携帯ゲーム機の歩んできた歴史
アイラリンドは抱きしめていたルシフェルから身体を離し、首を捻る。
「うーん、何故でしょう。確かにルシフェル様の御霊に神の権能は根付いています。なのに奇跡の行使どころか、それを感知することすらままならないなんて……」
ルシフェルは思わず小さくなる。
「な、なんかごめんね。やっぱり俺、ルシフェルなんて天使じゃなくて、ただの人間なんじゃあ? それもどっちかというと無能な……」
「そ、そんなことはございません! ございませんとも!」
アイラリンドは卑屈になり始めた主人を慌ててフォローした。
そして頭を悩ませる。
ルシフェルは神の権能を振るえる筈だ。
しかし出来ないと言う。
さて、どうしたものか。
うんうん呻きながら考え始めたアイラリンドを前にして、ルシフェルはボソッと呟く。
「……神の権能ねぇ。理解不能だよな。でも理解できたとして例えばどんなことが出来るんだろう。生ビールは出せるかな? なんかこう、コンソール風のインターフェースなんかで、出来ること一覧とかが見られれば、俺にも理解しやすいんだけど……」
それだ。
アイラリンドは思わずパチンと指を鳴らしそうになった。
けれどもルシフェルの御前であることを思い出して慌てて堪える。
危うく不作法をするところだった。
いやそれより今は、先のルシフェルの独り言についてである。
ルシフェルは言った。
神の権能が如何なるものか、理解ができない。
だから上手く知覚できない。
それなら神の権能をふわっと認識してもらうのではなく、もっと視覚的に、直感的に認識できるような形に落とし込んで理解を促してやれば良いのではないか。
「ルシフェル様、少々お待ちくださいませ。いま、良いものをご用意させて頂きます。あ、その前に、少々貴方様のご記憶を覗かせて頂いてよろしいでしょうか」
「……う、うん。それは構わないけど、でもプライベートな記憶は覗かないでね?」
「もちろんにございます。ではルシフェル様に馴染み深い装置を思い浮かべて下さいませ」
アイラリンドは自らの額をルシフェルの額にコツンと当てた。
互いに吐息が掛かるほどの近距離。
アイラリンドは内心ドギマギしているルシフェルには気付かずに、記憶を読み解いていく。
「……ふむふむ。ゲームウォッチ、ポケコン、ゲームボーイ、ゲームギア、ネオジオポケット、任天堂3DS、PSVita、スマートフォン。このような物が……。なるほど、なるほど。タブレット端末、これが良いですね。ええ、概ね理解できました」
アイラリンドは礼を述べてルシフェルから離れる。
そっと胸の前で手を組み、瞳を閉じた。
アイラリンドが意識を集中させる。
「……ふぬぬぬ……えいっ!」
彼女の前方、その虚空にポンっと何らかの物体が現れた。
薄い板切れの形をしている。
これは『道具生成』と呼ばれる技だ。
非戦闘要員で超天空城の管理全般を司るアイラリンドは、戦うよりこういった生産系の能力を得意として有している。
「どうぞ、ルシフェル様。こちらをお使い下さいませ」
生成されたばかりの板切れが、ルシフェルに手渡された。
それはタブレット端末のようだ。
ルシフェルが尋ねる。
「……えっと、何これ?」
「それはルシフェル様専用の補助ツール。『神の権能・奇跡代行タブレット端末』にございます」