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人界に行こうと思います。

ルシフェルは天使メイド統括シェバトに連れられ、第七天アラボトを見てまわる。

被害状況を確認してまわる。


神罰が起こした現象は落雷のみではなく、付随して発生した天変地異が、アラボトのそこかしこに大きな傷跡を残していた。


景色は見るも無惨だ。

かつて果てなく広がっていた草原は荒れ地と成り果て、萌ゆる新緑に包まれていた山々は中腹から崖崩れを起こしている。


シェバトは案内を続ける。


「ルシフェル様、こちらになります」


ルシフェルは目の前の光景を眺めた。

そして青褪める。


「……う、嘘……こんなに……?」


見渡す限りの大地はひび割れ、深く陥没し、かと思うと所々では激しく隆起している。

まるでグランドキャニオンだ。

いや、それよりもっと規模が大きい。

かの大峡谷を更に抉ったようなその場所は、此度の神罰災害において、もっとも大きな被害を受けた場所だった。


「……こんなの、手のつけようが……」


尋常ならざる被害をまえに、ルシフェルは立ち尽くす。

これこそアイラリンドを眠り姫にした原因。

いまも彼女を苛む病巣――



「――はっ⁉︎」


あまりの酷さに呆然としていたルシフェルは、けれども気を取り直した。

神のタブレット端末を取り出すと『修理』アイコンをタップする。


アプリウィンドウが起動した。

ツリー項目が展開されていく。

ズラズラと連なる項目は『死者蘇生』『肉体再生』『病巣治癒』など様々で、どれもが驚異的だ。


ルシフェルは数ある項目から『天国修復』を選んで、目の前の被害跡に座標を指定した。

すぐさま実行しようとする。


けれども画面をタップしようとした瞬間、ルシフェルを激しい目眩が襲った。


「……ぅ、うぅ……」


霊子力不足による不調である。

ルシフェルはたまらず膝をつきそうになったものの、気合いで踏ん張った。

その背にシェバトが声を掛ける。


「恐れながら申し上げます。ルシフェル様、もうそれ以上、奇跡を起こされるのはおやめ下さいませ」


ルシフェルはここに案内されるまでに、目に付いた被災跡を片っ端から修復してきた。

ゆえに消耗している。


修復した被害規模はどれも比較的小規模なものばかりだったとは言え、いまの本調子ではないルシフェルでは荷が勝つのだ。

半月の眠りによって幾分かは回復していた霊子力は、もうすっからかんになっていた。


シェバトは懇願する。


「……ああルシフェル様、何卒、どうぞ何卒ご自愛下さいませ。貴方様が無理をなされて、もし再びお倒れになられようものなら、私ども天使一同は悲嘆に暮れてしまいます。その様なことはアイラリンド様も、決してお望みになりません」


ルシフェルは反省した。

そうだ。

倒れていたこの半月で、天使たちにはもう十分すぎるほど心配と迷惑を掛けてしまった。

同じ失敗を繰り返す訳にはいかない。


けれどもアイラリンドも放ってはおけない。

ルシフェルは気が逸るばかりである。


「……うん、分かった。無茶はしない。でも、あはは……」


自虐的に笑う。

情けない顔で頭を掻きながら、ルシフェルは続ける。


「やっぱり俺って不甲斐ないなぁ。ほんと、少しでも早くアイラリンドを目覚めさせてあげたいのに……」


ルシフェルが肩を落とした。

意気消沈する主人を見兼ねたのか、シェバトが控えめに話しかける。


「……あの、ルシフェル様。差し出がましいことを申し上げてよろしいでしょうか」

「うん、もちろん」

「ありがとうございます。それではルシフェル様。まずは霊子力を回復なさることを第一にお考え下さいませ。御身のご健康におかれましても、天国の修復におかれましても、大事になるものは霊子力にございますので」


ルシフェルは耳を傾ける。

霊子力。

でもそれはどうすれば回復できるものなのだろうか。


半月寝ていた間にある程度は回復していたことから、多少なり自然回復するものだとは推測できるが、積極的な回復手段をルシフェルは知らない。


だから尋ねた。


「ねえシェバト。その霊子力ってどうやったら回復するの?」

「はい。それではお教えさせて頂きます」



シェバトは説明する。

霊子力の回復を早める方法、それは人から信仰を集めることである。


かつて天上におわした神は、地上に我が子として人間を創造し、その子らからの信仰を得ることで大いに力を増した。


人の祈りには力が宿るのだ。

なればこそ、かつて神は地上に人間の楽園『千年王国(ミレニアム)』を築き、大々的に信仰を集めようとした。

であるなら、ルシフェルも同じことをすれば良い。


説明を受けたルシフェルは呟く。


「う、うぅん……。人の信仰心、かあ……」


ルシフェルは事実はどうあれ、本人の意識的には自らを大したことのない存在だと思っている。

なにせ元はただのアラサー営業マンだ。

なので自らに対する信仰を集めろとか言われても、まったくピンとこない。

というか自信がない。


(……はぁ、信仰を集めるなんて、どう考えても俺には向いてない。向いてないとは思う。でも――)


脳裏に眠ったままのアイラリンドの姿が思い浮かぶ。

ルシフェルはしばらく考えて、そして決心した。


「わかった。やってみる。どうすれば信仰を集められるかはよく分からないけど、ともかく一度、人間の住む場所に行ってみるよ」

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