原始時代で痴漢する
「は…?どういうこと?」
教科書で見た通りだ。荒野のド真ん中で、枯れた草木と背の高い木々が見える。そして、数十人の人間が巨大なマンモスを追いかけている。人数は俺の小学校の時のクラスの半分ぐらいで、休み時間になったらだいたいそのくらいが外に出て遊んでいたのに似ていた。
「そっちに行ったぞぉぉぉーーーー!!!!」
「ウォォォォーーーー!!!」
男たちは、運動会の時の運動部みたいに大きな声を張り上げてどたどたと走っていく。
先頭の、特に足の速い筋肉隆々な男が力いっぱいヤリを投げる。マンモスの体にヒットする。
しかし、マンモスの皮に突き刺さるどころか、先っちょが引っかかっただけみたいな状態でマンモスの動きに合わせてぷらぷらしていた。血も出ているかどうかわからないレベルだ。あれじゃ殺すことはできないのは、素人目にも分かった。
しかし…ここにいては危険だ。あの原始人たちも怖いし、あんな動物に追いかけられてはひとたまりもない。近くの木々が生い茂った場所まで見つからないように、かつ、急いで向かった。
ふぅ…一旦安心して、一息つく。
「あなた、ここで何をしているの?」
「うわっ!」
突然後ろから声を掛けられておののくと、目の前にいたのは長い髪の、黒い大きな目の少女だった。首から動物の牙のようなものに紐を通したアクセサリーを下げ、肩のあたりになにかの紋様のような、手で塗りつけた赤いペイントが見える。服は…どうにも目のやり場に困るというか…肩が大きく露出していて、動物の干した皮を身体に巻き付けただけのようないわゆる「原始人」という見た目だ。しかし、教科書と違ったのは胸が大きく張り出しており、ふるふると揺れ、服が締め付けるようにして固定されているのでその大きな胸のたっぷりとした肉がはみ出している。思わず顔を落とすと、ふとくて白い太ももが2本、その皮の服からのぞいていた。角度が違ったり、少し動くといろいろと危ない事になってしまいそうだ。少女が足を少し動かすと、皮の切れ目から中身が見えてしまいそうになり、なしくずし的に顔に向き直った。少女の顔を向いている状態で、首や眉間のあたりに目を向けて面と向かう。顔を背けるのも失礼なので、目を見るのではなく、取引先と話すときと同じくらいの感じで少女に向き直った。
「ここで何をしているの?どこのムラから来たの?」
少女が問いかける。俺はどう説明していいのかも分からず、
「あの…俺、ベッドで寝てて起きたらいつの間にかココにいて!俺も何がなんだかわからなくって!」と、少女は不思議そうな顔をしていた。まぁ…それもそうだろう…俺だってこんな話をされて信じるわけがない。
「あ…あの…君はどこに住んでるの?」
「私?私は…えっと…タガのムラだよ…?」
タガ…?町の名前だろうか…でもムラって言ってるし、集落みたいな感じなんだろうか…
しかし、どうやら集落があるみたいだ。一旦そこに行って、今何が起きているのかとか、情報を集めた方が良いかもしれない。そうすれば何かわかるかもしれない。
「あの…そこに連れて行ってもらってもいい?」
「えっ!?え…えっと…」
少女が驚いたように返事する。た…確かにいきなり不審な男のいう事なんて聞けないよな…
「お…お腹、すいてるの?」
集落へ連れて行って欲しいという質問をしたんだけど…でも、そういえば起きたばかりで、食事をしていない。いつも朝飯は通勤途中のコンビニで済ますので大したものは食っていないが、少し落ち着いたのもあって腹が減っている事に気づいた。
「じゃあ…いっしょに行こう。ついてきて」
少女は隣に立って少し前に立つと、先導するように歩き始めた。どうやら食べ物を取りに行く途中だったみたいだな。でもちょうどいい。それの手伝いをしながら、いろいろ聞いてみよう。
「そういえば、君の名前は?」
「名前?私?…う…ウーだよ。」
ウー…うーちゃん…そうか…うん…響きが可愛いな。
いざ隣に立って歩き始めると気づいたのは、うーちゃんの身長は俺よりも大きくて、男としてちょっとだけ…その…情けない気持ちになった…
皮の服から覗く腕や脚もよく見るとうっすらと筋肉の筋が入っており、結構ガチの運動部の女子の体育の時に体操着から見えた脚や腕に似ていて、それより一回り大きいように見えた。…ちょっと俺は近寄りがたかったタイプだ…
先導するうーちゃんについて行くが、道というより森の中というか、腰までの高さもある草木が生い茂っているところをガサガサと進んでいく。そういえば、俺は会社のスラックスとワイシャツだが、うーちゃんの脚は生身で、歩くたびにその柔肌に草が少し切れ込みを入れて、複数の小さな傷口からうっすら血が流れているのが見えた。それがあまりに痛々しくて、いてもいられなくなって
「あ…あの!その…!脚から血…」
「?…大丈夫…。ここ、だから誰も来ない。」
気にしていないそぶりを見せたが、目の前で自分より幼そうな少女が血を流しているのを見てそのままにしてはおけなかった。俺は、ポケットに入っていたハンカチを差し出した。
「…?これ…何?」
「とりあえずその血を拭いて!菌が入っちゃうから!」
「ありがとう…でも、すぐ直るから大丈夫…」
もどかしい…!俺はうーちゃんの脚にハンカチをあてがう。
「!!ん…」
ハンカチにうーちゃんの血が付いた。当の本人は驚いた様子でこちらを見ていた。
…?あれ?
冷静に自分の事を察すると、いたいけな少女に後ろから手を伸ばして、少女の脚にハンカチ越しとはいえ手を触れて…毎朝の狭苦しい電車内で立っている制服の女の子のスカートから覗く脚を眺めて悶々といつも想像していたたあの…
「あっ!まって!ちがって!これ!叫ばないで!通報しないでぇ!!!!」
心臓がバクバクと跳ねて、弾くようにうーちゃんから離れて全力で許しを乞う体勢をとった。
でも、うーちゃんは冷静に
「ありがとう…それ、気持ちいい」
…助かった…?え…怒ってない?
少し恥ずかしがるような声色だったが、怒ってはないようだ。
どんなに言葉が丁寧でも、表情や声色は隠しきれない怒りが漏れ出す。怒っている女の子を見分けるのは、痛いほど合コンで鍛えさせられたからな…
また、嫌な思い出がよぎって少しヘコんだが、まだ俺の手にはハンカチ越しに女の子の脚のやわらかさと体温の感触が残っていた。
「そ!そうだ!食べ物!は…早く行こう!」
ちょっと浮かんだいやらしい思いをごまかす為に、背をびしっと張り、手はぎゅっと握りこんで足をすすめた。