あたしが結婚できないのは、神様にもらった魔法のせい?
唐突で申し訳ない。
『リザレクション』という魔法を御存じだろうか?
回復系最上位の魔法の魔法だ。
瀕死のケガ人だろうが一瞬で回復させられる。
身体に欠損があっても、例えば失ってしまった手足を再生することもできるくらいのすごい魔法だ。
どうしてこんな話を始めたか?
現在知られている中で、世界唯一の『リザレクション』の使い手があたしだからだよ。
ええっ? すごいって?
初めて聞く人は大体そういう感想だなあ。
あたしも優越感に浸れるふふん。
あたしが『リザレクション』の使い手だと知れたのは八年前、選別式の時だ。
選別式は大人見習いとなる儀式であり、同時にもし神様からスキルをいただいている場合は判明する。
スキルって神様から稀にもらえる特別な力のことね。
あたしが『リザレクション』のスキルを授かったと知れた時は、場が騒然とした。
しかしすぐにガッカリされた。
何故ならあたしは『リザレクション』を発動させるだけの魔力を持ってなかったから。
いや、超凄い効果の魔法だよ?
バカみたいに魔力を消費しますって。
魔力は使っていると容量が増えるらしいけど、『リザレクション』発動に必要な魔力量は膨大だ。
ちまちまあたしの魔力容量が増えたところで、発動なんかとても不可能という結論だった。
大体あたし、他の魔法を使えないから、魔力を使用する場面もないけどな。
ここまでだったら、何だあたしは空前の残念能力持ってるだけじゃんアハハ、で済んだ。
ところが世の中には賢い人がいて、魔力を補ってやればあたしの『リザレクション』は発動する。
メッチャ使えるじゃん、ということに気がついた。
あっという間に魔力を集める装置が作られ、王立治療院が設立された。
平民のあたしには嫌も応もありゃしない。
あたしは治療院の筆頭癒し手となった。
元々王国には治療院を建設する計画はあったのだそうで。
他の回復魔法や治癒魔法を使える癒し手さん達とともに、和気あいあいとお仕事をしている。
ちなみにお給料は歩合制だ。
患者さんの払うお代の三分の一が癒し手の収入になる。
『リザレクション』のお代は、大人の平均月収の約一〇分の一とややお高めだ。
まあ目が潰れようが内臓がはみ出ようが一発で治るので、高いのかと言われるとそうでもないような。
さて、ここでクイズです。
『リザレクション』が必要になるケースで、最も多いのはどんなものでしょうか?
魔力集積装置とあたしの『リザレクション』が最も活躍するのは、大事故が起きて大ケガする人が量産される時だろう。
しかしそんなのは滅多にないことだ。
じゃああたしのお給料になってくれているのは何か?
答えは歯痛だ。
虫歯は欠損なので、普通の回復魔法や治癒魔法じゃ治らない。
あたし自身は経験がないが、虫歯って頭の芯に響くほど痛いらしい。
必然的に『リザレクション』の出番となる。
治療院ができる前は、やっとこみたいな道具で虫歯を引き抜くしか方法がなかったみたいだね。
でも虫歯でボロボロになった歯をやっとこで掴んだら砕けてしまって、余計に痛くなることも多かったんだって。
聞いただけで震えが来るわ。
虫歯治療は涙を流して感謝されることもあるので、あたしは満足だ。
「先生、いい人はいないのかい?」
「いないんですよ。残念ながら」
今日は今のところ暇なので、治療の終わったおっちゃんと話をする。
他の癒し手の皆さんはお兄ちゃんお姉ちゃんとか、名前で呼ばれることが多い。
でもあたしは何故か『先生』扱いだな。
まあどうでもいいが。
治療院に就職した時は考えてなかったけど、あたしの立場って微妙じゃない?
だって『リザレクション』の使用者には替えがいないんだもん。
簡単に結婚退職するわけにいかないよね?
魔力集積装置だって開発に莫大なお金がかかってるらしいし。
もっとも魔力集積装置は、あたし以外の癒し手さん達も魔力回復のために使ってるけど。
あたしの待遇に関してはお偉い人達の間でも一悶着あったらしい。
何せ神に愛されたとも思える、『リザレクション』というスキルの持ち主だから。
王家や有力貴族が取り込もうという動きが多々あったんだって。
バカみたいだよねえ。
だってあたし、上流階級のことなんか何も知らん平民だよ?
お勤めを始めてから、お偉い人達ともそれなりに関わりができたってだけ。
それに治療院の魔力集積装置と離されたら、あたしの価値なんかないし。
結局あたしを囲い込んで『リザレクション』の民間使用ができなくなると、庶民層からメチャクチャ文句が出るというレポートが提出され、あたしの争奪戦は終了した。
そこで気付いた。
あれ、あたしの幸せは?
結婚できない説濃厚?
いや、今すぐ結婚したいってわけじゃないよ?
でもあたしも一八歳じゃん?
お年頃じゃん?
いつかはラブい話の主人公にもなってみたいと思うのさ。
でもなあ。
「どこかにいい人いませんかねえ?」
「先生可愛いじゃねえか。男なら誰でも惚れちゃうぜと言いたいところだが……」
「ところだが?」
「先生には代わりがいねえからなあ。正直いなくなると困っちまうぜ」
それな?
状況的にあたしが抜けられないのは一番のネック。
「まあでも一番先生に熱心なのはあの魔導士だろ?」
「ですね」
「状況が許すなら、あいつがいいと思うぜ。じゃ、先生ありがとうな」
おっちゃんが帰っていく。
一番あたしに熱心な魔導士というのが、オズワルドさんだ。
あたしの『リザレクション』を利用する方法を最初に思いつき、王家からすんごい大金を引き出して魔力集積装置を完成、現在の王立治療院システムを実現させた人。
何よりパワフルで、瞳に力がある素敵な人だ。
あたしもオズワルドさん好きだなあ。
でもなあ。
最近オズワルドさんを見ない。
魔力集積装置の成功で王家から多額の報奨金をもらったし、また治療院の利益から配当金も得ているはずだ。
お金持ちになっちゃったから、治療院には用がなくなっちゃったんだろうなあ。
はあ、寂しい。
それにオズワルドさんがいたところで、あたしが治療院を辞められない現状は変わらない。
ダメダメ尽くしだ。
気分が沈むなあ。
「やあ、久しぶり!」
「あっ、オズワルドさん?」
噂をしてたら本人が来た。
噂は本人を呼ぶ説本当?
嬉しいなあ。
「最近お見えにならなかったじゃないですか」
「ハハッ、発明をしてたんだ」
「ひょっとして後ろの大きな荷物がそうですか?」
「うむ!」
自信作のようだ。
でも治療院に持ってきたのはどうしてだろう?
「どんな発明品なんですか?」
「今こそ見せよう! じゃーん! リザレクションホムンクルスだ!」
「リザレクションホムンクルス?」
「つまり魔力集積装置と連動させ、『リザレクション』を使うことのできる魔道具だ」
「すごいじゃないですか!」
あたしがいなくても、治療院の『リザレクション』必要案件はこなせる?
つまりあたしは必ずしも必要なくなる?
治療院から解放される?
「実際に君の『リザレクション』を見て、どんな魔法だか組み立てを理解したからな。俺の頭脳があれば、これくらいのものは作れるのだ!」
「あっ、ちょうど虫歯の患者さんが来ました」
「うむ、試していいか?」
「お願いします」
『リザレクション』の魔力光が患者さんを包み、癒し、お礼を言って帰っていった。
成功だ!
完全にあたしの代わりが務まる!
「オズワルドさん、ありがとうございます。これであたしも肩の荷が下りたようです」
「そうだろう、そうだろう! 君に負担がかかり過ぎていると思っていたのだ」
「でもどうしてオズワルドさんはこんな装置を発明したのですか?」
すごい装置ではあるけど、逆に言えばあたしがいるなら必要のないものだ。
さすがに開発資金は出してもらえないから、私費で作ったんだと思う。
オズワルドさんにあまりメリットがないように思える。
「そりゃあシエナを手に入れるためだ」
「えっ?」
名前を呼ばれたのはいつ以来だろう?
最近はずっと先生と呼ばれていたから。
ドキッとした。
「シエナを治療院から解放し、俺のものとするために必要だったからだ!」
「オズワルドさん、嬉しい!」
「おお?」
思わずオズワルドさんに飛びついてしまった。
「大歓迎だな。では俺の妻となってくれるな?」
「もちろんですとも!」
オズワルドさんと口づけを交わす。
患者さんや癒し手さん達が拍手してくれる。
あたしの人生、こんないいこともあったんだ!
何よりオズワルドさんがあたしのことを考えてくれていたことが嬉しい。
天才で、ちょっと強引で。
でもあたしのことを思ってくれるオズワルドさんが好き。
「ではリザレクションホムンクルスの動作を引き続きチェックせねばな」
「はい」
「問題がなければ国に売りつけ、シエナと結婚だ」
「はい!」
オズワルドさんの力強い瞳が優しく見える。
声は出していないけど、唇が動くのが見える。
あたしはもちろん読唇術の心得なんかない。
でも、何と言いたいかわかる。
『愛してる』だ。
オズワルドさん、好き。
思えば『リザレクション』も神様にもらったスキルだ。
『リザレクション』がなければ、オズワルドさんと知り合うこともなかったんだなあ。
ひょっとして『リザレクション』のせいであたし幸せになれない? なんてちょっとでも考えちゃってごめんなさい。
神様ありがとう。
「オズワルドさん、これは何ですか?」
「消火魔法を撃ちだす装置だ。都市部の火事は大事になるからな」
「オズワルドさんは天才ですね!」
「ハッハッハッ、王家に売りつけて大儲けだ!」