECサイト向けの管理アプリや、サイトの構築システムを販売している会社で、仕事はほどほどに忙しく、給料もそこそこで満足している。

「ちょっと待ってください」

 資料をカバンに詰めて、壁に立てかけてあった松葉杖をひっつかんで佐藤さんを追いかける。

 ひと月前に、駅の階段から転がり落ちて、足を骨折してしまった。

 幸い固定だけで済んだのだけど、営業はできないからと社内のインフラ管理に回された。

 と、言っても俺は素人だ。システムの事なんてわからない。

 営業で説明するために、そこそこの知識はある。でも理解なんてできるはずがない。

 だから、技術的な説明は佐藤さんが、契約とか運用面での話は俺がする事になっている。

 幸い、今日は俺が怪我をする前に受注した案件で、顧客のECサイトのサーバの運用開始に向けた保守をベンダーに委託する話をする。

「大丈夫か?タクシー乗るか?」

 業者さんは俺の会社から駅を挟んで反対側にある。

 歩いて大体15分。

 松葉杖だと確かに厳しい時間か。

 お言葉に甘えてタクシーを使わせてもらった。

 季節は冬に変わる頃。寒さが骨に響くんだよ。助かる。


 オフィス街の外れにあるって言うのに、やたら背の高いビルのエントランスにある打合せブースで待つ事10分。

「お待たせしました」

 と言って現れたのは、大都会のコーヒーショップでマックブックを立ち上げてそうなタイプの男と――いつもすれ違う彼女だった。

「――です」

「御社を担当させていただきます柏木です。よろしくお願いします」

 男の挨拶は聞こえなかった。聞いていなかったともいう。

 頂いた名刺をもらうと、柏木まどかと書かれていた。まどかさんって言うのか。

 営業担当者かと思ったら名刺にはインフラサービス課って書いてある。エンジニアなんだな。意外とか言っちゃダメなんだよな。男女平等だ。うん。

 サラサラの長い髪をひとまとめにして、白いシャツにえんじ色のカーディガンがよく似合っている。

 大人しそうだけど、意志の強さが垣間見える目。ほぼノーメイクなんじゃないかと思うけど、眉なんかはちゃんと整えているし肌も綺麗だ。

 なんて言うか、オーガニックな感じだな。

 左手……はおろか、全部の指にも指輪はしていない。独身――かな?飾り気がないだけなのかもしれない。

「――保守契約につきましては――」

 彼女が僕を見た。道ですれ違う時には僕の事なんて映さない瞳が僕を捉えている。

「保守対象機器につきましてはこちらで、基本的には24時間監視となっています。故障時は30分の駆けつけ対応となります。よろしいでしょうか」

「はい。事前にいただいていた資料と相違ありませんね」

「では契約書は高坂様宛に送らせていただけばよろしいでしょうか」

「お願いします。――あの、僕も不勉強なところがありますので、色々とメールなどで質問する事があると思いますが、よろしいですか」

「もちろんです。些細な事でも結構ですので、なんでも聞いてください」

 事務的な笑顔だと思ったのは、通勤途中に嬉しそうに微笑んでいた彼女の顔を見たからだろう。


 貰った名刺は2枚。

 進藤新太と柏木まどか。

 進藤は課長と書いてるから、まどかさんの上司になるのか。

 とりあえず会話してたらめっちゃカタカナ言いそうなタイプだとしか覚えていない。

 俺は帰社してすぐに、アドレス帳に登録すべくPCを立ち上げた。

 メールソフトを開くと、未読メールの3通目に『柏木まどか』の名前を見て、わが目を疑った。


『高坂様

 本日は弊社までご足労いただきましてありがとうございました。

 契約書の原案を添付ファイルで送付いたしますので、ご確認をお願いいたします。

 ―――

 寒い日が続きますので、お足元を冷やさないようご注意なさってください。

 一日も早いご回復をお祈りいたします』


 なんて心のこもったメールなんだろう。

 その日は一日幸せな気持ちで仕事をした。

 惜しむらくは、怪我が治ったら営業に戻されるから、まどかさんとの接点が無くなるという事だろうか。

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