第五章 虚飾の終焉
第五章 虚飾の終焉
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Ⅰ 最終幕の開演
舞台全体が崩れ落ちる。観客席の黒き幻影たちが歓声を上げ、空虚な笑いが渦巻く。
中央に立つバアル=グレイスは、仮面を付け直し、両腕を広げた。
「――虚飾の宴も、これで最後だ! 喝采をくれてやろう!」
その瞬間、舞台が弾け、無数の糸が空を裂いた。
巨大な操り人形の兵士たちが召喚され、刃と仮面を振りかざしソルナイトたちへ襲いかかる。
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Ⅱ 交錯する刃
「来るぞッ!」クレインが雷刃を振り抜き、人形兵を一閃。
「雷穿・迅雷衝!」稲妻が奔り、数十体が砕け散った。
メルロが両手を掲げる。
「氷槍陣――《グレイシャル・テンペスト》!」
氷槍の嵐が舞い、舞台上を凍り付かせて人形を串刺しにする。
しかし次の瞬間、砕け散った破片が光の糸に絡め取られ、再び人形へと再構築された。
「な……!」
リアが目を細める。
「……あれは幻と現実の境界を弄っている。破壊しても“虚飾”が繕う限り終わらない!」
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Ⅲ 道化王の真の力
バアル=グレイスが手を叩いた。
「喝采、喝采! もっと舞え、もっと踊れ! この舞台に永遠の命を!」
光と闇が交差し、彼自身の姿が十にも百にも分裂して舞台を覆う。
どれが本体かも分からない。
幻影の道化たちは一斉に嗤い、刃を振りかざす。
「《虚飾絶技・千両役者》――!」
嵐のような連撃がソルナイトたちに降り注ぐ。
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Ⅳ ソルナイトたちの反撃
「……なら、全部斬り伏せるまでだッ!」
クレインが雷光を纏い、幻影を片っ端から切り裂く。
「嘘を氷で閉ざす――《氷結封陣》!」
メルロが足場ごと幻影を凍り付ける。
「大地よ、砕けろ……《剛壁震破》!」
カイルが地面を叩き割り、虚飾の糸を地の力で断ち切った。
だが幻影はなおも蘇る。
「無駄だ、無駄だ無駄だァッ!」
舞台の至る所から響く声。観客の笑いと同化し、空気そのものが狂気に飲まれる。
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Ⅴ アキトの光
アキトが深く息を吸い込んだ。
胸に刻まれた仲間との絆、フェンの言葉、そして妹との誓い――そのすべてが彼の炎を燃え上がらせる。
「……虚飾なんて、いらない! オレたちは“本当の光”を掴む!」
全身から白炎の光が爆ぜた。
炎と光が交じり合い、舞台を焼き尽くす。
「――《光焔絶破・ソルナイト》ッ!!!」
その光は幻影を貫き、千の道化を瞬時に消し飛ばした。
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Ⅵ 終焉の喝采
残ったのは、仮面を割られ、片膝をついたバアル=グレイスただ一人。
彼はしばし沈黙し、やがて――仮面を外し、涙を浮かべながら笑った。
「……ようやく……ようやく、笑えたな……俺も……」
観客の幻影が静かに霧散していく。
最後に彼が口にしたのは、ひときわ澄んだ声だった。
「幕は下りる……拍手を……ありがとう……」
そして、虚飾の王は光に溶け、永遠の舞台から姿を消した。
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Ⅶ 静寂
崩れ去る舞台。残されたのは静寂だけだった。
アキトたちは互いに肩を寄せ、深く息をつく。
「……彼は最後に、本当に救われたのか?」メルロが囁く。
リアが答える。
「ええ。少なくとも――彼はもう、自分を笑う必要はなくなった」
誰もが目を伏せ、しかし前を向いた。
虚飾の王の終焉を越え、彼らは次の戦いへと歩み出す。
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