息
人の口から外に出た息は、その人の感情や性格を孕んでいる。
あなたとわたしが、同じ部屋にいて、同じ空気を共有しているとしたら。
あなたの吸って吐いた空気を、わたしが吸い込んだとしたら。
わたしの吸って吐いた空気を、あなたがまた吸い込んだとしたら。
それなのに、あなたとわたしで、どうしようもないくらい同じじゃないものがあるのは。
いったい。
わたしを吐き出して、あなたを取り込む。
あなたにわたしを食べさせて、あなたにあなたを吐露させる。
そんな生々しいくらいのやりとりをしていても。
いや、もっと乾いた関係でも。
必ずマスクを通って伝う空気でも、わたしの方を向かないで空中散歩する空気でも。
例えば、そういう雑踏の教室にいたとしたら。
みんながみんなと違うのも、わたしがみんなとちがうのも、なんだか当たり前のようで。
大して広くない部屋のなか、あの人とあの人とあの人と、わたしとあいつとあの人が繰り返し吸って吐いた息がそこにあって。
だいたいの人は、眼前にあるみんなを感じて空気を読むから、みんなはみんなに合わせられてるんだろうけど。
でもそんな吸って吐いてを際限なく繰り返すもんだから、空気が抱えきれないくらいに感情だのが重なって、それが重くゆっくり渦を巻いたりして。
そのせいでわたしは、たまに変に息が詰まったりする。
たった今わたしの吸い込んだ空気が誰のものなのかすら、いつかの時点では本当にわたし自身のものだったのかすら分からなくなったりする。
ああ、変だ。変だ。
気持ちが悪い。
と、
そんなことを考えるわたしはいま、ただひとりの部屋で息をしてる。
同じ部屋で、同じ場所で、なんだかわたしを堂々巡り。
だから明日はまた同じ机へ。
別に嫌いなわけじゃないけど、この堂々巡りを止めるため。
毎日毎日、同じ場所へ、大きな堂々巡りをしに行くだけ。
そのためだけに、今日もひとりを置いて行く。
わたしはわたしが好きなはず。そうなんだけど。
違うものに囲まれないと、わたしはわたしをなくしてしまう。かもしれないから。
どうも、瑪瑙です。
ちゃんとしたお話とも言えないようなとりとめのない文章ですが、満足していただけたら嬉しいです。