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第三章 虚飾王の狂宴 ― 第三幕

第三章 虚飾王の狂宴 ― 第三幕


血のカーテンコール



---


Ⅰ 舞台の幕開け


 鏡の迷宮が崩れ落ちた瞬間、ソルナイトたちの足元は黒檀の舞台に変わっていた。

 観客席には無数の影が並び、顔を持たぬ者たちが仮面を叩きつけるように拍手を送る。


 赤い緞帳の中央。道化の王、バアル=グレイスは冠の代わりに血染めのピエロ帽を被り、両手を広げて声を張り上げた。


「さぁ、さぁ、諸君! 第三幕は命の選択! 舞台の掟はひとつ――仲間の中から、ひとりを犠牲に差し出せ! さもなくば、全員がこの場で絶命する!」


 空間が震え、舞台の上に赤黒い魔法陣が刻まれた。

 その中心には、巨大な砂時計。落ちていく砂は、血の色をしていた。


「制限時間は砂が落ちきるまで……十五分! 選べなければ、幕は閉じ、命も閉じる! さあ、愉快な人間たちよ、裏切りと信頼の交響曲を奏でたまえぇ!」



---


Ⅱ 疑念の芽


 沈黙を破ったのはクレインだった。

「ふざけやがって……誰かを差し出せだと? そんなもん、選べるか!」


 だがメルロが顔を青ざめさせる。

「でも……このままだと全員死ぬのよ……? 誰かが……」


 リアが即座に遮った。

「やめて! 考えるだけでバアル=グレイスの思う壺!」


 しかし、仲間たちの胸に疑念は芽生えていた。

 ――本当に誰も犠牲にせず、全員が生き残れるのか?



---


Ⅲ 揺らぐ心


 バアル=グレイスは軽快にステップを踏み、観客を煽る。

「おおっと! 見よ、この迷いを! ねえ、アキト? 君が選ばれるのが一番筋が通ってると思わない? 英雄様なんだから、命を投げ出すのは当然じゃなぁい?」


 アキトの心臓が強く脈打った。

 頭の奥で、確かにその声は囁いていた。――自分が死ねば、皆が助かるのではないか、と。


 カイルが低い声で言う。

「……俺が残る。盾役は最後まで盾であるべきだ」


「ダメだ!」アキトが叫ぶ。

「そんな勝手に……」


 その瞬間、リアが冷たい視線を向ける。

「じゃあアキト、あなたは代わりに死ねるの? 私たちを守るために」


 舞台の空気が張り詰めた。



---


Ⅳ 崩れる理性


 観客の仮面たちが声なき笑いをあげる。

 それは頭の中に響くようで、理性を少しずつ削り取っていく。


 メルロが両耳を塞ぎながら叫んだ。

「いやぁぁ! やめて、そんなの聞きたくない! もう誰かが犠牲になればいいの!? そんなのいやぁぁ!」


 涙を流す彼女に、クレインが苛立ちをぶつける。

「泣いてる暇があったら決めろ! 全員で死ぬよりはマシだろうが!」


 怒声が響いた瞬間、仲間たちの視線が互いに鋭くぶつかる。

 誰もが心の奥で、誰かを指差そうとしていた。



---


Ⅴ 英雄の選択


 アキトは震える膝を押さえながら前に出た。

 剣を突き立て、叫ぶ。

「やめろ! この舞台は罠だ! “誰かを犠牲にする”って思った瞬間、俺たちは負けるんだ!」


 リアが苦しげに目を閉じる。

「……でも、現実に死んでしまえば……」


「死ぬなら一緒だ!」アキトは叫んだ。

「俺は仲間を疑わない! 犠牲も選ばない! 最後まで全員で生きて帰る!」


 その声は、震えていた。

 だが――確かに仲間たちの胸に響いた。


 カイルが剣を握り直し、静かに頷く。

「……なら、最後まで信じよう」


 クレインが舌打ちをしつつも笑う。

「クソ……またお前に乗せられるのかよ」


 メルロの頬を涙が伝い、リアが小さく「そうね」と呟いた。



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Ⅵ 血の砂時計


 その瞬間、砂時計の砂が落ちきった。

 観客の仮面たちが一斉に絶叫する。


 バアル=グレイスが、口を裂けるほどの笑みを浮かべて手を叩いた。

「ブラボォォォ! 選ばなかったぁ!? ならば全員死ねぇぇぇッ!」


 舞台全体に赤黒い光が走り、空間が崩壊を始める。


 アキトは剣を振りかざし、仲間たちに叫んだ。

「全員、俺の光に乗れ! ここから突破するんだ!」


 光が迸り、仲間たちの身体を包む。

 舞台が砕け散る中、彼らは一つの光となって虚飾の牢獄を突破した――



#異世界ファンタジー小説



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