神罰 vs 守護天使
屋敷の上空に守護天使たちが集結している。
各々に七元徳を司りし七大天使。
その一角『正義』の担い手である熾天使グウェンドリエルが、集った仲間たちを見回した。
「……あら? 貴方たちも、というより全員やって来ましたのね」
上空に渦を巻き、今にも下されんとする神罰に身を晒して、けれどもグウェンドリエルの態度は落ち着いたものだ。
金髪縦ロールを揺らしながら、話を続ける。
「でも良いんですの? ここは天の最高位、第七天アラボトですわよ」
アラボトはルシフェルが治める天国。
いと高き場所。
いかな守護天使たちと言えども、ルシフェルの許可なくおいそれと立ち入れるものではない。
グウェンドリエルの問いに、守護天使たちを代表して『節制』の熾天使ヴェルレマリーが応える。
「お叱りならば後ほど幾らでも受けよう。だが今はルシフェル様の緊急時。己が保身など考えも付かぬ。なにを差し置こうとも、ただ私はルシフェル様をお護りするのみだ。お前たちもそのつもりで駆けつけたのだろう?」
「ふふ。ええ、そうですわね。野暮なことをお尋ねしましたわ。ごめん遊ばせ」
グウェンドリエルに続いて、皆一様に頷いた。
ルシフェルを護る。
守護天使たちの想いはひとつだ。
天の参謀、『知恵』の熾天使ギルセリフォンが会話を引き継ぐ。
「大変だ。ジズが死にかけている。これを放置しておいてはルシフェル様がお嘆きになるだろう。ララノア、キミの『愛』で彼女を癒やしてやってくれるかい?」
「ええ、ええ。もちろんよ」
熾天使ララノアは柔らかく微笑むと、早速ジズのもとへ向かった。
ギルセリフォンが続ける。
「これでジズは大丈夫だろう。後はそうだな。グウェンドリエルは、私と一緒にルシフェル様をお護りして欲しい。神罰への対処は、セアネレイア、ヤズト・ヤズタ、ヴェルレマリー、キミたちに頼むよ」
ギルセリフォンの立てた作戦はこうだ。
まずセアネレイアが神罰を迎え撃つ。
その最中にヤズト・ヤズタが上空に渦巻く神の怒りの外殻たる超巨大積乱雲を霧散させる。
然るのち露出した神威――神罰の核となる力の渦――をヴェルレマリーが断つ。
神罰のリピートはもう解除されていることを預かり知らぬが故の、真っ向勝負である。
だが守護天使たちに否やはない。
手早く話をまとめると即座に散開した。
◆
――天に神の怒りが満ち満ちていく。
いま再び、神罰が下されようとしている。
今しがた破滅的な力で第七天アラボトを蹂躙したばかりの白光。
先は手の施しようもなかった。
けれども先と異なることがある。
それは神威を前に、その身を呈して虚空に止まる小さき光が存在することだ。
光の名はセアネレイア。
第一天ヴィロンが守護天使にして、七つの美徳のうち『勇気』を司りし熾天使。
神罰はいまにも下されるだろう。
それを見据えながら、セアネレイアは神との対話を始める。
「――大いなる神よ。偉大なる貴方と矮小なる我が身の交流。それすなわち創造・堕落・終末・救済――」
一見すると小柄で非力な少女にも思えるセアネレイア。
だがその小さき身に宿る神力は尋常ではない。
「万物は流転せり。ああ許されざるかな久遠なき罪。しかして罪は御霊に溢るる勇気により贖われる。贖いの勇気・行いの勇気・恵みの勇気。三種の勇気を持って父なる神に願い奉る」
セアネレイアが六枚の翼を開翼した。
聖光が発せられる。
光輝は広がり、遍く世界を満たしていく。
「――我はセアネレイア! 勇気を司りし神の子。父へと続く道をここへ! 我が名のもとに顕現せよ――メギドの丘!」
◇
セアネレイアの直下、そこにある大地が隆起した。
巨大な丘を形作っていく。
その丘の頂上には、荘厳なる聖門があった。
門扉は所々が朽ちており、悠久の時を感じさせる。
門は重苦しく軋みながら開いた。
その奥は真なる闇だ。
そこに小さな火が灯った。
今にも消えそうなこのか細い灯火こそは、神級武装『メギドの火』。
勇気が担い手の望むまま、如何なる形にも千変万化して敵を粉砕する超弩級装備である。
「満ちよ。無限の賛美」
セアネレイアの言葉に呼応して、灯火が揺れる。
揺れは激しくなる。
小さかった火は見る間に膨れ上がり、激しく燃え盛る炎と化した。
炎は分裂、変化する。
瞬く間に幾万幾億の砲身となって、見渡す限りの空を満たした。
◇
――天から光が降りてきた。
浄化の雷。
すなわち神の怒りである。
すでに準備を終えたセアネレイアは、迫り来る白光に向け、細い腕を伸ばした。
そして力強く言い放つ。
「父なる神よ! 貴方の子である私が、その怒りを余すことなく迎え撃つ! ――メギドの火、無限砲身形態! いくぞ、超弩級一斉砲撃!」
いま、人智を超えた究極の力がぶつかり合う。