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なろう系打ち合わせ会議  作者: お赤飯
9/12

なろう系打ち合わせ会議8

瀬能「ちょっと、最近、考える事がありまして。」

担当「・・・・・身の振り方ですか?」

瀬能「そういうリアルな話ではなくて。既にイチジャンルとして定着しつつある”ゾンビ”についてです。」

担当「ゾンビですか。」

瀬能「そうです。ゾンビものは定着化したのはいいものの、ゾンビの一人歩きと言いますか、多様化複雑化、そして、解釈の違いにより、混迷を深めていると思います。ソンビの本流、ゾンビの元祖、ゾンビの進化、ゾンビとはどうあるべきか、そういう事を考えていると、寝不足ですねぇ。」

担当「そんな大袈裟な事でしょうか。」

瀬能「ゾンビは、その発生、発生とは世にゾンビという存在が作品として発表されたという意味で、とある大学の先生が、研究しているくらい、研究対象だったりするんですよ。・・・・・宇多丸の番組のそのまんま受け売りですけどね。」

担当「宇多さん、そういうのやりますよね。挑戦的な文化番組ですから。」

瀬能「我々東洋人には馴染みの薄いゾンビですけれども、古来、ゾンビとは、死体が蘇ったものだったはずです。」

担当「”逃げ”にはなると思いますが、各種、説はありますよね。そこは。」

瀬能「当然です。ポイントは死体が蘇る、っていう点なんです。これは、文化的な背景があると思うのですが、西洋の、土葬で埋葬するという文化から、転じてきているものと推測されます。土葬で、棺桶に入っている死体が、何らかの手段によって、蘇る。それがゾンビです。」

担当「その、何らかの手段っていうのは、いったい、何なんですか?」

瀬能「いわゆる魔法であるとか。呪いであるとか、そういうものが一般的だとは思うのですが、昔、見た、世にも不思議なアメージングストーリーでは、他者の介入なく、呪いで、死者が蘇っていましたね。いや、ここ、重要だと思うんです。魔女が死体を使役する為に、死体を蘇えらせるのと、人間がやってはいけないとされる行為をして、要するに、禁忌を犯して呪われると、死者が復活して、人間を襲うという話になります。他者の介入があるのか、自分だけで成立しているのか、大きな違いがあると思います。」

担当「その、違いがあると、何が変わるんですか?ゾンビはゾンビだと思うんですが。」

瀬能「怖さですよ。」

担当「怖さ?」

瀬能「いまでこそゾンビはアイコン化してしまいましたが、テレビやラジオがない時代では、畏怖の対象であった事は間違いありません。自らが、禁忌を犯したことで死体が蘇り、襲ってくる。他者が介入する隙もなく、死体と自分だけの関係になります。これ、恐怖ではないでしょうか?」

担当「まぁ、言われてみれば。」

瀬能「死体は既に死んでいるので、何をしようと、死にません。自分が殺されるか、呪いを解くか、どちらかです。昔話は救いがありますから、だいたい、呪いを解く方法が見つかって助かるんですけどね。」

担当「トワイライトゾーンやアメージングストーリーは、ギャーって悲鳴で、引いて、オチを明かさないっていうのがより視聴者の怖さを演出している面もありますけどね。」

瀬能「さきほども話ましたけど、東洋人には馴染みが薄いゾンビですが、よくよく考えてみると、死体が蘇るっていう点では、同じものはありました。落ち武者はその一例です。あれらはゾンビという言葉が入ってくる前から、存在しているので、日本版ゾンビと言って過言ではありません。さらし首が動くとか、落ち武者が動くなんて話は、幾らでもありますから、珍しい話ではありません。」

担当「そう言われればそうですね。」

瀬能「かつては日本も土葬が、埋葬の一般的手段だったわけです。死体を土葬する文化では、ゾンビが生まれる風土があると、私はあると結論づけます。」

担当「死体を埋める。・・・もしかしたら、生き返る?かも知れないっていう恐怖ですよね。」

瀬能「そう言う事です。焼いて灰にしてしまう文化なら、ゾンビは誕生しなかった事でしょう。ゾンビの元となる死体が存在しないのですから、ソンビが生まれる事が出来ません。」

担当「先生、冴えてますね。凄いと思いました。」

瀬能「インド、エジプトなどの、一度、死んだ人間が蘇る、神になるという、考えは、紀元前の文明の頃からある考えで、ゾンビとは別に、ミイラという別の体系として確立しています。」

担当「ゾンビとミイラは似て非なるものですね。言われてみれば。」

瀬能「ミイラは復活する事を前提とした、埋葬の文化です。それに、ミイラにされるのは組織での位の高い人間のみで、一般の人間がミイラになる事はありません。一般の人間は、生き埋めです。生きたまま、埋められてしまうのです。それは、そういう時代背景や文化ですから、それを非難する事も出来ませんが。」

担当「ミイラは徳の高い人しか、なれないって事ですものね。王様とか、そういう。」

瀬能「ですが、昨今のゾンビは、病気を媒介にして、誕生します。これも、時代の変化と捉えられます。」

担当「ウィルスとか、そういう奴ですよね。・・・・理屈はよく分かりませんが。」

瀬能「これらの発生原因は、噂話、今でいう都市伝説とかいうものに代表されますが、不幸の手紙と同じ発生機序だと思います。昭和以前の不幸の手紙は、文字通り、手紙が媒介の手段でした。時代が移って、現在、不幸の手紙は、電子メールを経てSNSを媒介にしています。時代によって通信インフラが変わるから、不幸の手紙も媒介手段が変わっていく、という理論です。それに合わせて、ゾンビを考えてみれば、やはり、墓場から死体が蘇るというオカルト的な神秘主義から、西洋医学が発達した現代、最も脅威なのは感染症、伝染病の類です。それにあやかって、ゾンビも、ウィルスを媒介するようになったと考えるのが自然です。」

担当「現代は、あらゆる物が視覚化されるようになりましたからね。ウィルスでさえ、電子顕微鏡を使えば見られるようになった。オカルトのはびこる隙間がだんだん狭くなってきたことが要因にあるかも知れませんね。」

瀬能「まさにその通りです。しかもですよ、ゾンビの活動内容も変化してきました。」

担当「ゾンビに活動内容とかあるんですか?」

瀬能「ええ。もちろんです。当初、ゾンビは、死体なので、死体以上の事ができません。」

担当「死体以上って何ですか?先生」

瀬能「死体が蘇ったものがゾンビですから、腐乱している訳ですよ。腐乱している物が、動こうとしても、限界があるわけで、ゾンビは動きが遅い。そして脆い、という特性がありました。ゾンビに襲われた所で、殴ったり蹴ったりすればゾンビの方が、力負けしてしまうものでした。相手は腐ってますから、当然です。ビジュアルが怖いだけで、ゾンビに脅威を感じる事は少なかったと思います。ところが、年々、ゾンビが進化していきます。」

担当「ゾンビの進化ですか?」

瀬能「私の推測ですが、これ、フランケンシュタインの影響が多々あると考えています。」

担当「フランケンシュタイン?」

瀬能「狼男、ドラキュラに次ぐ、三大スターの一角、フランケンシュタインです。フランケンシュタインは、死んだ人間の使える所を、繋ぎ合わせた人造人間です。ゾンビと酷似している点は、死んでいる所ですが、ゾンビは一度、埋葬されています。フランケンの場合は、死んだ状態。すなわち死体です。死体を切ったり張ったりして、作った人造人間です。同じ死体から派生しているにも関わらず、まったくの違う物なのです。

フランケンシュタインは、人造人間である事から、人間より並外れたパワーを持っています。しかしながら、動きは遅い。この動きが遅いという点は一致していますが、パワーがあると言う点がゾンビにフィードバックされていき、特徴的な能力を持つゾンビが誕生していく事になります。

例えば、やれても死なない、とか。」

担当「やられても死なない、ゾンビですか?」

瀬能「先程言ったように、当初のゾンビは脆かったです。腐っているのですぐ体が崩壊してしまいます。ところが、人間が攻撃しても、やられない、うたれ強いゾンビが登場してきます。これって、フランケンシュタインの影響を確実に受けていると思います。やられても死なないって、そのまんまフランケンシュタインじゃないですか。最初から死体だからっていうのもありますが。」

担当「ああ、言われてみれば、なるほどです。」

瀬能「そして、ついには、俊敏なゾンビが誕生します。これはこれまでのゾンビの概念を覆します。ゾンビは動きが遅い、というものが完全に否定され、全速力で走って襲って来るゾンビが現れます。これは人間にとって脅威以外の何物でもありません。」

担当「走って襲ってくるゾンビって、ゾンビの存在意義ってなに?って思った記憶が、私にもありました。」

瀬能「ゾンビが進化してしまって、古いゾンビしかしらない人間には、カルチャーショックでしかありません。ゾンビも時代によって、能力が付加され、進化してきました。ゾンビという概念そのものが、過去の物とは違う物になってしまったのは確かです。

私の知るゾンビは、もう存在していません。悲しいかな、ゾンビは遠く彼方に消えてしまったのです。ゾンビという別の新しいモンスターになってしまったのです。

そして、ゾンビは感染するようになりました。」

担当「そうですね。ゾンビは仲間を増やせるようになりましたね。あれ、やめて欲しいんですけど。」

瀬能「ゾンビはウィルス等の感染で、増殖するようになりました。ですから、人から人に感染し、ゾンビが永久的に増え続けるようになったんです。これまでは、死体がゾンビになっていたので、死体の数以上はゾンビにはなれませんでした。死体の数に上限があったからです。しかし、生きている人間が、感染するとゾンビになってしまうので、上限が撤廃されました。理論上、地球上、すべての生き物がゾンビになってしまう可能性すらあります。」

担当「恐ろしい時代ですね。まさに世は大ゾンビ時代! ありったけのゾンビをかきあつ~めぇ、♪」

瀬能「ここまでが、実は、前振りなんですよ。私が本当に語りたいのは、ここからです。」

担当「なんと?」

瀬能「どうやって、ゾンビ世界で生き残るか!っていう事なんですよ。日々、私はそれを考えています。」

担当「先生、まったく、世の為にならない、素晴らしい時間の使い方です。あっぱれです。先生らしい!」

瀬能「いやぁ照れますね。

ゾンビが蔓延する世界で、サバイヴしないといけない状況になった時、さっきも話しましたが、理論上、地球上のすべての生き物が、ゾンビになります。ゾンビが少数派だったらいいですけど、感染力が強いですから、ゾンビが多数派になるのは時間の問題だと思います。だったら、悩まないで、早めにゾンビになった方が楽かも知れないって事です。」

担当「自分もゾンビになっちゃうって事ですか。」

瀬能「いずれインフラも使えなくなるでしょう。水、電気、ガス、その他もろもろ、ゾンビによって制圧されていけば、使えなくなりジリ貧になるのは明らかですから、ある程度、どうにもならなくなったら、ゾンビになった方が、自分も多数派に移行できるので、その方が自然な流れだと思います。おまけに、最近のゾンビ作品の潮流でも、その流れが来ています。自らゾンビになる、という選択肢を取る、という事ですね。」

担当「ゾンビから治る薬を作るとか、ゾンビと徹底抗戦するとか、そういう選択肢はないんですか?」

瀬能「あのぉ、ゾンビから人間に戻る薬とか、治る薬とかの方が、私はよっぽどもオカルトだと思うんですね。そんな薬があれば、ゾンビは蔓延していない訳で、薬で治るというその幻想こそが、よっぽども怖いと思います。薬は万能ではありません。薬で病気が治るなんて、オカルトですよ。わりと本気で。だったら、ゾンビになってしまった部分を切除する、という考えの方がまだ医学的に理に適っています。要するに、外科的にゾンビになってしまった部分を切除する。ガンを切除するのと同じ理屈です。」

担当「内科的にゾンビと戦うのはまだ、先だって事ですね。」

瀬能「ゾンビと徹底抗戦するという考えですが、ゾンビが何らかの方法で駆逐できるなら、それも良しでしょうが、生きている人間がゾンビになってしまうと仮定すると、分が悪いです。向こうは、人間がゾンビになるだけで、効率的に仲間を増やせますし、リスクがありません。増えたからって何ら問題がありません。一方、人間は、ゾンビになってしまうリスクも当然ながらありますし、生活するという事もしなくてはいけません。ゾンビを隔離していければいいですが、私の予想では、反対に、ゾンビの世界で、人間が隔離されていくようになるでしょう。人間の数が増えるには時間がかかりますし、圧倒的に、人間が不利です。宇宙ステーションや南極基地で、ひっそり暮らすなんて話もありますが、そこにゾンビが発生しないなんて理由がないので、実は、隔離した世界で暮らすなんていうのは理論が破綻しているのです。ゾンビが矛盾をきたすのです。」

担当「ちゃぶだい返し的な発想ですね。」

瀬能「そうなんです。宇宙ステーションにゾンビが発生しない、安全だ、っていう理論で言えば、だったら、最初のゾンビはどこから発生したの?って話になるじゃないですか。そもそもゾンビが発生しなくなっちゃうんです。ウィルスでゾンビになったなら、・・・・ま、難しい話なんで、現代、ウィルスを殺す薬がないので、殺す事ができないんですけど、インフルエンザウィルスだって殺せませんからね。免疫の方で殺しているだけで。だから、本来は、殺せませんけど、物語なら、ウィルスでゾンビになったら、特効薬でゾンビも殺せます。

ゾンビの発生と根絶が、対になっていないといけないのです。」

担当「今の小説やら映画は、ゾンビの発生と退治が、対にはなっていませんね。最初はゾンビが強いけど、最終的に、人間が勝ちますし。その理由も、けっこうパカパカですもんね。」

瀬能「墓場から死体が蘇るゾンビ程度なら、可愛いもんでしたよ。でも今は、地球上、全ての生き物がゾンビになるまで終焉にはならないのが、確かだと思います。」

担当「先生、だったら、ゾンビ世界でサバイヴできないじゃないですか!」

瀬能「だから、私は、日々、頭を悩ませているのです。どうやったらゾンビ世界で生き抜く事が出来るのか。」

担当「やはり人間は全滅ですか。ゾンビになるしか道はないんでしょうか。」

瀬能「相手は物量が多いですからね。数に圧倒されて負けてしまう気がしますし。・・・・戦争でもそうですよ。日本が負けたのは圧倒的な物量不足もありますから。そもそも、ゾンビが人間にしかかからないなんて事もないですからね。あらゆる生物がゾンビになる可能性だってあります。蚊のゾンビがいたら、もう、逃げ場なんてないですよ。すぐゾンビになっちゃいますよ?我々、生物は、蚊の脅威からは逃げられませんからね。」

担当「・・・・もう別の話になってきちゃった気がしますけど、確かに、蚊のゾンビだって、出て来る可能性もありますよね。」

瀬能「やはり、ゾンビ世界では、ゾンビになるしか、道はないみたいですね。」

担当「困りましたね。先生。・・・・・でも、そんな本、売れませんよ? 主人公が、早々、ゾンビになっちゃう話。面白くもないですけど。」

瀬能「リアリティを追求すると、諦めてゾンビになるしか方法はないと思うんですよね。」

担当「自分だけがゾンビにならないとか、あるじゃないですか? あれ、どうなんです?」

瀬能「そんな訳ないじゃないですか。自分だけが特別だなんて思う方がどうかしてますよ。そういう奴は真っ先に殺されますよ。」

担当「えぇぇえええ?」

瀬能「仮に、そうだったとしますよ。自分だけがゾンビにならない。さっきの私の話、覚えていますか? ゾンビに感染する世界だと理論上、地球上全ての生物がゾンビになります。一人だけゾンビになりません。独りぼっちです。インフラの問題は抜きに、精神的な話だけで考えても、人間、誰もいない所で生きてはいけません。人間、一人きりで生きていける精神構造で作られていないんです。発狂して自殺して終わりです。本当です。孤独に耐えられません。

ほら、5億年ボタンとかそういうネタあるじゃないですか。無理です。1年も経たない間に、精神が崩壊して、発狂して、死にます。もしくは廃人になるか、どっちかです。

あ、ほら、即身仏とかいらっしゃるじゃないですか。生きながら仏になる苦行をなさる方。いまでも修行なさっているお坊さん、いらっしゃるじゃないですか。有名な方。ああいう方達って、それなりに修行を積んでから、そういう行をおこなうそうなんですが、発狂する前に、仏に位が上がるので、言葉を濁していますけど、苦しまないそうなんですね。」

担当「ああ、鳥山先生の精神と時の部屋っていうのも、あながち、本当の話なんですね。」

瀬能「常人では耐えられないって、漫画に書いてあるじゃないですか。地平線、見える所、すべてが何もない、真っ白な世界ってだけで発狂しますけどね。」

担当「人間って脆いんですね。・・・ゾンビになっちゃった方が、精神衛生上、確かに楽かも知れませんね。本は売れませんけど。」

瀬能「ほら、宇宙服にも自殺用のボタンがあるって言いますから。宇宙で作業していて、シャトルやステーションから、万が一、流されてしまってどうにもならなくなってしまって、もう、慣性の法則で、宇宙の彼方に流されるしかない場合、冷静に自殺できるように、そういうボタンが付いているそうですよ。安楽に死ねるように。」

担当「もう先生、怖い事、言わないで下さいよ。」

瀬能「ゾンビに襲われるのと、宇宙で一人ぼっち、流されるの、どっちが良いですか?」



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