Chapter 14: Desecration Begins
アリーナは、古代の獣のように咆哮した。
何万人もの観客がコロシアムを埋め尽くし、まばゆい照明の熱の中で旗が激しくはためいた。
イタリアがこれほど原始的な光景を目にするのは、何十年ぶりのことだった。
血、誇り、そして金のために蘇ったスタジアム。
賞金――二万ドル。グランド・チャンピオンシップ。
観客たちはすでに、熱気と汗の狂気に酔っていた。
その中を、静かに一人の男が歩み出る。ラクローン。
派手なジェスチャーも、拳を掲げることもない。
ただ、研ぎ澄まされた静寂と確信。
彼の足音が響くたび、まるで世界そのものが息を潜めたかのようだった。
対角のゲートから、筋肉の塊のような巨人が現れる。
《ジャイアント・レスラー》。血管が浮き上がり、鉄のように輝く肌。
「貴様はただの肉だ。」
巨人が嗤う。
ラクローンの声は柔らかく、だが刃のように鋭かった。
「その“肉”が――お前を屈辱の儀式にかけてやる。」
一瞬の静寂。
次の瞬間、スタンドが爆発した。
笑い、罵声、中指の嵐。
群衆の嗜虐的な歓喜がアリーナ全体を震わせる。
だがラクローンの瞳は、氷のように冷たく動かない。
> 「神聖なものを侮辱したか……」
「ならば、穢してやろう。」
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ジャイアントの陥落
審判の手が空を切った。
「――開始ッ!」
巨人が突進する。肉と怒りの壁。
大地が揺れ、アリーナが震える。
全力の一撃――しかし、それが届くことはなかった。
ラクローンは、すでにそこにはいない。
一呼吸、一閃。
巨人の懐に入り込み、完璧な角度で顎に蹴りを叩き込む。
「ガキィィィンッ!」
雷鳴のような音が鳴り響く。
汗、唾、そして沈黙。
巨体が崩れ落ちた。
リング全体が震えた。
審判の目が見開かれる。
「勝者――ラクローンッ!」
観客は一瞬凍りつき、
そして次の瞬間、爆発したように叫んだ。
「ラクロォォォン! ラクロォォォン!」
ついさっきまで彼を罵っていた口が、今や賛美の声を上げている。
旗が破れ、新しい旗が掲げられ、秩序が混沌に変わった。
ラクローンはブーツの砂埃を払って、微笑む。
観客席の隅で、マヤとジェシカが無言で視線を交わした。
控え室の影で、ヴァルゴーが拳を鳴らす。
「次の試合――ヴァルゴー!」
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規律の獣
ヴァルゴーが登場した瞬間、空気が変わった。
まるで嵐を人の皮に閉じ込めたような圧。
観客は叫ばない。ただ震えた。
その存在感は骨の髄まで圧し潰すようだった。
反対のゲートから現れるは、相撲の巨神。
地鳴りのような足音。
一歩ごとに大地が悲鳴を上げる。
両腕を掲げ、雄叫びを上げた。
照明が揺れるほどの咆哮。
審判の声がかき消されそうになる中、叫ぶ。
「――開始ッ!」
タイタンが突進、そして跳躍。
その巨体が宙を舞う――不可能が現実になった瞬間。
影がヴァルゴーを飲み込む。
だが、ヴァルゴーは一歩も動かない。
静かに息を吐く――世界が裂ける前の一呼吸。
拳が上がる。
神罰のような一撃。
空気が爆ぜ、屋根が軋み、タイタンの体が空へと打ち上げられる。
破片が観客席に降り注ぐ中、ヴァルゴーは無表情のまま歩を進める。
身体をひねり、回転――落下してくる巨体に蹴りを合わせた。
衝撃音。
人間の隕石が壁の向こうへと消えた。
沈黙。
そして――大合唱。
「ヴァルゴォォォォォー!!!」
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紅の救世主
ラクローンはサイドラインから見つめていた。
目を細め、静かに呟く。
> 「こいつが……待ち続けた宿敵かもしれんな。」
観客の歓声が悲鳴に変わる。
タイタンの無力な体が、空から落下してくるのを見たのだ。
審判が叫ぶ。
「死ぬぞッ!」
その瞬間――紅の閃光が空を裂いた。
ジェシカ・メアリー。
長い赤髪が炎のように舞う。
彼女は空中でタイタンを片腕で受け止め、そのまま静かに着地した。
観客が息を呑む。
ヴァルゴーでさえ、目を見開く。
彼女は巨体をそっと地面に横たえた。
まるで眠る子供を寝かせるように。
そして、唇に悪戯な笑みを浮かべた。
「ちょっと重すぎたんじゃない?」
スタジアムが再び沸騰した。
歓声か、恐怖か。誰にも区別がつかなかった。
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女王たちの激突
ジェシカが消えた。
実況席が騒然となる。
「どこに消えた!?」「見えない!」
ヴァルゴーでさえ、目を凝らして探す。
ただ一人、マヤだけが静止したままだった。
揺るがぬ瞳、無音の呼吸。
――微かな気配。
背後に現れたジェシカ。
絹の悪魔のような笑みを浮かべる。
審判の声が響く。
「次の試合――マヤ VS ジェシカ!!」
ラクローンは席で身を乗り出す。
脈が高鳴る。
ヴァルゴーは腕を組み、口角を上げた。
> 「面白くなってきたじゃないか。」
アリーナの中心。
静寂の中、二人の女王が対峙する。
一人は影の静謐を纏い、もう一人は紅蓮の自信を燃やす。
観客は息を呑んだ。
これは単なる試合ではない――何か、もっと大きなものの始まり。
目に見えぬ力が空気を震わせる。
マヤの瞳が淡く光り、冷たく揺るがない。
ジェシカの唇は、世界を燃やすように微笑んだ。




