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蒼天のアルターレ  作者: 日凪セツナ
第一章 魔法使いと黒の騎士
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1)大地の大穴

 二人でこなせる依頼にも限りがある。【八重塔遺跡ルイン・ヴェステージア】攻略を目指すのであれば、情報収集含む事前準備も十全にしなければならない。加え、宿に逗留し続けるにも先立つものが必要だ。


「というわけで、だ」


 クリフは、ソロ向けの依頼を三つ持ってロアルに突き出した。


「あんたならこれくらい、今日でこなせるだろ? その間に俺は買い出しと、あと仲間の募集もしておく。適材適所でいこうぜ」

「了解。出稼ぎ頑張ってくるよ」


 掲示板前でクリフと別れ、ロアルはカウンターに向かう。依頼は近辺の魔物討伐と、町の中での雑用だった。




 三日後。


「どーぉしても、盾士(タンク)助士フッカーがどうにもならねえな」


 屋外食堂のテーブルに突っ伏して、ロアルは「うー」と唸る。まだ朝早いからか、客の姿はまばらだった。


「実績がないから募集しても来ちゃくれねえし。大きなパーティに売り込みにも行ったんだぜ? あんただけなら、引き取ってくれるところもあったのに」

「だってクリフがいらないなら、ボクが加入する理由はないね」

「あんたがそうやって意地張るから……はあ」


 大きなトラブルがあるわけではないが、こうも上手くいかないと焦りも出てくる。仲間ができたら共有しよう、と集めておいた情報も、このままでは宿の部屋で埃をかぶるばかりだ。ロアルがソロの仕事をこなして金を稼ぎ、クリフが仲間を募る。これ以上その日課を繰り返しても、成果は期待できなかった。どちらも、そうと口には出さないが。

 パンを両手でふかふかと揉んで、ロアルは「むー」と声を漏らした。角砂糖を二つ入れ、クリフは匙でコーヒーを掻きまわす。ロアルが朝食にと頼んで、結局手を付けなかった一杯だ。ロアルはパンをちぎり、足元の鳩にやっていた。


「なんでみんな、クリフをそんなに嫌うんだい。強いのに」

「強い人間ならいくらでもいる。俺はエキスパートもないし、生得魔法も役に立たないから」

「生得魔法?」


 それも知らないのか、とクリフは閉口する。自分が先輩ぶっていられるのは、このロアルの無知さのためだろう。文字はいつの間にか読めるようになっていたが、この仮面の冒険者は時々、どんな田舎の子供でも知っていそうなことをすっかり知らなかったりする。


「あー……魔術が使える人間は限られてるっていうのは知ってるだろ?」

「そうなんだね」

「お前マジか」


 半分ほどに減ったパンで、ロアルは顔を隠すような動作をする。少しは恥じらっているのだろうか。


「はあ……魔法使いと魔術師が違うって話はしたよな?」

「うん」


 クリフは指先でテーブルをなぞった。テーブルの上に、光に縁どられた文字が現れる。クリフは縦に直線を引き、その片方に『魔法使い(メイジ)』、もう片方に『魔術師(ソーサラー)』と書いた。


「今、『魔法使い』はいない。これは古い時代の言い方だ。で、『魔術師』になれる人間は生まれつき決まってる。大体百人に一人くらいだ」


 指先で『魔法使い』の文字をテーブルの外に放り、クリフは文字を反転させてロアルに向ける。そして『魔術師』の文字に手をかざすと、それは人型の絵になった。


「大体六歳くらいから顕現するのが生得魔法。どうしてとかは、学者先生じゃねえと分かねえ。そこから魔術学校に行って勉強するのが獲得魔術。魔術師を名乗れるのは、自分自身の生まれつきの魔法を持ってて、獲得魔術を使える、この二つが条件だな」


 二種類の文字を見て、ロアルは「なるほどぉ」と頷いた。

 クリフの説明はかなり大雑把にしたもので、正確には獲得魔術にもかなりの種類がある。数百年かけて体系化された技術でもあり、いまだ研究が不十分な学問分野でもあるのが魔術だ。クリフが扱える魔術の種類は、現在確立されているものの二割にも満たない。賢者と呼ばれる高位の魔術師は、百以上の魔術を自在に使いこなす者もいる。


「で、獲得魔術にも赤、青、白といろいろあるが、今は置いておく」


 ぺっ、とクリフは獲得魔術の文字をテーブルから追い出した。空中に放り出された文字は、砂粒のように霧散する。


「生得魔法……これは魔法って名前の通り、誰もが決まった手順で使えるようにはなってない。だから魔術師は、たくさん獲得魔術を使えるほかに、この生得魔法がウリになる」

「クリフの生得魔法ってどんなの?」

「これ」


 クリフの指先が、ついっとコーヒーカップの縁をなぞる。と、文字と同じような光の粒が現れ、白い蓋となってカップを覆った。カップは、まるで最初から上が開いていなかったかのように閉じられる。


「……それ?」

「これ」

「だけ?」

「だけ」

「……ええと」


 いつもクリフを手放しに褒めるロアルも、何と言ったらいいか言葉に詰まっているようだった。


「便利だね?」

「言うと思ったよクソッ!」


 クリフが両手でテーブルを殴り、浮いたカップをロアルが受け止める。ロアルの手にあったパンは、最後のひとかけらを鳩が奪い合っているところだった。


「すごい、コーヒー全然こぼれないよ!」

「フォローになってねえよ!」

「だだだ大丈夫だって人間生きてる間ずっと成長期! ね!」

「生まれ持っての才能っていう枠組みがあるんだよ、どうしようもねえ!」


 ロアルの手からカップを奪い取り、クリフは残りのコーヒーを飲み干した。乱暴に立ち上がり、空のカップをロアルに突きつける。


「そーいうわけでだ。今日、お前を引き受けるパーティが見つかったらお前ひとりで行け」

「やだよ!」

「お前がダンジョンから戻ってくるまで、ここで待ってる。お前がどーぉしても俺とパルを解散したくないっていうんなら、喜んで。ただ大きいダンジョンに挑むには、俺は足枷だ。分かったな!」


 空の食器を持って、クリフはテーブルから離れる。ロアルは腰を浮かせたが、肩を落として座りなおした。


「なんであんなに、偉そうに後ろ向きなんだろう」


 大声を聞いていたらしい隣席の少女が、さっとロアルから顔を逸らす。深く被った帽子から、赤毛が飛び出していた。


「ねえ、君はどう思う?」

「えっ?」


 ロアルは、その少女に声をかける。少女は驚いて振り向いた。大きな目が、ロアルを正面から見てぎゅっと瞳孔を細める。猫を思わせる虹彩だった。


「君……たち、クリフの前の仲間だろ?」


 ロアルは椅子を傾け、少女の向こう側を見た。少女より二回りも大きな偉丈夫が、身を縮めて座っている。こちらに顔が見えにくいようにか、フードを目元まで下ろしていた。ロアルに声をかけられると、偉丈夫はびくっと肩を上下させる。


「何の用さ? こんなに空いてるのに、わざわざ隣に」

「……あんたら、助士と盾士いないんでしょ」


 ロアルに向き直り、少女は帽子をとる。髪の毛と同じ色の大きな三角耳が、ぴょこんと立ち上がった。


「【八重塔遺跡】に行くなら、あたし達が引き受けてもいいけど」

「トート?」


 戻ってきたクリフの声に、少女の耳がそちらに向く。だが顔はロアルを見たまま、少女は膝の上で拳を握った。


「あんたら、闘士(ファイター)魔術師(ソーサラー)でしょ。あとあたしとフォレイルがいたら、ぎりぎり、【八重塔遺跡】に潜れる。どう?」

「うーん……渡りに船だけど、クリフが嫌ならボクはやだよ?」


 ロアルと少女の顔が、同時にクリフを見上げる。クリフは半歩引き、二人の顔を見比べた。


「や……別に、嫌じゃねえよ。今更そんな、恨みのある相手でもなし」

「だってさ。よかったねー寛大で」


 クリフの平手が、ロアルのフードをすぱんと叩いた。




 冒険者ギルドを中心にした町から、東へしばらく歩くと、その穴は見えてくる。物々しく柵で囲まれた、巨大な縦穴だ。なだらかな丘が続く周辺から景色は一変、掘り返された土と鉄さびの臭いがあたりに漂っている。穴の直径は、家が一棟丸ごと飲み込めそうなほどだった。


「わーお、深ぁい」


 穴の縁に立ち、ロアルは両手をかざして穴を覗き込む。大穴の内側は土ではなく、黒々とした建物だった。穴に沿ってぐるりと柱の並ぶ廊下があり、一定の高さのそれは、見下ろせば六つの階層になっていた。

 クリフは穴に背を向け、片手でロアルの外套をつかんでいた。もう片方の手には、紐でまとめられた紙束がある。


「お前らがどれくらい詳しいかは知らねえけど、潜る前に情報共有といきたい。急ぐか?」

「いーえ。あんたらこそ、あたしたちの情報にびっくりしないでよ」


 帆布をつぎはぎして作った貸しテントが、柵の外側にいくつか並んでいる。やや大きなテントの下では、ギルドの紋章を付けた男が忙しく紙を数えていた。その隣に座っている魔術師は、暇そうにあくびをしている。二人の背後には書棚があり、そこに、古ぼけた手帳や紙、歯車などが置かれていた。

 貸しテントの一つで、クリフは長テーブルに紙を広げる。足元の石を重石にして、ロアルは両手を広げた。


「さあ、じゃあクリフの成果と君達の持つ情報をすり合わせよう。【八重塔遺跡】は地下深い、円筒状の階層になっているダンジョン。中央の穴は一階ごとにある大きな隔壁(シャッター)。ここまではいいね?」

「ええ。あの内廊下に、昇降機があるの。シャッターが開いている階まではそれで降りられる」

「シャッターが開いてないと、昇降機でも降りられないのか?」

「そ。どういうわけだかね」


 トートはやれやれと首を振る。赤毛の猫耳と尾が、それに呼応するように揺れた。


「ヤマネコ娘の言葉も、今は信頼しよう。人数が少ないからね。たっぷりの情報で武装しないと」


 ロアルは紙を一枚とり、ペンの尻を仮面の口元に当てた。

 トート曰く、【八重塔遺跡】にある昇降機は四か所、内廊下の四方に設置されているそうだ。シャッターは各階の下部、それと天井、つまりちょうど地面の高さにある。現在踏破されたのは第五階層まで、開かれたシャッターは六枚。各階に一か所、シャッターを開閉できる部屋があるため、そこまで到達できればその階層を攻略したとみなされる。


「じゃ、ここからは俺がギルドやらで聞いた話だ」


 現状、金銀財宝や魔術素材は発見されていないが、手帳や本など、考古学者や歴史学者が大喜びするものがいくつも回収されている。だが即座に金になるものではないため、深くまで潜れない、経験の浅い冒険者はあまり手を出さないということだ。いまだ開かれていない下層への期待と探求心が、今現在も、冒険者を【八重塔遺跡】へ向かわせる原動力となっている。

 その期待の根拠となっているのが、回収された手記の一篇だった。


「これ、読めるの?」


 ロアルに差し出された紙を受け取り、クリフは眉間にしわを寄せる。


「『我が国、最大の切り札がここに在る。天帝の瞳もここへは届かず』。ユーフロウ語だな」

「ってことは、大戦前の手記?」


 トートが手を出し、クリフがそちらに紙を回す。トートは紙を掲げ、首を傾げて突っ返した。革鎧を着込んだ偉丈夫は、机からやや離れたテントの隅に立っている。


「何年前だっけ。大昔よね」

「八百年」

「そんなに?」


 ロアルが驚いてクリフを見た。大声に、トートの耳がぴんと立つ。


「そう習ったが? 魔術学校の教えだ、そこまで間違いはないだろ」

「そう……そうか、じゃあ八百年ぶりに開かれたわけだ……うん」

「この遺跡が八百年前とは限らないだろ。もっと昔かも」

「いいや。ここはヴェルグストートの軍事基地だもの。戦争の時まで稼働してたさ」


 トートは大きな目をロアルへと滑らせる。ロアルは視線を受け、肩をすくめて見せた。


「ま、年代はどうでもいい。しかし、そうか。ヴェルグストートは魔術機工学に優れた帝国だった。その国、最大の切り札ね」

「帝国……。ヴェ……なんて?」

「ヴェルグストート。知らないのかい?」


 トートは首を横に振った。ロアルはクリフへ顔を向ける。


「大戦以前の歴史はぶっつり途切れちまってるからな。そもそも、どことどこが戦ったかも知らねえ人間も多いんじゃねえか?」

「クリフはご存じなんだ?」

「俺はほら、魔術師だから」

「雑談はいいから。あたし達が挑むのは第六階層。異論は?」


 トートが両手で机を叩く。クリフは半歩引き、ロアルを見やった。ロアルは小さく両手を挙げる。


「ないよ。ご随意にお姫様(プリンセッサ)

「じゃ、突入口もあたしに決めさせて欲しいんだけど」

「それはリーダーであるボクに決定権があるね」


 ピシャリ、とロアルは言い返した。


「……あたし達、一度あそこに潜ってんの。内部を知っている人間の意見は大事にすべきじゃない?」

「そうだね。けれどそれは一意見。決定権はボク」

「ご随意にって言ったくせに」


 トートは腰に拳を当て、覗き込むようにロアルを睨み上げる。ロアルは腕を組んでスッと背筋を伸ばした。


「あの第六階層はね。開放からひと月攻略されてないの。第五階層までのただの廃墟とはワケが違う。帰ってこられないパーティも一つや二つじゃない。そこから帰ってきたあたしが、先導にはふさわしいと思わない?」

「何を重要視するかの相違だね。君は自分が主導権を握りたい。ボクは、万一の時にボクとクリフを見捨てるであろう君に、主導権なんて渡したくない。クリフはどう思う?」

「……あー、うーん……フォレイルは?」


 黙っていた偉丈夫は、声をかけられてようやく顔を上げた。


「俺は……リーダーが、そこの……ええと、双剣士なら……その、それに従う」


 目を泳がせながら、フォレイルはもごもごと言う。クリフはロアルとトートに目線を戻した。


「だとさ」

「クリフの意見を聞いたんだけどなぁ?」

「逃げんなクリフォード!」

「仲良いじゃねえか。じゃ、トートはどこから入りたいんだ?」


 む、と唇を尖らせ、トートは尾を揺らす。


「北東」

「じゃあ次はお前。北東以外から入る必要性を語れ」

「ないよ、そんなの」

「んじゃ北東。決まり決まり。相性悪いのを飲み下すのも仲間(パーティ)だ。ぴぃぴぃ言ってねえで、次、決めるぞ」


 クリフは紙束を一つにまとめ、捻って足元に放る。そこに描かれていた円陣の中で、紙が燃え上がった。腰のポーチから木箱を取り出し、クリフは炎の隣にしゃがむ。


「……何よ。アルの腰巾着だったくせに。何を決めるっての?」

「そりゃ目的だよ。何のために潜って、何を達成したら出てくるのか」


 木箱からは、拳大の鉄鍋が出てきた。クリフが炎の上に鉄鍋を置くと、それは炎の先が当たる程度の場所で浮遊する。木箱には他に、瓶に入った草や鉱石の欠片、薄桃色の液体などが入っていた。


「ああ、その共有は確かに。ボクは最下層まで行くつもりだけど、君たちは?」

「は……。そんな無茶」

「無茶かどうかは、ボクたちが決める。今問うてるのは、君たちの目的だよ」


 鉄鍋いっぱいの水に、クリフは指先ですりつぶした葉を二種類、鉱石の欠片を一つ入れる。水の表面が泡立つと、そこに小指よりも小さな匙を突っ込んで掻き回す。フォレイルはすすっとクリフの隣に移動すると、盾を置いて膝を折った。


「あたしの目標は第六階層の攻略。あと、あの階層にいるバケモノをなんとかすること」

「バケモノ? 君たちが言う魔族(ベスティーガス)とかいうやつかい」

「魔族は肉体があるわ。分からないからバケモノなの。黒くてうぞっとしてて、ぐにゃぐにゃで、わゃーって感じの」


 トートは両手を広げて指をうねらせるが、ロアルは首を傾げるだけだった。


「ま、会ってみれば分かるか。生き物なら斬れるし、斬れないならそこはクリフが何とかするでしょ」

「あんたねぇ」

「できるよね? 魔法使い君!」


 舌打ちを返し、クリフは匙で鍋の縁を叩く。鍋の中身は粘度を増し、大きな泡がゆっくりと弾けた。薄橙の泡から飛び出した光が、小さな花火のように弾ける。


「俺、顕現術(赤魔術)は苦手なんだよ……」

「仮面、あんまそいつに期待しないほうがいいと思うけど? アルのサポートだけでヒイヒイ言ってたんだから」

「人間適材適所。クリフってば自己主張強いんだから、前線張ったほうがいいと思うけどね?」


 額に手を当て、「あのさあ」とトートは首を振る。


「どこの世界に、前線で戦う魔術師がいるの。そんなバカげた考え方、付き合えない。絶対無茶だもん」

「あっはっは。じゃあ一ついいことを教えてあげようか」


 指を一本立て、ロアルはおどけるように片足を浮かせた。


「ヤマネコ娘。君はクリフを捨てた側。ボクは拾った側。その意見は永遠に一致しない。お分かり? 円錐を見て三角と言うか丸と言うかの違いだよ。クリフの活かし方の議論に意味なんてないね」

「いやもう全くその通りだから、そろそろ突入しねえか?」

「君の話なんだけどなークリフ君」


 クリフの手には、橙色の結晶が四つ乗っていた。魔法陣を足で消し、クリフは結晶をトートに差し出す。


「何だよ、きゃーワタシのために争ワナイデー、とかお姫様ヅラしろってのか? 求める相手が間違ってるぜ」


 ロアルのフードの端を引っ張り、クリフはロアルにも結晶を握らせた。ロアルはフードを片手で押さえ、結晶を目元まで持ち上げる。


「これ何?」

「招福の薬。飲んどけ。死ににくくなるから」


 苦々しい顔で、フォレイルも結晶を受け取る。トートは鼻をつまみ、結晶を口に放り込んだ。


「マズイのかい?」

「良薬は口に苦しだろ。招福は空き地味ってよく言われるぜ」

「空き地……味……?」


 ロアルは結晶を指先で回し、三人に背を向けてフードの奥に手を突っ込んだ。両手で口を押さえ、フォレイルは天を仰ぐ。飲み込んだらしいトートは、しゃがみ込んで舌を出していた。クリフは口の中で結晶を転がし、派手な音を響かせながら噛み砕く。トートはちらりとクリフを見上げ、いらいらと頭を掻いて立ち上がった。


「……ああもう。あんたにまで気を遣われてちゃおしまいよ。分かったわ。少なくとも第六階層では、仮面、あんたの指示通りにする。ただし、最下層まで付き合うかはその後決める」

「悪くない妥協点だ。聡明なお姫様(プリンセッサ)で助かるよ」

「……それ、お姫様(プリンセス)のこと? バカにしないで」


 自分の分の荷物をひっつかみ、トートはずかずかと穴に向かっていった。「あー」とフォレイルがロアルを見て頭を掻く。


「その、気を悪く……しないで、くれ。気が立ってる。悪い奴じゃないし……うん、仕事は、すごく、できる……から」

「苦労性だね。彼女の機嫌と君は関係ない。それに、気を悪くもしないよ、あの程度で」


 大きな荷物を担ぎ、ロアルはフードを押さえてトートの後を追った。フォレイルの背を叩き、クリフは貸しテントを出ることを管理人に告げる。ギルドの魔術師は立ち上がり、武運を祈る、と四人に手を振った。

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