第六章 終焉の胎動
第六章 終焉の胎動
Ⅰ 静寂の夜
虚飾の王が消え去った後、世界には一時の平穏が訪れた。
しかし――それはあまりにも不自然な静けさだった。
夜空には雲ひとつない。風は止まり、鳥も鳴かない。
ただ、どこかで「心臓の鼓動」のような震えだけが、空気を伝って響いていた。
「……聞こえるか?」
カイルが低く呟いた。
アキトは頷く。
「うん。……これは、音じゃない。世界そのものの……脈動だ」
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Ⅱ 裂ける空
次の瞬間、星空が“揺らいだ”。
裂け目が走り、深紅の光がにじみ出す。
まるで、何かが産声を上げようとしているように――。
「おいおい……冗談だろ……」クレインが天を仰ぐ。
「空が……割れてやがる……」
リアは蒼白な顔で震える声を出した。
「これは……神代に記録されていた“終末の兆し”……。
古の神のひと柱、破壊の女神が、封印を解こうとしている……」
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Ⅲ 夢の侵食
その夜、仲間たちはそれぞれ眠りについた。
しかし、夢はひとつに繋がっていた。
――真紅の海。
――無数の屍が浮かぶ。
――その中心に、黒衣の七人の影が跪き、玉座に座る“女”の影に祈っている。
『世界は腐るがいい。美しき破壊こそ、真なる救済』
その声が、夢の全員に突き刺さる。
甘やかで、同時に酷薄な囁きだった。
アキトは叫ぶ。
「……お前は誰だ!」
その瞬間、夢の“女”がゆっくりと顔を上げる。
仮面に覆われたその素顔は見えない。
しかし赤い瞳だけが輝き、ソルナイトたちを射抜いた。
『私は破壊の女神。
そなたたちの希望も秩序も――いずれは、私の血の海に沈む』
女神が微笑むと、夢の中で仲間たちの体が裂け、血が舞い散った。
アキトは飛び起きた。
冷や汗で全身が濡れていた。
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Ⅳ 絶望の前奏曲
翌朝。
世界の至る所から報告が届く。
・大陸を割るほどの地震。
・海が黒く濁り、魚が死んで浮かぶ。
・人々の心に幻覚が現れ、狂気に陥る者が増え始めた。
メルロが唇を噛みしめる。
「もう始まっている……。女神はまだ降臨していないのに、存在だけで世界を壊し始めている……!」
クレインが拳を握りしめる。
「クソッ……! 七邪王どころじゃねぇ……。
あいつが本気で降りてきたら、俺たちに勝ち目なんてあるのかよ……」
リアは目を閉じて言った。
「……希望が薄いほど、闇は強くなる。
でも、それでも戦わなければならない。
――あの女神は、“まだ沈黙している”。
それは……わずかな時間が残されているということ」
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Ⅴ 終焉の胎動
その時、空から再び震動が走った。
裂け目が広がり、真紅の光が滴り落ちる。
血の雨のように、大地を染めながら。
アキトは剣を握りしめ、仲間を振り返った。
「――行こう。七邪王を止める。女神が完全に降臨する前に!」
その瞳には、恐怖を超えた炎が灯っていた。
だが、誰もが胸の奥で感じていた。
――破壊の女神は、すでに彼らを見ている。
そして、その瞳から逃れることはできない。
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