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仕事つれぇ…

今日も仕事が終わって暗い部屋に帰ってきて、スマホを見ると画面はすでに9時をまわっていた。

上着を脱ぎ、食事…をするのすら面倒くさい。そのままベッドに倒れる。

運動したときとは違う、疲労した時に出る身体のにおいがする。消臭をしていても、ベッドに倒れ込むとそれが染みついているのが分かる。

最寄り駅から少し歩いただけなのに、ワイシャツにはじっとりとした気持ちの悪い汗を感じた。

仕事は、肉体的にツラいわけではない。ただパソコンの前に座って、指を動かして、たまに上司や取引先と会話して、顧客に怒られて…なのになぜ俺はこんなに疲れているのだろうか。


力なく、スマートフォンに入っている動画のアプリを開く。

世界の歴史について、人工音声を用いたキャラクターが解説する動画のサムネイルが目に入った。

俺は脳を通さずにそのサムネイルをタップする。楽しそうな音声とともに解説が始まる。


「今の人間の祖先は、20万年前に生まれたんだぜ」


昔から勉強は得意ではなかったが、歴史の教科書で一番興味をそそられたのはここだった。

小学校でも、中学校でも、歴史の教科書の1ページめはいつもこれだったな。

小学校で教科書が配られると、みんな大騒ぎでおのおのが急いでページが好きなページを読み始める。

戦国時代の武将の写真がいっぱい乗っているページを見ている奴や、地図が乗っているページを読み始めるやつ、面白いヒゲをしたじじいの写真のページを見ているやつもいる。

そして俺が一番好きだったページは、2ページにわたって、縄文時代のくらしがカラーで描かれているページだった。そのページでは、ワラや土でできた家が並んでいて、きたない布一枚のような服装で、ヤリを持って動物を狩っている者、よくわからない何かを食べている者、儀式のようなものをしている者。様々な人が描かれていて、見ているだけで面白かった。だけど先生が教科書の説明を始めたので、仕方なく教科書を閉じて、いっせいに裏に名前を書き始めた。でもそのあとの説明なんて聞いてる場合じゃなくって、机の下に教科書を隠してずっとそのページを見ていた。


でも、だんだんと興味が薄れていった。特に、時代が進んで戦争のころになると特につまらない。

教科書のなかに書かれたキャラクターも、教科書の最初は「どんなものを食べていたのかな?」とか「この時代にこんなものを作っていたんだ!」みたいに、俺と同じことを考えていたのに、そのころになると「私たちはどうするべきだっただろう?」とか「こんな事をするなんてひどいね」を言うようになってきていた。

たしかに戦争はひどいものだけど、俺が一番ひどいと感じたのはもっと序盤の、平安時代みたいなかっこうをした人たちが、同じ貴族みたいな人の首を日本刀で切り落としている絵だった。首の断面が描かれていて、血も噴き出していてとってもグロかった。なのにそのページは、切り落とされた顔がおもしろくってみんな笑っていたし、俺も面白かったので一緒に笑った。先生も笑っていて怒らなかった。


だけど、戦争のところになったらみんな静かになって、誰も笑わなくなった。

確かに人が死ぬことは悪い事だと思ったので、俺も笑わなかった。

ちょっとでも笑うと、先生はゆっくりとした口調でその笑った生徒を咎めた。

大切な事だと思った。

でも、授業もどんどんつまらなくもなっていった。


テストの成績も落ちて行った。まぁ、やる気もなかったし勉強してないから当然だ。

高校では理系を選んだ。別に数学が得意だとか、なりたい職種があったからじゃない。

就職はそのまま聞いた事のある企業の理系募集で入った。

聞いた事ある企業だったけど、業務内容はイメージと全然違った。

これって文系の仕事じゃない?っていう事もいっぱい経験した。

でも、俺が学生の時に無駄だと切り捨てていた、文系学科出身のやつらのコミュ力にすでについていけなくなっていた。

俺って別に、理系が得意でも、文系が得意な訳でもなかったのかな…


「この頃は、稲作が始まってムラを作り始めたんだぜ」


「これがその時作られた、はにわや土偶だぜ」

「なんだか不格好ね」


「この頃、鎌倉を中心に武家政権は朝廷に…」

なんだかつまらなくなってきた。隣にある、今期のアニメのトレーラーをタップする。

ヒロインは正統派の幼馴染らしい。ありきたりな設定だが可愛い。

この黒髪ロングの巨乳の女の子はSNSで人気が出そうだ。俺も好みだ。

金髪のツインテールをした女の子の声が良い。胸は控えめだ…


眠たくなってきた。脳がゆっくりシャットダウンしていくのを感じる。

明日の通勤と、スケジュールが延期し続けて赤字を垂れ流している案件の顧客の打ち合わせの事を思い出して、また少し嫌な気分になった。


目覚めると、俺は原始時代にいた。

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