第七章 血の月下の儀式
第七章 血の月下の儀式
Ⅰ 黒衣の影
夜。
赤黒い月が天を覆い、世界は不吉な光に包まれていた。
アキトたちは古の神殿跡――「虚哭の祭壇」へとたどり着いた。
そこに立つのは、七邪王のひとり。
その名は 「屍想卿ヴァルハザード」。
全身を漆黒のローブに覆い、無数の骨の装飾を纏った異形の男。
彼の周囲には、すでに数百もの生贄の屍が積み上げられている。
「来たか……ソルナイトども」
ヴァルハザードの声は低く、湿った地の底から響くようだった。
「破壊の女神の降臨は近い。だが……その胎動を速めるのが、我ら七邪王の使命よ」
彼は手を広げた。
屍が蠢き、赤黒い光を放ちながら宙に浮かぶ。
「我が儀式《屍界の血環》――血の月を媒介に、女神の通り道を開く!」
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Ⅱ 蠢く屍の軍勢
アキトが剣を構えるよりも早く、祭壇全体が震えた。
積み上げられた屍が立ち上がり、血と肉を滴らせながら兵のごとく整列する。
目は赤く光り、口からは呻き声が漏れ出した。
「ひっ……!」メルロが息を呑む。
「これは……魂を縛られて操られてる……! 本物の死者の軍勢よ!」
クレインが雷をまとい、前に出る。
「だったら叩き潰すまでだろ!」
だが、屍兵は切り裂かれても、雷で焼かれても、瞬く間に再生し立ち上がる。
それは兵ではなく、儀式の“触媒”として繋がれた存在だった。
「無駄だ……。奴らは血環の一部。斬っても焼いても、儀式を進めるための器に過ぎん」
ヴァルハザードの声が低く響く。
「お前たちの絶望が、女神を呼び覚ますのだ……!」
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Ⅲ 幻視
次の瞬間、仲間たちの視界がぐにゃりと歪んだ。
血の月が膨張し、世界そのものが紅に溶けていく。
「アキト……!」
リアの声が遠い。
アキトの目の前に、亡き両親と妹が現れた。
『なぜ置いていったの……アキト』
『お前が選ばなければ……私たちは死ななかった』
胸を抉られるような声。
だがアキトは震える手で剣を握り直した。
「違う……! 俺は……守りたかったんだ! もう誰も、失いたくない!」
叫ぶと同時に、幻はかき消え、剣に光が集まった。
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Ⅳ 仲間の反撃
リアが両手を広げ、風刃を解き放つ。
「《蒼天裂刃》!」
暴風が屍兵を一掃し、血環の輝きを一瞬だけ弱める。
クレインが続く。
「雷鳴轟けッ!」
雷光が地を割り、屍を薙ぎ払う。
メルロの冷気が一面を覆い、屍の動きを封じる。
「《氷縛結界》――!」
カイルが盾を構え、迫る屍兵を受け止めた。
「お前たちは進め! 俺が道を塞ぐ!」
仲間の力が連なり、血環は揺らぎを見せる。
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Ⅴ 決戦
アキトは剣を掲げ、仲間の力を束ねた。
「これで終わらせる! ――《光焔一閃》!」
炎と光が交わり、剣が白き閃光に包まれる。
その一撃が血環を貫き、祭壇を覆う赤黒い光を切り裂いた。
ヴァルハザードが絶叫する。
「バカな……! 儀式が……!」
轟音と共に血環は崩壊し、屍兵は砂のように崩れ去った。
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Ⅵ 残された影
息を切らす仲間たちの前で、ヴァルハザードは黒煙に包まれ、姿を消した。
だがその直前、低い笑い声が残る。
「……無駄だ。儀式は失敗しても……女神は目覚めつつある。
七邪王は……七つの環。ひとつ砕いても……残りが満ちれば……終焉は来る……!」
その言葉が夜に溶け、祭壇に不気味な沈黙が戻った。
アキトは剣を握り直し、仲間を見渡した。
「……俺たちが止めなきゃならない。女神が完全に降りる前に、残りの七邪王を討つ」
赤黒い月はなおも空に浮かび、彼らを見下ろしていた。
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